femme FEATURE カリオストロから40年

文・山下敦史 写真・長谷川徹

ルパンが騒がしい。言わずと知れたアニメの「ルパン三世」だ。

 テレビでは原作者モンキー・パンチの流麗なイラストが印象的な缶コーヒーのCMが流れ、劇場では今年で公開40周年の「カリオストロの城」が4Dで記念上映、さらに年末には3DCGで描かれた完全新作「ルパン三世 THE FIRST」が公開と、「カリオストロ」以外は特にアニバーサリーイヤーでもないのに、にぎやかなことこの上ない。そりゃ世代を超えた人気を誇る国民的アニメのひとつではあるのだけれど、なぜ今ルパンなのか。

原作:モンキー・パンチ ©TMS

 先の缶コーヒーのCMで、ビートたけしがつぶやく「ルパンみたいな奴も、いた方がいいんじゃねぇかな」が、その答えをもっとも集約しているように思う。

 ルパンといえば、愛車フィアット500、チンクエチェントを思い浮かべる人も多いだろう。実はルパンの愛車は初代のメルセデス・ベンツSSKをはじめ多数あるのだが、今や観客も作り手側にもルパン=チンクエチェントのイメージが定着し、新作「~THE FIRST」の予告編でも、淡いバニライエローのフィアット500がカーチェイスを繰り広げる場面が登場する。なぜルパンの愛車がフィアット500になったのかというと、ぶっちゃければベンツSSKは描くのが大変なので、当時ルパンの作画監督を担当していた伝説のアニメーターにして、無類のクルマ好きでもある大塚康生氏の愛車フィアット500をそのまま登場させたということだとか。なるほど、丸っこくて線が少なく、それでいて個性的なフィアット500はいかにもアニメ向きだし、スタッフにとっても駐車場に現物があるのだから作画しやすいという事情もあったのだろう。アニメの中に、記号化された〝クルマ〟ではなく、実在する車種をリアルに描いたエポックメーキングな作品ともなった「ルパン三世」らしいエピソードだ。だが偶然か必然か、結果的にこのクルマは、ルパンというキャラクターを決定付けるものとなった。「カリオストロ」のあの素晴らしいカーチェイス、小さく非力なフィアット500が崖を登り、崖を下り、クラリス姫の駆るシトロエン2CV(こちらは宮崎 駿監督の愛車だったとか)を助けようと悪党どもを翻弄する名場面。それこそが、どんな組織にも属さず、自分なりのルールでお宝を狙うルパンという男を雄弁に物語る。ルパンは善人ではないにせよ、弱き者の側に付く。数や力を笠に着る者どもを何より嫌う。

 だからこそ、今。令和という新時代に閉塞感を突き破るルパンが求められているのだろう。どんな力にも屈しない自由な心、逆境を笑い飛ばすしたたかさ。それこそが、ルパンが我々から盗むどころか置いていってくれた、〝とんでもないもの〟なのだ。

『ルパン三世 カリオストロの城』が4Dになって期間限定で特別公開

1979年に公開されて以降、多くの人に愛され続けている『カリオストロの城』が、公開40周年を記念し、劇場で特別公開される。4Dでの上映とあって、カーチェイスや屋根の大ジャンプシーンといった名場面に要注目だ。
日時:11月8日(金)~11月21日(木)
配給:トムス・エンタテインメント、ユナイテッド・シネマ

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