スズキとゲームソフトメーカーのカプコンが展開するボーダーレスなコラボレーション。
前号(VOL.280)では大人気格闘ゲーム『ストリートファイター』のキャラクター「ジュリ」をモチーフとしたバイクを取り上げた。しかし両社の挑戦はそれで終わりではない。「東京オートサロン2026」で多くのファンを集めた、次なる“仕掛け”についてご紹介する。
今年1月の「東京オートサロン2026」において、スズキは「Life with Adventure」をテーマに合計9台の車輌を出展した。同社で宣伝を担当する前田敦彦氏によれば、今年のオートサロンは同社にとって「変革の1年目」の年であり、従来の「クルマの拡販」から「ファンを増やす」ことに方針を転換したとのこと。
出展車両にはそれぞれ異なる冒険テーマが投影されているが、その中でもひときわ異彩を放つのが、シリーズ累計販売本数1億2,000万本を突破した狩猟系アクションゲーム『モンスターハンター』シリーズの『モンスターハンターワイルズ』をモチーフとした2台だ。このコラボも前号の『ストリートファイター』と同じく、同社DX推進課の
そして「ノマド」という名を持つジムニーにぴったりなステージは、どんな環境も自由に駆け巡ることのできるオフロードバイク「DR-Z4S」とともに作り上げられた。


「JIMNY NOMADE MONSTER HUNTER WILDS Edition」はゲーム内で「前線基地」のような役割を担う「簡易キャンプ」から着想を得た。簡易キャンプはマップ内であらかじめ用意される「ベースキャンプ」と異なり、プレイヤー自身が各地で自由に設置できる。前田氏によれば、『モンスターハンター』の世界観に見合うネームバリューとともに「簡易キャンプ」というコンセプトを表現するには3ドアモデルのジムニーではややコンパクトだったという。その点、ノマドは卓越した悪路走破性に加え、余裕ある居住空間を備えており、結果として最適な組み合わせとなった。

もう1台の「DR-Z4S MONSTER HUNTER WILDS Edition」がモチーフとするのは、マップ内の移動などでプレイヤーの狩りをサポートしてくれる動物「セクレト」である。本格的なオフロード走破性能を誇る「DR-Z4S」がベースとして選ばれたが、どちらも使い手がまたがって移動し、非日常体験をもたらしてくれる点が共通している。
車両の製作は実際に『モンスターハンター』をプレイしているスズキのデザイナーが担当した。モンスターの皮膚を想起させる手書きのデザインに加え、オフロード用タイヤやルーフキャリアといったカスタム部分への気合いの入り方からも、「好きを原動力」にしたこだわりが感じられる。スズキとしては若年層のファンを開拓する目的が強かったものの、そのためには「モチーフとする世界観への理解と愛がなければならない」と金原氏。メーカー色を極力排し、作品の概念にフォーカスしたことがファンの共感を得たのではないかと話してくれた。


『ストリートファイター』ではすでにゲーム内でバイクのイメージがあったのに対し、『モンスターハンター』は現代的な工業技術が存在しない世界観である。そこへクルマとバイクを掛け合わせるのはなかなかチャレンジングだったはずだが、好きなコンテンツと自社製品のコラボだからこそ、デザイナーもユーザー視点のものづくりができたのではないかと金原氏は語る。そういった意味では、『モンスターハンター』の2台はより作品の本質に迫った「概念的」なコラボと言える。
カプコンとのコラボはスズキ社内にも変化をもたらした。社員は楽しんで仕事をする重要性に改めて気づかされ、『ストリートファイター』のコミュニティが社内で誕生するなど、新たなコミュニケーションも生まれた。
異業種コラボレーションはトキメキのタネとなり、新たなカテゴリやコミュニケーションを生み出す。これまでモビリティカンパニーが開拓してこなかった領域に今後も挑戦することで、新たな世界を創造していきたいと金原氏は語った。
加藤ヒロト/Hiroto Kato
