ディーラーに出向いて、営業マンからクルマを買う。長い間、私たちはそうやってクルマを購入してきた。
その従来のクルマの買い方を変えるかもしれないのが、バーチャルリアリティ(VR)である。VRを使ったセールスサポートツールの開発と販売を手がけるスタートアップ、Auto VRの吉田博紀さんを迎え、これからのクルマ購入(販売)のあり方について考えてみた。
Z世代の西川昇吾が考えるクルマを買うというアナログ
文・西川昇吾/写真・淵本智信
対談を終えて感じたことを一言で言い表すのであれば、「日本の自動車という経済コミュニティは伝統と新技術の共存が重要」ということだ。今、日本では長年自動車に使われている内燃機関に関して、技術開発の継続も含めて必要性が訴えられている。ただ、日産「サクラ」や三菱「eKクロスEV」などの一定の成功を見ていると、軽乗用車にBEVを搭載するのはひとつの最適解かもしれない、とも思う。日本の自動車市場の進化のためには、内燃機関という伝統とBEVという新技術が共存し、ユーザーに複数の選択肢を提供できることが重要なのだ。
今回のAuto VRも自動車の販売現場で見てみれば同じようなことが言える。VRは実車への具体的なイメージを固めるサポートツールであり、営業スタッフが要らなくなるゲームチェンジャーではない。製品を造る、モノを売るという活動は常に競争して進化していかなければいけない。
例えば販売現場でAuto VRを導入することは、顧客に喜ばれるサービスの1つで、導入することで他のディーラーと差を付けることが出来る。しかし、クルマの購入というのは1人のユーザーにとって大きなことだ。そんなときに誰かクルマに詳しい人に相談をしないのは怖いという気持ちが、保守的な日本人にはあるはず。だから対談にもあったように、最後は「人」からクルマを買いたい人が多いと思う。VRという新技術と営業スタッフという伝統が共存していくのだ。
新車で言えば販売会社があって、近所のディーラーがあって、馴染みの営業スタッフがいて…それが日本のクルマの売り方・買い方の伝統と言って良いだろう。Auto VRはその伝統を支えていくツールというのが筆者の見方だ。自身も「新車を買うならこのお店で買いたい」というのはスグに思いつく。
筆者はこれまで新車購入の経験はなく、中古車しか購入したことはないが、付き合いのある新車ディーラーはいくつかある。どのディーラーも記事執筆の際に、「あの新型モデルは店頭でどんな反応?」といった質問にいつも協力的に答えてくれる。だから新車を購入するなら、やっぱり彼らから、つまり「人」から買いたいと思うのだ。
知人にも「人からクルマを買う」の究極系な人がいる。「メルセデスなんか正直興味ないけどね」と言っていながらここ数台はメルセデスを乗り継いでいる人だ。聞いてみると「ヤナセの担当が良い人で離れられないんだよね」とのこと。知人は、その営業スタッフが新人の時からの付き合いで、約10年経った現在では年間150台を売る敏腕営業スタッフへと成長したそうだ。知人も含め、「その営業スタッフだから買いたい 」 そんな人が多いのだろう。まさに「クルマは人から買いたい」を表しているエピソードである。
カー「ライフ」という言葉にあるように、クルマはどんな車種を選ぶかによって、生き方や人生に大きな影響を与える工業製品だ。だからこそ、購入に際して親身に相談に乗ってくれる「人」の存在が大事なのだ。
人から買うという伝統的なスタイルを維持しながら、VRやインターネットの活用など、より購入者に優しいサポートツールを活用することで、クルマの売り方は進化していくはずだ。
「次世代ジャーナリストを探せ Vol.3」続きは本誌で
対談:岡崎五朗 vs Auto VR 吉田博紀 まとめ・西川昇吾
Z世代の西川昇吾が考えるクルマを買うというアナログ 西川昇吾