これまでの暮らしとこれからのくらしを巡る旅-Vol.3-「いつも」と「もしも」で暮らしを守るムーブコア

文・ハシモトタカシ 写真・淵本智信

前号(Vol.280、2026年3月号) では、ミサワホームの『ムーブコア』が、半世紀以上にわたる南極・昭和基地における建設サポートで培った技術によって生まれたことを紹介した。

今号では、『ムーブコア』が実際に私たちの暮らしのなかでどのように活用されているのか、またどのように活用されていくのかについてご紹介する。

ランドクルーザーで牽引される『ムーブコア』

 前号では、ミサワホームが提案するトレーラーハウス「ムーブコア」のルーツをたどった。

 では、極限の大地である南極での共同実験で培った技術を活かしたムーブコアは、私たちの生活にどのようなインパクトをもたらすのだろうか。

 ムーブコアは一見すると、近頃日本でも増えてきたトレーラーハウスと同じように見える。筆者も以前、ロードサイドのトレーラーホテルに泊まったことがあるが、一夜を過ごすならこれで十分と思いつつも、無機質で殺風景な内装は味気なく温もりもなかった。

 ムーブコアは、「いつも」と「もしも」という2つの考え方のもと作られている。普段(いつも)は、宿泊施設やカフェ、ワーケーション施設として活用し、災害時(もしも)には応急仮設住宅として転用することを想定しているそうだ。

 この「いつも」と「もしも」をシームレスに行き来できることが、一般的なトレーラーハウスと異なるムーブコアの特徴なのである。

 そんなムーブコアに足を踏み入れると、そこは20フィートコンテナのサイズに収まった「家」だった。扉を閉めて最初に驚くのは高い遮音性だ。ムーブコアを手がけたミサワホーム総合研究所の秋元 茂氏は、「このあたりは夏に蝉の鳴き声が響きわたるのですが、窓を閉めればほとんど気にならなくなります」と話す。

 その秘密は、前号でも触れた「木質パネル接着工法」だ。気密性と断熱性が高く、停電時でも外気温の影響が低減できる。さらに、エアコンの使用量を抑えることができ、オフグリッド住宅(*)としてもメリットが大きいそうだ。ミサワホームのコア技術が「いつも」の快適性と「もしも」の対応力を支えている。

*電力会社の送電網(グリッド)に接続せず、太陽光発電や蓄電池などを活用して、家庭で使う電気を自給自足する住宅

 そして、室内にほのかな木の香りが漂っていた。木材をふんだんにあしらうことで、嗅覚としても視覚としてもホッと落ち着く空間に仕上がっている。

 「木の香りや感触にはリラックス効果があるんです。災害時のような緊張感の高い環境で少しでもリラックスできるように、木を多く活用することを考えています」

ミサワパーク東京に設置された2台のムーブコア。室内は、一つは「いつも」、一つは「もしも」を想定して整えられており、それぞれに異なる工夫が施されている。ぜひ現地で見比べてほしい。

 大地震が起きると、いつまた大きな揺れに襲われるか不安な日々を過ごすことになる。「3・11」で被災した母が「家があればなんとかなる」と言っていたのを思い出した。家というのは自分を守ってくれる最後の砦なのだ。

 木質パネル接着工法は耐久性が高いのも特徴だ。今回筆者が訪れたムーブコアは、建造から5年が経過しているそうだが、歪みや壁紙の剥がれなどは一切ないという。5年も経つと、住宅でも作りが悪いと壁紙が剥がれてくる時期だ。

 「このムーブコアは名古屋で作ったものなので、展示場へは東名高速道路を通って運ばれてきました。さらに、車検場やいろいろな展示会にも引っ張っていきますが、クロスは1つも破れていない。これが耐久性の高さを表しています」

 さらに秋元氏は面白いことを教えてくれた。なんと、ムーブコアは構造計算まで行って作られているのだ。

 「ムーブコアは、ミサワホームの住宅を作るリソースで作られています。一棟一棟、住宅設計用CADで作っていて、自動的に構造計算も行われます。構造計算をパスしなければ生産ラインにデータが飛ばない仕組みなんです」

 「耐震等級」は3相当を獲得し、石膏ボードを使用し燃えにくい。トレーラーには乗っているが、ミサワホームが作る住宅と同じクオリティなのは、いわば必然なのである。

❶コンセント電源から電気を供給しているが、オフグリッドを想定すれば「もしも」の際の活用もさらに便利になる。❷独自の収納スペース「蔵」は、室内外からの出し入れが可能。❸エアコンや給湯器も完備され快適だ。❹トレーラーはスタビライザージャッキでしっかり固定されている。

 その一方で、秋元氏は次のようにも話す。

 「20フィートのコンテナサイズにはこだわっています。もともと南極には船で運ぶ必要があったのですが、地球のどこにでも持っていけるようにするためには、ISOのコンテナ規格の方が都合がいいんです」

 ムーブコアは現在、宿泊施設である「JRモバイルイン函館」として活用されているが、函館のムーブコアは北海道の工場で組み立てられ函館まで陸路で運んだそうだ。

 「普段は10トントラックで運搬するんですが、実証も兼ねて『ランドクルーザー』と『タウンエース』で搬入しました」

 災害時に10トントラックはなかなか確保できないが、牽引免許が必要とはいえ、ランドクルーザーなどで運べれば災害時の対応力も高まるだろう。

 また、3.5トン以下に収める必要があるため、軽量化も重要だそうだ。外壁は軽量な金属系のサイディングを用い、内部もグラム単位で重量を削ったという。まるでグラム単位で部品の無駄を削ぎ落とし、徹底した軽量化を目指した「ロードスター」の「グラム作戦」のようだ。

 ここまで「もしも」の備えについて述べてきたが、では「いつも」の活用例はどうなのだろうか。

 ムーブコアは、函館のほかにも新潟県のスキー場などで宿泊施設として活用されている。箱ものをイチから建設するには、リスクもコストも重くのしかかる。しかし、簡易ホテルではゲストを満足させられない。函館は「オリエント急行」を模した落ち着いた内装になっているそうで、インテリアデザイナーが在籍しているため、ユーザーニーズにきめ細かく対応できるそうだ。

 さらに、使い捨ての仮設住居と違い、リユースできるのも強みと言える。秋元氏は次のような展望を述べる。

 「今後リニアモーターカーができれば、山梨県や長野県が現在より(時間的に)近くなりますよね。そうするとわざわざ都心近くに住む必要もなくなるので、自治体が災害用に保有しながら、普段は移住する人のための『お試し用住宅』として貸し出すといった活用も考えられます」

 1週間程度住んでみてその土地が気に入れば、土地を買って家を建ててもらう。そしてそのムーブコアは次の移住希望者へと貸し出される。そんな新たなサイクルを構想しているという。「もしも」に備えながら、「いつも」を犠牲にしないのがムーブコアなのだ。

ミサワパーク東京に設置されたムーブコアの室内の様子。トレーラーハウスとは思えない温かみのある空間で、窓を閉めると静けさが広がる。「いつも」のときも「もしも」のときもほっと寛げそう。

 ムーブコアは変化に対応しやすく、可能性は無限に広がるように思える。一方、「土地だけ買ってこれに住めばいいじゃん」と思う人も出てくるだろう。筆者もそう思った。住宅メーカーにとって、ムーブコアはディスラプターにはならないのだろうか。

 「例えば、老朽化したホテルをリニューアルする際、全部一気にやると休業する必要があります。でも、そのホテルと同じクオリティのムーブコアを駐車場に置いて営業を続け、その間にミサワホームがホテルのリフォームを請け負えば新たなビジネスになります。時代は変わっているのに、家はずっと変わっていない。でも変化は必要なんです」と秋元氏。

 強靭なモノコック構造に秘められた柔軟さ。ムーブコアには、「家は一生もの」という従来の価値観を変える可能性がある。

 ガソリンからハイブリッド、さらに燃料電池車やバッテリーEVなど、クルマにも様々な選択肢が増えているが、住宅にも変化が求められる時代になったのかもしれない。

2026年1月に開業した「JRモバイルイン函館」

部屋からは駅に発着する列車を眺めることができる。寒さの厳しい冬期や駅隣接地という環境下においても、ムーブコアなら、高品質な住環境が実現できる。建物は建てられない立地でも“クルマ”であることが強みとなり、今後、さらに活用の場は広がっていくだろう。

MISAWA PARK TOKYO

ミサワパーク東京:東京都杉並区高井戸東2-4-5完全予約制。詳しくは下記QRコードからHPヘ。

ミサワパーク東京は住まいに関わる先進技術や住宅性能などを体感しながら学べる“住まいのテーマパーク”だ。❶❷ミサワホームの「木質パネル接着工法」は、構造耐力上、画期的な工法と言われている。工場で生産された高強度の木質パネル同士を面で接合。建物全体を一体化して強固な「モノコック構造」をつくる。地震の力を面で受け止めて分散させるため、非常に高い耐震性を誇り、創業以来、地震による倒壊ゼロの実績を誇る。❸ミサワホーム独自の制震装置「MGEOエムジオ®」は高い地震エネルギー減衰効果で地震エネルギーを最大約50%軽減。激しい揺れを繰り返す巨大地震に対しても、継続的に効果を発揮するよう設計されている。❹ 9cm×9cmの木質パネル1枚が、0.5tのバイクを持ち上げる。この様子も同施設で実際に見ることができる。

秋元 茂 Shigeru Akimoto(右)

ミサワホーム入社後、建物の設計・技術開発に従事。1997年より南極向けの建物設計や部材製作に携わる。2009年、第51次南極地域観測隊(越冬隊)に参加。先遣隊として道路整備や基地設備の改修などを主導し、過酷な環境下での設営業務を完遂し、2011年3月に帰国。現在はミサワホーム総合研究所 R&D戦略室センター長を務める。

ハシモトタカシ Takashi Hashimoto(左)

宮城県出身、36歳。大学時代はプロダクトデザインを専攻する傍ら、自動車系ニュースサイトで学生記者としてアルバイト。卒業後は大手自動車ポータルサイトに入社し、約10年間広告営業、編集としてコンテンツ制作に従事し、独立。愛車でサーキット走行に興じる傍ら、バイクを3台所有し、大型二輪免許も取得する無類の乗り物好き。

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