岡崎五朗のクルマでいきたい Vol.207 「走るスマホ」の価値

文・岡崎五朗

SDV(Software Defined Vehicle)という言葉を耳にする機会が増えた。

 ソフトウェアで機能を更新し、買った後もクルマが進化する。「走るスマホ」と説明されることも多い。だが、その価値を誰もが同じように感じているわけではない。デロイトの2026年調査では、SDVを「役に立つ」と答えた割合はインド81%、東南アジア71%、中国68%。一方、日本とドイツは33%、英国38%、米国41%にとどまった。

 先進国のユーザーは新技術に保守的なのだろうか。僕はむしろ逆ではないかと思う。先進国ではスマホの前にクルマが普及し、認識率の低い音声認識や使いにくいナビなどを散々経験してきた。J.D. Powerの調査でも、こうした車載ITは日本でも米国でも長く不具合指摘の上位だった。

 一方、新興国ではクルマより先にスマホが生活の中心になった。クルマのことはまだよく知らなくても、スマホの便利さは知っている。だからクルマにも同じ体験を求めるということなのだろう。

 面白いのは、新興国では無線アップデートでクルマの性能や安全性が向上することに期待している人が多いことだ。つまりデジタル価値だけを求めているわけではなく、価格、燃費、信頼性、耐久性、資産価値といった従来の実利的価値の上に、スマホ由来の新しい期待が積み重なっているのである。しかし、スマホだって2〜3年使えばバッテリーは劣化し、やがて本体を買い換える。ハードあってのソフトであることは、先進国のユーザーほど身をもって知っている。そう考えると、新興国でのSDV熱がさらに高まると考えるより、むしろ徐々に冷めていく可能性が高いと僕は見ている。無線アップデートをしたところで、結局のところすり減ったタイヤが元に戻ったり、ボディのガタピシ音が収まることはないのだ。

 テスラオーナーになってみて、SDVは体験する前ほど魅力的で、体験した後ほど普通になる技術だと感じている。機能が増えることと価値が増すことは同じではない。最後に問われるのは、やはり「クルマとしてどうなのか」であり、SDVの価値はそれが満たされた先のオマケのようなものなのだと僕は考えている。

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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