この世に「美」に関わる言葉は多い。美術、美味に美談もある。
オートバイ系なら造形美に機能美か。私にとって「美文」をもっとも最初に実感したのは三島由紀夫だった。処女作『花ざかりの森』から遺作となった『豊饒の海』まで多くの三島作品に触れてきた。美しい日本と日本人のこころの襞を、たおやかに描き出す三島ならではの文体に引き込まれたのだ。私にとって三島は思想の右、左ではなく、何処か泥臭く、時代を的確に捉えながらも流行作家と呼ばれることを嫌い、自分の原点と美に目を向け続けた人でしかない。
三島が大きく変革したのは人生初の西欧の旅で出会った「アンティノウスの像」だと言われている。ひ弱な「文」の人である三島が、アンティノウスのような肉体美の「武」を身につけるきっかけになったのだ。それは「知」だけでなく「行動」を伴うことの始まりだった。劇作家としても頭角を現していく三島がボディビルで肉体改造を進め、剣の道も歩みはじめたのである。
1950年代半ばのちょうどその頃、日本には零細企業を含めて150社を超えるオートバイメーカーが林立していた。60年代半ばになるとオートバイ生産台数で日本は世界一となり、レースでも上位を独占した。ホンダが主役だった。量産市販車として世界トップの動力性能を誇るCB750フォアが1969年にデビューし、名実ともにホンダが世界の頂点に立った。
翌1970年、文学界ですでに中核的存在であった三島は、「憂国悶々の情」から生まれた「楯の会」代表として市ヶ谷駐屯地に乱入。そして自決した。幕末の思想家である吉田松陰の処刑された旧暦の10月27日と奇しくも合致する11月25日だった。
世界を追いかけ、とりわけ巨大な北米市場を睨んで生まれたCB750フォアやカワサキZ1登場の背景を三島が知っていたら賞賛に至らずともその志に共感を示しただろう。翻って現代の日本のオートバイはどうか。40年も50年も昔の姿と色合いを模した、まさにレトロ調のオートバイが売れ筋として街を
過去の事例で言うならVMAXがこれにあたる。馬力数値や最高速度を求めてなどいない。巨体に包まれて味わう怒涛の加速感。VMAXは、そのためだけに存在した。さらに加えるならMT-01。今なお最も美しいV型2気筒エンジンの造形美を誇り、VMAX同様、未来のために遺すべき逸品であった。いずれも狂気の溢れるオートバイだ。フォルムも乗り味も、好きな方だけどうぞという作り込みが痛快だった。
そして今、アジア各国の新興勢力のオートバイたちは切れ味が鋭そうな出立ちで成長が凄まじい。エンジン性能も操縦性も信頼性も急速に進化している。レースの世界でも一部ではあるがすでに追いつかれ、抜かれつつある。生産量もいずれ日本に迫りくるだろう。またBMW、ドゥカティ、ハーレーダビッドソンなどプレミアムブランド勢力は、より強い布陣を整えている。日本の4社はすでにこの挟み撃ち状態にあるが焦る必要はない。日本メーカーは得体の知れない流行りを追うより、冷静に自分のあるべき姿を問い続ければ良い。時代に翻弄されない自分の立ち位置を確立すべきだ。「美は目にみえる姿形だけを指すのではない」もしも三島由紀夫が日本のオートバイのことを理解していたら、きっとそう言うに違いない。

YAMAHA VMAX 1700(2012年)
エンジン:水冷4ストロークDOHC4バルブV型4気筒
装備重量:311kg
最高出力:111.0kW(151ps)/7,500rpm
最大トルク:148.1Nm(15.1kgm)/6,000rpm

YAMAHA MT-01(2007年)
エンジン:空冷4ストロークOHV4バルブ2気筒
乾燥重量:243kg
最高出力:66.3kW(90ps)/4,750rpm
最大トルク:150Nm(15.3kgm)/3,750rpm

柏 秀樹/Hideki Kashiwa
