モビリティ時代を支える次世代ジャーナリストを見出し、活躍の機会を提供しよう、という主旨で始まったこの企画も、はや1年が経過した。
この企画のアドバイザーでもある岡崎五朗氏、近藤正純ロバートと、実際に記事を書いてくれた次世代ジャーナリストたちにこの1年の活動を振り返ってもらった。彼らは何を思い、どんな気づきがあったのだろうか。
「モビリティ社会が目指すものの原点に立つことができた」(西川)
「クルマには無数の切り口があることに気づきました」(瀬)
近藤正純ロバート(以下、近藤)次世代のジャーナリスト候補を見出し、彼らに機会を提供して、モビリティ時代に活躍してもらえる次世代ジャーナリストを育てる。それを目標にわれわれが立ち上げたプロジェクトが始まって1年が経ちました。自動車ジャーナリスト業界の高齢化が進む危機感から話が始まり、若者をもっとこの業界に入れていかなきゃいけないという問題意識からスタートしましたね。
岡崎五朗(以下、岡崎)われわれが言う「次世代」とは、若い人たちを指す「次世代」と、クルマ以外の専門家を指す「次世代」とふたつあって、この2本柱でやることで、今までなかったような視点でクルマやモビリティを論じられるような人たちが出てくるかも知れない、とね。
近藤今やもうクルマ単体ではなく、様々な視点でクルマ業界を見ないと通用しない時代になってきた。自動車メディアはたくさんあるけど試乗記事が中心。もっと様々な側面を表現できるような形にならなきゃいけない。そしてそれを書ける人々も育てていかなきゃいけないですよね。
岡崎僕と西川君が所属している日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)は1969年に発足したんだけど、初代会長の山岸 清さんは当時設立の理由をこう述べてるんだ。
「モータリゼーションの急速な発展にともない、昨今自動車について安易な解説や論評をこころみる例が多く見られるようになった。しかし無責任な言論と歪曲された世論の醸成はモータリゼーションを誤った方向に導くおそれがある。そこで自動車ジャーナリストとして、それぞれの分野で責任ある活動をしている個人の団体を結成することにした」
100年に1度の大改革期と言われる今、まさに同じことが起こりつつある。クルマのことを知らないメディアが「これからはEV」とか表面だけかっさらったミスリードをしている。そんな世の中で、きちんと発信していくことが日本の自動車業界には絶対必要だと思うんだよね。
近藤今日来てくれた若手2人にも取材記事や対談をまとめる仕事などをしてもらったけど、この1年の活動を振り返ってどうだったか聞いていこうと思います。
西川昇吾(以下、西川)僕は、ピレニーというAI運転アシスタントを開発するスタートアップ企業の対談をまとめる中で「モビリティ社会が目指しているのは、交通事故ゼロの社会だ」と聞いて、ハッとしました。今まで、運転支援システムはレベル5がすぐそこまで来ていて、ドライバーの負担が減る話ばかりだったから、改めて交通社会を考える原点に立つことができた良い機会でした。
岡崎彼らの目指す「事故ゼロ」はある意味、地味。でも彼らがあえてそれをやっているということを伝えたかったし、西川君がなるほどと感じてくれたのはいいことだね。イオナさんはどうだった?
瀬イオナ(以下、瀬)6月号からの参加だったんですが、ジャパンモビリティショー・ビズウィークの取材で、まだ知らない将来の取り組みを生で感じられて、それを記事でアウトプットできたのはとても勉強になりました。
岡崎僕もこの仕事をやり始めた当初は試乗記ばかり書いていたんだけど、やっていくうちにクルマに関する切り口は無数にあることに気づいたんだよね。
瀬私も取材を通して本当にそう感じました。
岡崎われわれは取材したことや考えたことを記事にまとめるわけだけど、aheadの場合は「こういうふうに書いてほしいけど、どう思う?」から始まるじゃない。編集者とライターの関係でそこまでやってる編集部ってあんまりないと思うんだよね。
西川自分の意見を求められるのはもちろんですが、原稿もたくさん修正が入りますね。若手の成長を願ってこそだと感じます。
岡崎イオナさんも原稿の修正はされる?
瀬はい、たくさん。私はフリーランスになる前は自動車雑誌の編集部で仕事をしていて、リリースの書き起こしやジャーナリストさんからいただく原稿をページに合わせたりすることがほとんどでした。いざ自分で書くようになってから、他の方の原稿を読んではいたけど、それを自分なりに理解し、アウトプットできていなかったことに気づき、毎号勉強になっています。
岡崎クルマ1台を評価する際、「エンジンは何㏄だ」「何馬力だ」「0-100キロは何秒」なんていうのは大事だけど事実の羅列に過ぎない。それを通して自分が何を感じたのか、このクルマを買う人にとってもっとこうあるべきだというところまで書けると本当のインプレッションになると思う。それは主観を押し付けるわけだから、押し付けるにふさわしいスキルを持っていないといけない。その辺りも修行していってほしいです。
近藤おふたりがわれわれのこの取り組みをプラスに受け止めてくれていて嬉しいですね。若い世代の見る視点って、我々の世代と違うからこそ、すごく興味深いんです。読む側も新たな視点を得るし、今後、彼らの主観が入ってくるとさらに面白くなる。そういうことがこの企画をやっている意味なのかなと思います。
岡崎僕らが歩んできたことと同じことをしてもしょうがない。 若い人視点で発信するから若い人に伝わっていくのだと思う。自分らしさを織り交ぜながら、僕らの世代には書けない原稿を書いていってほしいですね。
近藤そして、若手のみならず異なる分野の人々にも加わってもらいながら、どんどん重なり合って、モビリティ時代に対応した次世代ジャーナリストのグループが出てくると、さらにクルマやモビリティのメディアも充実し、面白くなっていきますよね。そんなことを期待しながら、これからも次世代の人たちとの関わりを続けていきたいと思っています。
https://www.felicity.cafe/about
西川昇吾/Shogo Nishikawa
瀬イオナ/Iona Hayase
岡崎五朗/Goro Okazaki
近藤正純ロバート/Masazumi Robert Kondo
1988年 慶應義塾大学経済学部卒
1988年 日本興業銀行入行
1996年 米コーネル大学留学MBA取得
1998年 レゾナンス設立代表取締役就任 現任
2008年 日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員
2012年 日本カー・オブ・ザ・イヤー副実行委員長
2023年 日本カー・オブ・ザ・イヤー執行部
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