岡崎五朗のクルマでいきたい Vol.203 ホンダ復活は 会議室の外にある

文・岡崎五朗

2026年5月、ホンダが上場以来初の最終赤字を発表した。

 EVシフトに伴う減損処理などで2.5兆円規模の損失を計上した結果だ。決算発表直後に行われた「ビジネスアップデート2026」では、三部敏宏社長が「2040年脱エンジン」という旗を公の場でついに降ろし、EVとFCVに加えカーボンニュートラル燃料なども活用するマルチパスウェイへの転換を宣言した。一周回ってトヨタと同じ立場に至ったわけで、納得できる部分も多い。しかし同日発表された新経営体制の説明を聞いた瞬間、ヤバいぞこれは、と本気で思った。社外取締役を過半数とし、議長も社外に委ねる体制への移行が示されたのだ。

 三部社長は「透明性の高い教科書通りの体制」と説明したが、新たに名を連ねた顔ぶれを見れば懸念は深まるばかりだ。商社、銀行、公認会計士、元検事長——各分野の実績者が並ぶが、自動車産業の実務を知る人物は1人もいない。顧客が何に心を動かされるか、商品企画の勘所や走りの味付けを理解せずして、自動車ビジネスは成り立たない。結局は財務諸表の数字だけが判断基準となる。

 この構図に既視感を覚える者は多いはずだ。ゴーン追放後、経営の透明性を求めて指名委員会等設置会社へ移行した日産がたどった道だ。自動車の現場を知らない社外取締役が数字だけを頼りに判断を下し、肝心の商品競争力が削がれていった。加えてこの制度には構造的な歪みがある。執行側は常に罷免のリスクを負う一方、監督役は業績が悪化しても責任を問われない。そんな非対称な関係が続けば、経営会議はビジョンを戦わせる場ではなく、社外取締役へのお伺いを立てる場へと成り下がる。

 もちろん、これだけの損失を出したのだから、ガバナンス問題を突き付けられるのは仕方がない。しかし、だからこそ、三部社長には重い責務が課せられた。トヨタは社外取締役をテストコースや工場へ連れ出し、自動車ビジネスの本質を叩き込む。ホンダも社外取締役を会議室から引きずり出し、自動車ビジネス、そしてホンダの魂が財務諸表には表れない技術への情熱にこそあることを理解してもらうべきだ。それなくしてホンダの復活はない。

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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