岡崎五朗のクルマでいきたい Vol.178 VWへの期待と心配

文・岡崎五朗

フォルクスワーゲンのブランドCEOであるトーマス・シェーファー氏にオンラインインタビューする機会を得た。

 シェーファー氏はメルセデス・ベンツで自動車ビジネスの経験を積んだ後、VWグループに転職。シュコダブランドの立て直しで実力を認められ、’22年にVWのブランドCEOに抜擢された。

 就任後、彼がまず取り組んだのはブランドの再構築だ。

 「VWは本来、幅広い人に愛され、多くの方に笑顔を提供するブランドですが、昨今はテクノロジーにフォーカスしすぎて暖かみが薄まっていると感じていました。そこで、デザイン、品質、ユーザーエクスペリエンス、広告といったあらゆる面でVWらしさを取り戻す取り組みをしています。従業員が自慢のVWで集うビンテージカーラリーというイベントを開催したのも、まずはわれわれ自身がVWの魅力を再発見し、チームとして団結するためです」

 とにかくEV開発を急げ! と檄を飛ばしていた以前のCEOとはずいぶんと違うスタンスだ。実際、EV化については「長期的に見れば主流はEVになるが、そのスピードは国や地域によって変わるのでエンジンも大切だ」と現実的な考え方を示し、デビューが迫っている現行ゴルフの後期型については「ユーザーの声を聞いて様々な部分を改良しました。過去最高のゴルフになります。PHEVも出しますよ」とコメント。次期型ゴルフ(ゴルフ9)に関しては、「すでに発表している通りEV化は既定路線です」と回答しつつ、再検討の可能性もほのめかした

 VWらしさを取り戻す。電動化には柔軟に取り組んでいく。きわめて現実的な方針だと思う。ということで、シェーファー氏率いるVWの未来に僕は明るいものを感じた。しかしその一方で「欧州では30年代前半にはエンジン車の販売をやめる」「帰宅後に充電すれば朝には満充電になっているからEVは便利」といった、「?」な発言が飛び出したのは少々気になった。そりゃ皆が家で充電できるならその通りだが、自宅充電できない人がたくさんいることをご存じないのだろうか。ということで、期待7割、心配3割というのがインタビューを終えた正直な印象だった。

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

定期購読はFujisanで