モタスポ見聞録 Vol.21 ハイブリッドからEVヘ

文・世良耕太

2018年のモータースポーツを振り返った際の最大のハイライトに、トヨタのル・マン24時間レース初制覇を挙げておきたい。

 2012年にトヨタがル・マンに復帰して以来、いや、プロジェクトが立ち上がった2006年以来、彼らの活動を追いかけてきたので個人的に感慨深い。1985年の初参戦以来、20回目の挑戦で初めて手にした栄誉だった。

 トヨタは「レースで鍛えたハイブリッドの技術が将来、必ず世のため人のためになる」と考え、耐久レースへの参戦を決めた。当初の競争相手はディーゼルのアウディだった。2014年には、トヨタのガソリン自然吸気エンジンに対し、ガソリン過給ダウンサイジングターボを引っ提げてポルシェが参戦してきた。エネルギーを回生する技術も、回生したエネルギーを蓄える貯蔵装置も三者三様だった。

 「3年で勝ってやる」と意気込んだトヨタだったが、簡単に勝たせてくれるほどル・マンは甘くはなかった。それでも、参戦5年目の2016年には「速さ」で1番になった。だが、速さを保って24時間走り続けるには「強さ」が備わっていなければならないことを、トヨタは身をもって示した。ライバルを圧倒する速さがあったのに、2016年も2017年も勝利を逃した。トラブルを発生させないようにすることはもちろん、トラブルが発生した際は被害を最小限に食い止めて走り続ける必要があったのだ。トヨタはル・マン24時間レースへの参戦を通じ、ハイブリッド技術を鍛えただけでなく、人を鍛え、組織を鍛えた。

 2017年シーズン限りでポルシェが撤退したため、トヨタが初優勝を遂げた2018年のル・マン24時間は、実質的にライバル不在のレースになった。前年に一騎打ちの対決をしたポルシェは、電気自動車(EV)のレースに軸足を移すと発表した。フォーミュラE(FE)である。2016年限りでル・マンから去ったアウディはひと足先にFEに参戦している。メルセデスAMGは2018年限りでDTMから撤退し、ポルシェと同様2019年からFEに参戦する。BMWは2018年12月に始まる新シーズンからFEに新規参戦する。

 時代はハイブリッドではなくEVなのだ。とくにヨーロッパでは。自動車用の動力源としてこの先10年単位でハイブリッドが中心的存在になることを、複数のメーカーや研究機関が予測している。にもかかわらず、ヨーロッパの自動車メーカーはおしなべてEV押しである。トヨタが先鞭を付け、長い時間を費やして鍛えてきたハイブリッドに太刀打ちできない技術的背景に、政治的判断が加わってEVを優遇する流れになっている。モータースポーツもその流れに飲み込まれた格好だ。ファンがその流れに付いていくのかどうかは、2019年に明らかになるだろう。

 最後にもうひとつ。2018年は頭部保護装置の”ハロ”がF1とF2に初めて導入された。F2ではその効果が早くも実戦で証明された。新シーズンに投入されるFEの新型車両や2019年のスーパーフォーミュラ、FIA F3にも採用される。安全面での新しい流れはスムーズに浸透していきそうだ。

Kota Sera

ライター&エディター。レースだけでなく、テクノロジー、マーケティング、旅の視点でF1を観察。技術と開発に携わるエンジニアに着目し、モータースポーツとクルマも俯瞰する。

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