「アラビアのロレンス」を知ったのは、1981年に『週刊プレイボーイ』で連載された劇画『ケンタウロスの伝説』の中でのセリフだった。
ロレンスが遺したとされる「スピードの中で精神は肉体を超越する」という劇中の言葉の意味を当時はバイクに乗り始めたばかりで理解できなかったが、哲学的な響きに憧れたことを覚えている。それから数年経って『Mr.Bike』(1989年6月号)でアラビアのロレンスの特集が組まれたのだが、記事を見た記憶はあるものの、“アラブの富豪”が二輪のロールスロイスといわれる高級なバイクに乗って“砂漠で”事故死したのだと勘違いしていた。
しかし今年になって彼が愛した「ブラフシューペリア」が日本でも販売されることになり、過去の文献を調べていくうちに、今さらながらアラビアのロレンスに興味が湧いてきた。彼は、純粋さから欧州と中東の紛争を引き起こす要因をつくり、出自や生い立ちの影響もあって女性嫌悪や被虐性欲に駆られ、最後は孤独の中でバイクとスピードにアイデンティティを見出そうとした人物だったからだ。(詳しくは「アラビアのロレンスとは何か」を読んでもらいたい)
そして気付いたのは、『キリン』の作者として有名で昨年亡くなった東本昌平もアラビアのロレンスに影響を受けた可能性が高いということだった。東本氏は自身が責任編集した『RIDE vol.29』において、『Mr.Bike』の記事を「アラビアのロレンスを巡る旅」と称して再編集しており、新たにロレンスのブラフシューペリアを描き下ろしたうえに、映画『アラビアのロレンス』の名場面の劇画をカラーでリメイクしているのである。
思い返すと『キリン』を始めとする東本作品に記された詩的な文章やセリフは、ロレンスの遺した言葉に通じるものがある。また前述の『ケンタウロスの伝説』のモデルとなった「横浜ケンタウロス」も同じ精神世界を表現していたのかもしれない。ある意味でアラビアのロレンスは、バイクに乗る意義を哲学的に突き詰めた先駆者といえるだろう。
神尾 成/Sei Kamio

