キカイダーはハカイダーと共に存在した

文・山下敦史

特集記事で『仮面ライダー』の思い出を書いたけど、もうひとり、いや2人か。

 夢中になったヒーロー(とアンチヒーロー)がいた。『人造人間キカイダー』のキカイダーと宿敵ハカイダーだ。

 1972年の放送時、僕は5歳だった。同じ石ノ森章太郎原作と知る由もなかったが、機械であることに苦悩するキカイダーに仮面ライダーと同じものを感じていたのだろう。悪を倒すだけでないヒーローの姿に、何か引きつけられるものがあった。

 思春期も過ぎた頃に改めて触れ、〝自分はいったい何者なのか〟という普遍的なテーマが描かれていたことを知り、より好きになった。不完全な良心回路を持ち、時に悪の手先と化すキカイダー。だが一方彼は完全な良心回路を拒む。彼が憧れる〝人間〟は、悪にも染まる不完全な存在だからだ。左右がズレたように非対称で、内部のメカが部分的に透けて見えるキカイダーのデザインは今見ても独創的であり、何より矛盾と葛藤を抱えたキカイダーという存在そのものを形にしたようだった。

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発売元:東映ビデオ株式会社 販売元:東映株式会社
(C)石森プロ・東映

 そんなキカイダーはハカイダーと共にいた。ハカイダーは、キカイダーの生みの親・光明寺博士の脳を移植された最強の人造人間。黒ずくめで培養液に入った脳が丸見えのハカイダーは、キカイダーを食う人気だった。悪の組織ダークの刺客ながら、独自のルールで行動するアウトロー。悪なりの美学を持つ彼には筋の通った格好良さがあった。人間になりたい機械=キカイダーと機械にされた人間=ハカイダー。2人の対比がなければ、この物語はこれほど記憶に残るものにはなっていなかっただろう。

 加えて、ドラマを彩るバイクの魅力も大きかった。仮面ライダーにサイクロン号があるように、キカイダーにはサイドマシーンという愛車があった。ベースはモーターショーに参考出品されたカワサキ・マッハⅢ500GTサイドカー。うつぶせになるように乗る独特のスタイルと、サイドカーと統一された流麗なデザインが未来を感じさせた。人を隣に乗せる側車が、人間になりたいと願う人造人間キカイダー=ジローの孤独をより強調しているようにも思う。
 一方ハカイダーのバイク〝白いカラス〟は名前通りの輝く白銀。ダークという組織に染まらない一匹狼を体現するマシンだった。見た目こそベースのカワサキ・マッハ750SSそのままだが、ハカイダーが跨がるだけで特別なバイクに見えたものだ。

 仮面ライダーにキカイダー、ハカイダー。バイクを好きになった理由は、ひとつじゃないけど、彼らが最初の火花となったことは間違いない。作品に込められたテーマや奥行きは、確かに子供の僕には理解できようもなかった。でも、理解できないことと、届かないことは違う。それはちゃんと届いていたんだ。この作品の向こうには、まだ分からない何かが広がっている、と。大きくなってバイクに乗れるようになったら、そこに辿り着けるかもしれない、と。
 子供の頃に見たヒーローに憧れて、バイクに乗ったという人は僕だけじゃないはずだ。大人になり、見ていた番組のことは忘れてしまったとしても、その時の憧れはきっと消えない。それは心の羅針盤となり、何かを求めるように、どこかへと誘うように、僕たちをバイクへと向かわせたのだ。

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『人造人間キカイダー』は、変身ブーム真っ只中の1972年7月~1973年5月にNET (現・テレビ朝日)系列で放送された。主人公のジローがギターを弾きながら登場することや、不完全な良心回路を表現した左右非対称のキカイダーのデザインが斬新だった。また悪役でありながらキカイダーと同等の人気を博したハカイダーは、カワサキ750SS (H2)に乗って登場する。人間らしくあろうと戦う人造人間の物語は、『仮面ライダー』に続く、石ノ森ヒーローの代表作品となった。

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