トヨタの佐藤恒治氏がわずか3年で社長を退き、代表権のない副会長に就任する。
このニュース、単なる一企業のトップ交代と受け取ると本質を見誤る。
2023年の社長就任直後、インタビューに佐藤社長はこう答えていた。「今後の動き次第では、別の人がストライカーをやって、僕が違うポジションを守ったほうがいい局面が出てくるかもしれません」 まさに今、その局面が訪れたということだ。トランプ関税などの通商問題の不透明化、中国メーカーの躍進など、もはや一企業だけでは対応できない難しい時代になった。トヨタの社長は企業経営で利益をあげるというストライカーに徹する必要がある。しかし、自工会会長や経団連副会長という立場はそうではない。そのための代表権返上であり、佐藤氏は今後、トヨタのためではなく、産業、政治、そして通商の壁を俯瞰しながら、自動車のみならず、日本の産業界における「司令塔」の役割を果たしていくことになる。
興味深いのは今回の人事プロセスだ。関係者から聞いたが、豊田章男会長は「3年か、早いな」と漏らしたという。これは会長によるトップダウン人事ではないことを示している。事実、今回の人事は「経団連副会長に加え自工会会長も担うなら、とてもではないが社長業とは両立できないないですよ」という社内の役員人事案策定会議からのサジェストによるものだ。そして佐藤氏は「後ろ髪を引かれる想いもあった」と真情を吐露しつつ、その提案を受け入れた。トヨタはいわば、日本のために自らの社長を差し出したのである。今後、佐藤氏はトヨタの経営というくびきから離れ、日本の産業強化に向けた取り組みに専念することになる。
その布石は、自工会が掲げた「新7つの課題」に象徴されている。重要資源の確保や人材育成に加え、メーカー間の意地を捨てた主要パーツの共用化など、自工会は前例のない取り組みを加速させるという。なりふり構わぬこの覚悟こそ、日本が生き残るための処方箋だ。製造業の覇権を日本が維持できるかどうか。ストライカーから司令塔へとポジションを変えた佐藤氏の手腕に期待がかかる。

Goro Okazaki
