アフリカで中国製EVの販売台数が急増している。
そんなニュースを目にした人も多いだろう。たしかに数字は嘘じゃない。エチオピアでは新車登録の60%近くをEVが占め、その多くが経済的な結びつきの強い中国製になっている。しかし、その現場で何が起きているかに目を向けると、阿鼻叫喚の事実が浮かび上がってくる。
エチオピア政府は2023年末、ガソリン車の輸入を禁止し、EVへの切り替えを国民に強制した。背景には財政破綻がある。中国主導の巨額インフラ投資を行った結果、石油輸入に使う外貨さえ底をつき、EVへの完全移行を決めたのだ。ずいぶんと乱暴な解決策だが、彼らなりの理屈はあった。電力は中国が資金援助した巨大ダムがあるから賄える、と。だが現実はそう甘くはない。今年3月には電力システムが25日間ダウンし大規模停電が発生。原因は野生の猿が変電所設備に接触したためだという。これにより鳴り物入りで導入した多くのEVが文鎮化した。
脆弱なのは電力インフラだけではない。全国に数百ヵ所ある充電ステーションは首都に集中。一歩外に出れば絶望的だ。ガソリンも不足しているが、そんな状況でも国民が選ぶのはEVではなく、エンジン車だ。実際、同国では20年落ちのトヨタ・ヤリスが200万円超で売れている。政府の補助で大量流入したEVは中古市場で激安になる一方、古い日本車は値上がりを続けているのだ。
これが現実である。たとえガソリンが不足していても、「確実に直せて、確実に売れる」クルマだけが信頼の対象になる。エチオピア国民にとってクルマは移動手段であると同時に、インフレから身を守る資産でもあり、EVはその役割をまったく果たせていない。
EVの販売シェア60%という数字は嘘ではない。しかしそれは市場が選んだ結果ではなく、選択肢を奪われた国民に押しつけられた数字だ。アフリカのみならず、新興国でのEV急増の背景には、大なり小なりこうした事情がある。メディアが報じるこの種のニュースを読む際は、その背景にどんな事情があるかを知り、冷静に分析しなければ、ミスリードの餌食になってしまう。

Goro Okazaki
