この連載がスタートしておよそ1年、これまで交通という切り口で様々なテーマを取り上げてきた。
高齢者や外国人ドライバーによる交通事故問題、労働人口減少に伴う物流・移動問題、顕在化してきた交通インフラの老朽化ー。様々なテーマを追う中で浮かび上がってきたのは「これまで〝当たり前〟と思っていたものは、すでに当たり前でなくなっている」という事実であり、これからの私たちはそれを受け入れる覚悟を持たねばならない、ということだった。
問題の根源は人手不足にあるものが多く、「これまで男性メインだった業界に、どうやって女性に入ってきてもらうか」ということも、昨今の社会問題解決に向けた取り組みのひとつとなっている。
今回は、女性にはハードルが高いと思われている建設業界で働く女性2人に、建設現場の〝慣習〟に対する課題と、働く女性を増やすための改善策についてお話を聞いた。

建設業界を目指したきっかけ
─お二人とも、実際に動かす方と販売される方という違いはあるものの、重機を扱うお仕事という意味では共通されていますね。それぞれのお仕事内容をお聞かせください。
山本
─
東 香織(以下、東)もう10年くらいになりますね。
ー 子供の頃から重機に興味を持たれていたんでしょうか。
東全然! 運転免許も子供が生まれてから取ったくらい、乗り物に興味がありませんでした。
山本そうだったんですね。そこからどうやって重機オペレーターの道に進まれたんですか?
東子どもが2人いるんですが、下の子が1歳ぐらいの時に掃除のパートをしていた職場の隣で工事をしていたんです。日に日に光景が変わっていく現場のかっこよさ、重機のあのダイナミックな動きに魅せられていたんですが、同時に、私みたいな全く業界を知らない人が興味を持っちゃいけない世界だと、気持ちに蓋をしていました。
ある時、その重機から全身青色の作業着のおじさんがコロンと降りてきたんです。「ドラえもんだ!」と親近感を感じるともに、「自分でも扱えるかも?」との思いが生まれました。その後、その方に声をかけたら、重機を操作するのに必要な免許を教えてくださって。免許取得後に同じ会社で働かせてもらえることになった、というのがきっかけですね。
山本すごい行動力です!
東すぐに行動しちゃうタイプなんです。最初は、会社のストックヤードで作業をしていたんですが、やっぱり重機オペレーターというのは現場に出てなんぼなんですよ。上手くなるためにも現場で経験を積みたい。そこでその会社に6年勤めて修行した後、2021年に独立。後に法人化し、去年その〝ドラえもん先輩〟を雇用させてもらいました。私の恩人であり、その方のおかげで今ここにいられると思っているので、感謝しています。
現場の悩み~トイレ・紫外線・暑さ
─今、実際に重機を操作する女性は、全国で何人ぐらいいるんでしょう?
東インスタグラムで知っている方だけでいえば30人くらいでしょうか。
山本YUASAも4割ほどの女性社員がいるんですが、実際に重機を動かしているという女性に会う機会はなかなかありませんね。
─女性にはハードルが高そうな業界に見えますが、女性ならではの悩みはありますか?
東やっぱり現場の環境ですね。民間の現場ではトイレが置かれないことが多々あります。男性であれば外でサッと済ませられても、女性は難しい。インスタを始めたのは、そもそも重機のカッコ良さを伝えたかったからですが、現場に出てからは「労働環境をもっと知ってもらい改善に繋げたい」という思いも加わりました。
また、紫外線も気にしています。この間、将来出てくるシミを映し出すカメラで見てもらったら、見事に左側だけシミがとても多かったんです。ユンボは右側はブーム(油圧ショベルの仕事をする腕のこと)で陰になりますが、左側は紫外線カット機能がないガラスを通じ、直接太陽光を浴び続けることになるんです。ですからシワも増えますし、その環境を改善してほしいというのが、重機のキャビンの中で一番感じていることです。
山本私の所属部署にもヤードで重機を動かす女性がいるんですが、その方は紫外線アレルギーで、それこそ1年中長袖でフェイスマスクをしながらの作業。暑い中でかなり大変だと聞いています。女性だけでなく、重機の中の環境負荷には男女問わず悩まれている方が多いんじゃないでしょうか。
─紫外線は美容面だけでなく、健康被害を引き起こすことでも知られています。業界内では、長年重機オペレーターをされている現場の方の目が見えにくくなる事例、つまり白内障になるケースが起きていると聞きます。
WHO(世界保健機関)の報告によると、白内障の約20%は紫外線に起因するとも言われますが、東さんは現場でお仕事をされて、そのようなリスクを感じることはありますか?
東ありますね。実は男性も紫外線には気を遣っていて、シミはもちろん、目の健康をとても意識しています。対策の一つとしてサングラスがありますが、重機は人を殺めてしまう可能性があるので、個人的にはフレームやレンズの濃さが作業の邪魔になると感じることもあり、極力かけたくないなと思うこともあります。どちらを優先すべきか、悩ましいです。
─それは現場にいないとなかなか気づけない視点です。でも、そもそも重機の窓はUVカットガラスではないんですか?
東UVカットではないんです。かつてメーカーさんにかけ合ったこともあるんですが、それぞれの事情があり「標準ガラスをUVカットにはできません」と言われてしまいました。
─加えて暑さの問題もありますよね。一度乗せてもらったことがあるんですが、中の温度がとても高くてびっくりしました(下記グラフ参照)。
東「冷房を使えばいいのに」と思われるかもしれませんが、女性の場合、例えば生理前など体調変化の浮き沈みがある時に冷風を浴びると、すごく悪化することがあるんですよ。身体の下だけ冷えて、上は直射日光で顔だけのぼせている。こんな状態で作業することになるので、冷房だけでは体調コントロールがなかなか難しいのが現状です。



労働環境の改善につながるaheadフィルム
─一方で、昨年6月から職場での熱中症対策が義務付けられるようになり、特に屋外作業の多い建設業界は対策が急務となっています。建設業界の中には、例えば重機の窓ガラスに「aheadフィルム」(上写真)のような、熱さの元である赤外線を最大99%、紫外線を100%カットできる高機能フィルムを貼ることで、紫外線や暑さからオペレーターを守る動きも出ています。
東実は「UVカットガラスにできない」と言われた時に、一度諦めていたんです。なので熱までカットできるこのようなフィルムがあると知って、すごく画期的だなと思いました。ただ、元請けさんの自社機械には貼ってあったとしても、残念ながら私たちがよく乗るのはリース機械。仮に貼れたとしても返す時に剥がさなきゃいけない。ですので、現場で働く私達が使うのはなかなか難しいんです。
─解決策があっても、現場で働いている方が使える状況になっていない、ということですね。
東おっしゃる通りです。私たち末端の人間の声は届きにくい。それを実現してくださるのはやはり建機メーカー、リース会社の方ですので、ぜひフィルムを貼ることを検討していただきたいです。重機は現場の要ですから、中で働くオペレーターの健康のためにも、労働環境改善につながる動きにもっと目を向けてもらいたいなと願っています。

地道な発信が、重機女子を救う
─東さんは、建設業界の現状に問題意識を持ち、問題解決のために積極的に行動されていますね。
東昨年は、私を含む同じ立場の女性数名で、小池東京都知事に現場のトイレ事情を直談判する機会をいただけました。都知事も初耳だったそうで「ぜひなんとかしましょう」と言ってくださり、今年度の東京都予算に盛り込まれることになりました。トイレだけでなく更衣室や休憩室なども含め、女性専用設備の整備費助成が決定しました。
─考えてみれば、働く場所にトイレがあるのは「当たり前」ですが、これまで男性社会中心の「当たり前」で来ていたんですね。様々な現場で人手不足が深刻な中、こうした感覚を変えることが求められていると感じます。
山本今後、建設業界で働く女性を増やすためにも、東さんがこれから考えていることはありますか?
東やはり発信することです。インスタを始めて10年になりますが、その原動力は何かというと、やっぱりこの労働環境を改善したいという思いです。大好きな重機に出会ったからには、この仕事をおばあちゃんになるまで続けたい。でも実際には紫外線やトイレなどいろんな問題があって、そこを改善しないと多分続けられない。じゃあ何を変えていけるかって考えた時に、私はやっぱり発信するしかない、共感を得るしかないと思ったんですね。小さな声でも小池都知事のように認めて実現してくれている人もいるので、やはり発信し続けていくことが大事だなと思っています。

業界別 就業者中に占める女性の比率
各産業で働く女性の比率に目を向けると(上グラフ)、2024年の全産業における女性比率は、平均が45.5%であるのに対し、建設業界は18.2%、さらに技能者に限定するとわずか2.5%に過ぎない。とはいえ、建設業の女性就業者数は2018年以降80万人台で推移しており、2024年は87万人。このうち、東さんのような技能者は少ないものの、2024年は過去最高の約4万人となっている。
建設業界における女性の就労率や定着率を上げるため、国と企業は連携して男性中心の業界構造見直しを進めており、昨年には「トップの意識を変え現場の意識を変える」ことを重点に策定された新たな計画がスタート。東さんたちが訴えている「現場における快適なトイレ環境の導入」もその一つに含まれている。
グラフ出典:総務省「労働力調査」
村上智子 Tomoko Murakami
