遊び心、本気心

写真・山岡和正

遊びというと不真面目な印象を持つかもしれないが、遊び心となると、その意味やイメージは変わってくる。

遊び心とは、気持ちに余裕があるということだからだ。しかもその遊びに真剣にならなければ、遊び心は生まれてこない。今回は本気で遊んだ先にしか芽生えない遊び心を見つめ直してみたい。

三菱の本気を詰め込んだデリカミニ 文・竹岡 圭 写真・長谷川徹

 「アイツはアイツはかわいい~♪みつび~しのデリカミニ♪ ウェイ!」。クルマのTVCMが、ここまで世間に浸透することって、意外と稀なこと。本当はデリカミニの化身らしいが、世間ではデリカミニのマスコット犬と認知されている「デリ丸。」が殊のほか話題で、早くもグッズ展開なども始まっており、正直なところ私も欲しかったりするが、そのデリ丸。が言うように、デリカミニはカワイイだけのクルマではない。そして、実はデリ丸。が誕生したのも、そこに理由があったりする。

 デリカと聞くと、どうしても大きなミニバン、ともすればイカツイミニバン。ちょっと私のクルマというのには違うかな…という印象を、特に女性の方に抱かれることが多かったらしい。ジェンダーレスが声高に叫ばれる時代に、女性の…というのは少々気が引けるけれど、差別はないにしろ区別はある。大きなミニバンが女性に敬遠されがちなのは、至極納得できることだ。そうでなくても、三菱のクルマは泥クサイ、オイルクサイ方向についつい行きがちであり、無論それはいい意味なのだけれど…。

 しかし、今回は軽自動車である。女性にも興味を持ってもらいたい、というのが三菱の本音。だからこそ、デリカという名前だけで敬遠されないように、デリカ“ミニ”というネーミングを採用し、さらに「あら、カワイイ!」と思ってもらえるようにデリ丸。を誕生させたのだ。ちなみに、あのCMを作ったチームは全員女性とのこと。「オジサン達はクチ出すのやめよう」と、男性陣も譲ったらしい。だからこそ、女性にとってのカワイイ加減のツボや遊び心が、共感できるものとなっているのだろう。訴えたい人にしっかりと刺さるように、チームの人選からして本気出したのである。とはいえ、あのCMの中でデリ丸。が「カワイイって言うな」と言っているように、デリカという名前をつけるからには、プロダクトも本気なのは間違いないのだ。

デリ丸。

 いちばんのポイントはオフロード性能。「大径タイヤ付けただけでしょ」なんていう方もいらっしゃるかもしれないが、実は大径タイヤを履かせるには安全試験からすべてやり直さなくてはならないそうで、一朝一夕にできるものではないとのこと。

 併せて改めて言うまでもなく、足回りのセッティングもしっかりと行われている。オフロード性能を確保するには、足回りのストロークを稼ぎたいところだが、それを軽自動車のスーパーハイトワゴンでクリアするのは、かなりの至難の業だ。

 また、凸凹乗り越えで重要になる下回りのアングル系も、ボディ形状からしてデパーチャーアングルは簡単にクリアできたそうだが、逆にある程度のアプローチアングルを稼ぐのが、デザイン的にもかなり苦労したらしい。

 極めつけは、グリップコントロールの設定だ。通常こういったシステムは、いわゆる滑らせない方向に制御を行うものだが、オフロードでは多少滑ったとしても、とにかく前に進みたいというようなシーンに、多かれ少なかれ出くわすことになる。そんな時に、とにかくグイッ! と前に出られるような、言ってみればオフロードモードのような設定が盛り込まれているのだ。もちろん、三菱お得意のオフロードテストコースで、納得いくまで開発が行われたらしい。

東京都昭島市のモリパーク アウトドアビレッジで開催されたお披露目会では、左右に異なる凹凸のあるモーグルも楽々クリア! その走破性で訪れた人々を驚かせた。

 実はこういった状況「オフロードなんて走らないモン!」という方だって、出くわすことがある。それは雪だ。酷暑日が続く真夏に言われてもピンと来ないかもしれないが「家の前の道路は除雪されているけれど、その手前の雪だまりが乗り越えられない」なんていう冬のシーンは、想像していただけるのではないだろうか。そして、この雪だまりをグイッ! と乗り越えさせてくれるのが、デリカミニのグリップコントロールなのである。

 ちなみに、何を隠そうこの設定を煮詰めるのに、発表の3ヵ月前を過ぎてもまだ開発を行っていたらしい。今年の5月発表だったから、2月にはまだ、日本の雪でしっかりとテストしていたということになる。したがって、開発陣以外の他の部署の人たちは、もうヒヤヒヤし通しだった…なんていうウワサが聞こえてきたとかこないとか…。

 ここまで本気のテストを繰り返していたとなると、もはやクロスカントリー的スーパーハイトワゴンと呼んだ方がふさわしいのかもしれない。本家デリカD:5も、ダカールラリーの伴走車として完走した実績を持つクロカン的ミニバンだが、デリカミニもその血統を受け継いだ、本気心たっぷりのモデルに仕上げられているのだ。

 ウェイ! こうなると、デリ丸。が次に何を言ってくるのか、ますます目が離せそうにない。

三菱 DELICA MINI

車両本体価格:1,804,000円~(税込)
*諸元値はT Premium/4WD
エンジン:DOHC 12バルブ・3気筒インタークーラー付きターボチャージャー
総排気量:659cc 車両重量:1,060kg
【エンジン】
最高出力:47kW(64ps)/5,600rpm
最大トルク:100Nm(10.2kgm)/2,400-4,000rpm
【モーター】
最高出力:2.0kW(2.7ps)/1,200rpm
最大トルク:40Nm(4.1kgm)/100rpm
燃料消費率:17.5㎞/L(WLTCモード)

Kei Takeoka

1969年生まれ。TV・ラジオ・イベント他、セーフティドライビングスクールのインストラクターなど、幅広く活動するモータージャーナリスト&タレント。モータースポーツに長年携わり、特にラリーはレーシングチーム「圭 rally project」を自ら立ち上げ、全日本ラリー選手権に5年間チャレンジ。現在もラリーチームのドライバーとして参戦している。

ジクサーで本気で遊んだらYouTuberになった 文・佐野新世 写真・パー子

 国内発売される数ヵ月前にジクサーSF250が阿蘇を走っているのを偶然見かけた。海外で先行販売されていたのを輸入したのだろう。遊べそうな250㏄を探していたので「これだ!」と直感した。すぐにネットで調べてみると日本での販売価格が125㏄のハンターカブより4万円高い程度(当時)だったのに驚いた。写真を見るとハンドルがトップブリッジの上に装着されていて楽そうだし、普通のスーパースポーツよりも地上高が高いように見える。僕が住んでいる阿蘇周辺は、不整地が多く、地上高の高さと楽なポジションは魅力的だ。そして製造国がインドだったことにも惹かれた。今のインドの技術レベルは世界的に見てもトップクラス。悪路の多いインドでフルカウルのバイクに乗りたい人向けにラインアップしたんじゃないかと考えたからだ。僕はフルカウルのバイクでラフな道を走りたいと思っていた。

 実際に購入してみると、良く動くフロントサスペンションはかなり柔らかめで大きなショックを吸収し、ライディングポジションもバーハンドルのように取り回しやすい。エンジンは低回転のトルクこそ薄めだが、中回転からモリモリトルクが出て高回転まで一気に回っていくので気持ちがイイ。スーパーモタード的に使っても走れてしまうかもしれないと妄想が膨らんだ。モタードというのはオンロードやオフロードのどちらかに特化したバイクは、まともに走れない。両方のコンディションを走れる良い意味での“中途半端”さが必要なのだ。そう考え始めると止まらなくなり、全く練習もしないままモタードの耐久レースにエントリーしてみた。

 ABSだけはキャンセルして、それ以外はマフラーもタイヤもノーマルのままだったが、思っていた通りモタードバイクと同じようにダートも走れてドリフトも出来る。ただジャンプだけが厳しい。車体が軽く浮くようなジャンプでもサスペンションが底つきしてしまう。とはいえこのレースでは市販車のモタードバイクとほぼ同等に競い合い、表彰台に上る事が出来たのだ。

 街乗りや峠道、どこを走っても普通にこなす。ただロードサーキットでの走りを求めるとステップが低すぎたり、サスペンションが柔らかすぎたりして限界がすぐにくる。攻めて走りたいのであれば走りを重視したスーパースポーツの方が良いはずだ。ツーリングにおいては、40‌㎞/L以上走る燃費のおかげでかなり遠くまで行ける。しかもレギュラーガソリンだから経済的だ。しかし多気筒エンジンに比べれば振動が多い。高速道路メインのツーリングならGSX250Rのような2気筒以上に分がある。そしてそもそもオフロードコースのような、デコボコ道を速く走るようには出来てない。オフロードをガンガン走りたいのであれば、最初からオフロードバイクの購入を強く勧める。しかしジクサーは、すべての用途において特化していないことが利点なのだ。逆に言えば万能な使い方が出来るから、自分の方向性が決まってない初心者やリターンライダーは、まずジクサーSF250乗ってみるっていう選択肢もありだと思う。車体が軽いし、そこそこ速いし、価格的にも損はない。レベルが上がって性能に不満を覚えたら、カスタムしたり乗り換えたりすれば良い。

 ちなみに僕はフロントサスペンションを5㎝伸ばし、オフロードタイヤを履かせてガード類を作ってみた。そして雪道を走ったり、大きいジャンプがあるモトクロスレースにも出場している。メーカーからすれば、間違った使い方だろうけど、バイクの性能の限界がすぐに来て、自分の腕でカバーする喜びも生まれたし、カバーしきれない部分をカスタムする楽しさもできた。もちろん何度も壊した。特にスイングアームは曲がるほどの大きいジャンプをしてしまって2回も変えている。ビックリだったのが、スイングアームの価格が約15,000円(購入当時)だったこと。ハイグリップタイヤ1本より安価だという事実。

 スポーツバイクがオフロードを走る姿はまるで漫画の世界。モトクロスに参戦した時の模様をYouTubeにアップしたところ、あっという間に30万回オーバーになった。いつの間にか「ジクサーでオフロードを走る人」として有名になっていた。YouTubeの影響は凄まじい。サーキットでもツーリング先でも声をかけられるようになった。自己満足の趣味の映像をアップする場所だったのに、ジクサーSF250に出会ったことで、僕はYouTuberになったのだ。

Shinyo Sano

1976年生まれ。「SHINYOチャンネル」を運営するYouTuber。二輪メーカーのPVやカタログ、映画のスタントを務めた経験がある。スーパーモタードの全日本選手権やフランス選手権に参戦していた。4輪レースでもル・マンに出場している。

50代後半からのひとり車中泊 文/写真・山岡和正

 つい先月のことである、突然左腕に力が入らなくなった。痛むわけではないのだが、物を持ち上げられないのは何かと不便だし、最悪、脳に損傷でもあれば大変なことになると急いで医者を訪ねた。MRIやらレントゲンなど、あれこれと調べられたが特に問題はなく、変形した首の骨が少し神経を圧迫しているのが原因だろうという診断結果だった。それよりも血圧が高すぎるので、すぐに内科に行けという。そして驚くほどの量の薬を処方されて病院を後にしたのだが、半世紀以上も生きているとあちこちにガタが来ていると痛感する出来事だった。

 日頃からトレーニングをしている人は別として、50代の後半ともなれば身体は固くなり、傷の治りも遅くなる。気が付かないうちに腹部が脂肪で膨らんでいる。運動するぞ、と心に誓うものの、ウオーキングどころか移動は常にクルマかバイクである。仕事や家族のいざこざで払拭できないストレスと老後の不安なども重なり、身も心もダメージを受ける年代になっていた。以前の健康な身体を取り戻そうとゴルフや野球に没頭したり、アウトドアスポーツに興じても思うように身体は動かないし、誰かしら関わる人がいれば精神的なストレスからも抜け出せない。

 結論から言うと、精神や身体をリセットするためには誰もいない場所へ1人で行くことが重要だと思う。少しだけ、どこか知らない場所で自由に過ごせば良い。1人きりで海岸線や丘の上から遠くを眺めながら自分を見つめ直してみる。これまでの人生やこれからの人生を考えるとかいうカッコいい話ではない。軽いノリでふらっと出かけて、自然の中で過ごすだけで背負った荷物を一時的にでも下せるのではないだろうか。インスタントコーヒーでいい、それを飲みながら焚火をみつめていれば時間や心のわだかまりが消えていく。その時に考えることは、薪の上の炎のことだけだ。

 そして、そのソロ・レクリエーションとも言える行動は、車中泊キャンプというスタイルで容易に始められる。それは、多くの費用と時間は必要ない。高価なキャンピングカーや有名ブランドが展開する秀逸なテントも使わなくていい。普段使っているクルマの荷室にシングルバーナーとコッヘルそして毛布を積み込めば、もうすでに車中泊キャンプのスタンバイはできている。使うクルマにフルフラットシートや電源ソケットが装備されていればいうことはない。もっと快適にしたいなら、寝袋、マット、ヘッドランプなど軽登山の道具を揃えれば完璧だ。今の時代、通販サイトを彷徨えば、十二分に使える道具が安価でいくらでも手に入るはずだ。ただし、旅館に泊まるわけではないので食事は自分で用意しなければならない。はじめはスーパーマーケットのお惣菜やコンビニ弁当などで問題はない。時間は十分にあるので、興味があるならダッジオーブン料理など凝った物にチャレンジすればよいのだ。

 車中泊の利点は費用が掛からないということだけではない。キャンプサイトでのテント泊に比べてずっと気楽に行えるのが大きな魅力だ。テントを使った場合、雨が降るとかなり厄介なことになる。水を吸って重くなったテントを、雨に打たれながら撤収する作業が惨憺たるものになる事は容易に想像できるだろう。車中泊はクルマがベースなので、周囲に迷惑でなければ装備されている除湿機能や冷暖房を使うこともできる。温度や湿度をコントロールするというのは、テント泊ではかなりハードルが高いことであり、本格的なキャンパーでない限りは諦めてしまう装備なのだ。

 最低限のキャンプ道具を積み込んだら、後は現地で楽しむ遊び道具を何かしらプラスすると車中泊はさらに有意義なものになる。装備がミニマムで、キャンピングカー仕様的な改造を施していない普通車キャンパーのラゲッジスペースは広々としている。楽器や、自転車、本など、いつもの趣味の道具をたくさん積み込んで、現地で楽しむことができるだろう。

 何はともあれ、先ずはすぐに始めてみることが大切なのだ。自然の中で、焚火の炎を眺めてみる。それにより、何かを発見し、思考の変化が起きたなら行動を起こした甲斐があったということだ。車中泊キャンプは誰にでも簡単に始めることができる魅力的なリラクゼーションであり、そのアトラクティブな楽しさは体験してみないと分からない。少しだけ面倒を受け入れてチャレンジしてみれば、次の扉が開くかもしれない。突き詰めて言えば、やるかやらないかだけのことなのである。

Kazumasa Yamaoka

1964年生まれ。東京綜合写真専門学校卒業後、安友康博氏に師事し、その後フリーランスに。「APIO」「ヨシムラ」といった企業のメーカー広告写真の他、雑誌を中心にポートレート、建築、自動車、旅行、ライフスタイルなどを撮影する。日本の林道の第一人者として「マツコ&有吉の怒り新党」に出演した。

「遊び心、本気心」の続きは本誌で

三菱の本気マジを詰め込んだデリカミニ 竹岡 圭
バイクの世界に進出したブライトリング 後藤 武
ジクサーで本気で遊んだらYouTuberになった 佐野新世
50代後半からのひとり車中泊 山岡和正
遊び心とクルマ馬鹿  夢野忠則


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