EVのF1開幕元年 “Formula E” とは何か

 テレビ朝日が公式練習から予選、決勝までを地上波、BS、CSの3波一体の総合編成でフルカバーすると発表し、話題を振りまいているのが2014年から始まる「フォーミュラE選手権」だ。

 この新カテゴリーは、F1(フォーミュラワン世界選手権)やWEC(世界耐久選手権)、WRC(世界ラリー選手権)、WTCC(世界ツーリングカー選手権)と同様、FIA(国際自動車連盟)が統轄する電気自動車(EV)によるレースである。タイヤやドライバーが露出した形態はF1に似ている(この形態を「フォーミュラ」と呼ぶ)が、動力性能的にはF3と同等である。とはいえ最高速度は225㎞/hに達し、0ー100㎞/h加速を3秒以下でこなす(いずれも想定値)俊足の持ち主。エキサイティングな走りを見せてくれるに違いない。

 エキサイティングといえば、EVならではのサウンドもそのひとつ。配信されている公式トレーラーなどで確認できるが、EVだからといって無音ではなく、加速に応じて独特の高周波電磁音が高まる。量産EVは変速機を用いないので連続音になるが、「フォーミュラE」は4段変速機を搭載しているので、レーシーな断続音になる。複数のマシンが同時に走ったときにどんなハーモニーを奏でるのかと、期待が高まる。

 サウンドは魅力のひとつではあるけれども、ガソリンエンジンが主体の既存のモータースポーツと比べるとはるかに静かで、走行中は排ガスを放出しない。その特徴をアピールするため、10戦が予定されているレースはすべて市街地(全長2・5~3㎞の特設コース)で開催される。それも、北京やロサンゼルス、ベルリンやロンドンなど、大都市ばかり。世界選手権は春から始まり秋に終えるのが一般的だが、「フォーミュラE」は秋に始まり夏に終える。

 初年度に参戦が認められるのは10チームで、各チームに2名のドライバーが所属する。エネルギー問題に関心があり、技術力をアピールしたいと望むチームが独自にマシンを開発することは可能。ただし、初年度は参戦のハードルを低くするため、FIAが用意した共通のマシンで競技を行う。俳優L・ディカプリオが共同オーナーを務める「ベンチュリ」に加え、「アウディスポーツABT」、「アンドレッティオートスポーツ」、「ヴァージン」など、実績や知名度の高いチームが集う。

 「スーパーアグリ・フォーミュラE」もそのひとつだ。運営の母体はイギリスに置くようだが、’06年から’08年途中までF1に参戦した国産チームのDNAを受け継ぐ。「スーパーアグリ」のエースドライバーだった佐藤琢磨が、「フォーミュラE」の開発ドライバーを務めるのもニュースだ。現時点では開催地に日本の都市が入っていないが、気運が高まればとの期待を抱かずにはいられない。

 琢磨が開発に携わるマシンが、「スパーク・ルノーSRT 0‌1E」だ。車名の一部になっている「ルノー」は電動システムの統合を担当。パワートレーンおよびエレクトロニクスは「マクラーレン・エレクトロニクス・システムズ」、バッテリーは「ウィリアムズ・アドバンスト・エンジニアリング」と、F1でなじみのある企業やチームの関連企業が携わっている。シャシーの製造は、今年度からの「スーパー・フォーミュラ」や現行インディカーを手がける「ダラーラ」だ。タイヤはミシュラン。フォーミュラに装着するタイヤはホイール径が小さいのが伝統で、「F1」は13インチである。だが、「フォーミュラE」は18インチを装着。ドライとウェットでタイヤを履き替えるのがレースでは一般的だが、「フォーミュラE」はトレッドパターンのあるドライ/ウェット兼用のタイヤを履く。量産車への技術のフィードバックを意識した判断だ。

 イベントは土曜日に集中して行う。1時間の練習走行の後、予選を実施。練習走行のタイムをもとに出走順を決め、1台ごとに2周の計測ラップを行ってグリッドを決める。レースは約1時間。練習走行と予選は200kW(270馬力)のフルパワーで走ることができるが、レースはあえて133kW(180馬力)に出力を抑えて走る。ただし、〝プッシュ・トゥ・パス〟ボタンを押したときにだけ、フルパワーを放出できる仕掛けだ。このプッシュ・トゥ・パスは、SNSとの連携が計画されている。SNSで多くの応援を集めたドライバーにだけ、追加でプッシュ・トゥ・パスの使用を認める内容で、文字通り、ファンの応援がドライバーの背中を押すことになる。また、視聴者が21番目のドライバーとして実際のレースにバーチャルで参戦する「リアルタイム連動レースゲーム」の開発も予定されている。

 フォーミュラEはレース中、2回のピットストップが義務付けられるが、このときドライバーは満充電のマシンに乗り換える。バッテリー容量の問題で生じた規則だが、なんとも斬新。何から何まで型破りだ。

文/写真 ・ 世良耕太


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