人口減少や都市への一極集中が進むなか、これからの暮らしや街づくりには何が必要なのか。
生活利便性の確保はもちろん、生活を豊かにしてくれるクルマと、どう共存してゆけば良いのか。産官学が協力して取り組んだ久喜市の街づくりプロジェクトには、これからの住まい、これからの暮らしのヒントがある。

眠れる可能性を目覚めさせた産官学の挑戦
厚生労働省が発表する2024年の人口動態統計によると、出生数と死亡数の差である自然増減数は91万9,205人のマイナスで過去最大の減少となった。都道府県別にみても全ての地域でマイナスを記録しており、特に地方においてその傾向は著しく、人口減少は喫緊の課題でありながらも具体的な成果を上げられていないところがほとんどだろう。
地方の人口が減る一方で、首都圏の新築マンションの平均価格は1億円を超え、東京23区に至っては1億5,000万円に迫る。投資的な思惑も絡むとはいえ、いわゆる「パワーカップル」ですら都内のマンションは買えなくなってきているのが現状だ。
地方の人口流出と都市部への一極集中。そんな日本において、埼玉県久喜市の街づくり推進プロジェクト「BRIDGE LIFE Platform(ブリッジライフプラットフォーム)構想(BLP構想)」は、地方における人口増加の数少ない成功事例と言える。
BLP構想の特徴は、東武鉄道、トヨタホーム、イオンリテール、早稲田大学(小野田研究室)、久喜市の産官学5者が連携した点だ。「産官学連携」は耳馴染みのいい魔法のような言葉だが、各ステークホルダーの思惑が絡み合い、関わる人数・組織も膨らむため、実際にはなかなかうまくいかないことが多いと聞く。
BLP構想は、東武日光線の始発駅でもある南栗橋駅西口から徒歩5分の場所に広がる約16.7ヘクタールの土地を開発したプロジェクトだ。埼玉県北部に位置し、人口約15万人の久喜市は、東京都心まで約50㎞の通勤圏内にあり、東北自動車道と圏央道も通るなど移動の便が優れているにもかかわらず、近年は人口流出に悩んでいたそうだ。
BLP構想の始まりは元々東武鉄道が所有していた約9.5ヘクタールの遊休地だった。この土地はバブル崩壊やリーマンショック、東日本大震災による周辺地域の被害などもあり、長らく開発が保留にされていたという。その間、この土地は駅から住宅街への通り道として地域住民に利用されていたものの、草が伸び放題で見通しも悪く、夜間は特に暗く人通りも少ないため、防犯上の不安を抱える住民も少なくなかったそうだ。そのように長年放置されていた空間が、BLP構想と、その中心となる戸建街区である『BLP南栗橋SMART VILLA(スマートヴィラ)』の誕生によって一変した。居住者はもちろん、周辺地域の住民にとっても防犯上の懸念が払拭され、街ができたこと自体が地域へのプラスに転じたのだ。

今回、街を案内してくれたトヨタホーム 分譲開発事業部の尾崎彰彦氏はこう話す。「(開発にあたり)東武鉄道さんが、トヨタホームが川越でやっている大規模な戸建ての街づくりを見たことがきっかけで弊社にお声がけいただきました。我々(トヨタホーム)も開発を進めるのであれば、行政の協力がないと進めるのは難しいと感じたので、行政を巻き込んで久喜市・東武鉄道・トヨタホームの3者で『地域活性化モデル』を作るところからスタートしました」
東武鉄道は自社の強みを最大限に活かし、駅舎のリニューアルを実施するとともに南栗橋駅への特急列車の停車を決定。交通利便性を高めることで、新たな街の土台を整えた。また商業施設誘致の要としてイオンリテール、さらに自動運転の実証実験などを行う早稲田大学の小野田研究室が参画したという。「生活する上でスーパーは大事ですよね。数ある流通企業の中でイオンリテールさんとご縁があり、街開きに合わせて戸建街区の隣に“イオンスタイル南栗橋”をオープンしました。食品だけでなく日用品などの生活雑貨も扱ってもらっています」(尾崎氏)。近隣は戸建住居が多いことから、駐車場の一画にドッグランを併設し、地域のイベントでは軽食を販売するなど、地域に根ざす活動にも積極的に取り組んでいる。
徐々にステークホルダーが増えていったBLP構想のプロジェクト。尾崎氏によると、各社の役割を“明確に決めすぎなかった”ことが結果的にプロジェクトの成功につながったという。「久喜市には、地域を活性化するビジネスモデルをともに進めることで、人口減少や若年層の少なさといった地域課題の解決につなげたいと提案しました。街づくりを進めるうえでは、行政にしかできない規制の見直しや警察との調整、補助金の申請に加え、もともと行政が保有していた隣接公園の整備などにも協力いただきました」(尾崎氏)

人々の想いが引き出した街のポテンシャル
BLP南栗橋の大きな特徴は、扇形をした街並みだ。「ウォーカブルな街づくり」をコンセプトに、クルマの出入り口となる「タウンゲート」を2ヵ所に絞ることで、中を走るほとんどが居住者のクルマとなる。交通量も少なくなり静かで、安全面や防犯面にも優れている。さらに道路が緩やかなRを描く「ラウンドデザイン」をはじめ、「センターサークル(ラウンドアバウト)」といった特徴的な街並みが広がり、まるで海外ドラマの世界に入り込んだかのよう。「“歩車分離”と“歩車共存”を組み合わせているのが特徴です。クルドサック(仏語で袋小路を意味する行き止まりの道路構造)では道路に面した家の住人のクルマしか入ってこないので、広場のような活用の仕方もできます」

また道をラウンドさせてセンターサークルに植栽を植え、わざと見通しを悪くすることで自然とクルマのスピードを抑制する効果もある。「“丸い放射線状の道を作りたい”と言っても大抵は行政に断られてしまうんです。管理しにくいからです。でも、広場で子どもたちが安全安心に遊べるといったメリットを説明したところ、久喜市はそれに応えてくれました」(尾崎氏)
ラウンドした道路に沿って一軒一軒表情の異なる住居が配置されたことで、画一的でない景観の美しさにつながっている。家と家の間には塀を設けず、代わりに家々の植栽が緩やかな境界を作り、死角が減って防犯上の効果も生まれている。街区に設けられた遊歩道には隣人との“ちょうどいい距離感”が生み出す暖かさが漂い、早稲田大学の小野田研究室による自動配送モビリティの実証実験の場としても活用されている。


そうしてできあがったBLP南栗橋だが、この街最大の魅力が桜並木沿いの遊歩道だ。元々地域の生活道路だった川沿いの桜並木を、車両が通れない遊歩道に転換したのだ。取材当日はちょうど桜が満開で、住人だけでなく近隣から訪れた人たちがベンチに座り、お弁当を食べたり桜を撮影するなど思い思いの時間を楽しんでいた。尾崎氏もその光景を見て「思い描いた通りです」と満面の笑み。「最初から遊歩道にしようと計画したのではなく、5社が現場で議論していく中でふっと湧いたアイデアだったんですよ。以前は違法駐車が横行し、せっかく桜が咲いても地域の人が桜を楽しめる環境ではなかったんです」

尾崎彰彦/Akihiko Ozaki

現在では、家族三世代で花見をする姿も見られ周辺住民にとっても憩いの場となっている。「久喜市の都市計画課の方が非常に頑張ってくれたことが街づくりの成功に大きく寄与しています。久喜市としても人口が減少する危機感が大きかったのだと思います」

産官学の連携がうまくいく例は多くない中、このプロジェクトが機能したのは、ひとえに関わった人たちの「気持ち」によるものだったと尾崎氏は振り返る。「できそうもないこと」を誰かが口にすると、「どうせ無理」と最初から諦めてしまうことは珍しくない。だがここでは違った。誰かがふと口にしたアイデアを、別の誰かが受け取り、それぞれが自分のできることに前向きに取り組んだ。人口減少という共通の危機感がその土台にあったにせよ、この街が生まれた背景には、関わった全員の誠実な意志があったのだ。都心へのアクセスの良さや桜並木といったもともとのポテンシャルを、産官学が一体となって引き出した好事例であろう。どちらが良いか悪いかではないが、資産価値だけで測られる都心のマンションでは決して味わうことのできない、手触り感のある豊かな風がこの街には流れている。

BLP南栗橋 SMART VILLA
[物件概要]所在地:埼玉県久喜市南栗橋8-1-1他 最寄駅:南栗橋駅(東武日光線始発駅)から徒歩5~8分 用途地域:第二種中高層住居専用地域) 開発区域面積:38,202.34㎡ 建ぺい率・容積率:60%/200% 総区画数:172戸 地目:宅地 構造・工法:軽量鉄骨造2階建て(鉄骨ラーメン構造) 現在も販売中。詳しくは物件HPヘ。



ハシモトタカシ Takashi Hashimoto(右)
