編集前記 Vol.45 三島由紀夫は一過性のブームなのか

今年の春に開かれた『クラクションvol.2』の出版パーティーのスピーチでモータージャーナリストの柏 秀樹さんが三島由紀夫について触れる場面があった。

 柏さんは学生運動に参加しながらも三島文学に魅了されていたという。三島といえば日本を代表する文豪ではあるが右翼思想家でもある。それに対して学生運動は左翼思想に基づいた活動なので本来なら相容れない関係だ。しかし柏さんは、その矛盾を抱えたまま三島由紀夫に傾倒していったのである。

 この件以外にも一昨年あたりから三島由紀夫についての話題を目にするようになった。少し前までは三島は右翼活動家と混同されて眉をひそめる人も多かったが、アメリカでは保守層が増えたことで三島が注目されているらしい。思想史家の先崎彰容せんざきあきなか氏曰く、「アメリカのスタンダードと思っていたものを批判することがトランプを象徴してマジョリティになった。三島由紀夫はアメリカの保守派に重んじられ、三島の思想と共鳴し始めた」と語っている。また1億1千万人の登録者を持ち、三島を敬愛するスウェーデン人YouTuberのピューディパイは、三島の唱える「肉体と精神の統合」や「行動することの重要性」に感銘を受けて自らを肉体改造した。いま三島由紀夫の思想や遺した言葉に関心が集まっているのだ。

 当の三島自身は、右翼とは理屈ではなく湧き上がる「感情」であり、生まれ育った土地への愛情や祖先から受け継いだものへの敬いの心が右翼の本当の姿だと述べている。また左翼については、人間の理性のチカラで世界は前に進めるという「信念」のことで、経済繁栄に溺れる日本を憂えた同じ母を持つ双子のようなものだと否定してはいない。

 アメリカや中国を見ても分かる通り反グローバルがここ数年でトレンドとなり、近代世界システムは過渡期にある。日本でも外国人問題や国防を巡って右左の分断が叫ばれているが、日本語を深く理解できる日本人だからこそ、三島由紀夫という遺産からこの先へ進むヒントを見出せるのではないだろうか。

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神尾 成/Sei Kamio

2007年11月からaheadに参画、企画全般を担当している。2010年から7年間編集長を務め、後進に席を譲ったが、2023年1月号より編集長に復帰。朝日新聞社のプレスライダー、ライコランドの開発室主任、神戸ユニコーンのカスタムバイクの企画などに携わってきた。1964年生まれ61歳。

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