50代にススメるバイク VOL.02 これからでも間に合うカフェレーサー ホンダ HAWK11

文・伊丹孝裕 写真・神谷朋公

最初は違和感があっても、なんとなく気になり始め、いつしか格好よく思えることがある。

 「最初」と「いつしか」を隔てるものは年月や経験だ。子どもの頃は甘いお菓子にしか興味がなくても、気づけばワサビやミョウガを好むようになっている。ヒーローの側にしか目が行かなかったのに、その華やかさよりも敵役のダークさの方が魅力的に映るようになってくる。誰にも覚えがあると思う。

 甘さや華やかさは、多勢に受け入れてもらうためのある種の媚びだが、それでは物足りなくなってくる人が一定数いる。そして刺激が欲しくなる。苦味を感じたら吐き出し、あやしい場所は避けて通っていたはずなのに、思い切って飲み込んでみたり、歩みを進めたくなったり。ホンダの新型スポーツバイク「ホーク11」は、そういう拒絶感を飛び越えた先にあるモデルだ。

 「車体の前と後ろがバラバラのデザインだとか、エンジンも車体も流用じゃないかとか、社外はもちろん社内でも散々色々なことを言われました。ホンダって、よくも悪くも優等生のイメージがあるでしょう? 幅広いお客様に満足してもらうには、カドを丸める必要があるわけですが、今回それはいいや、と。万人受けではカバーし切れない層を拾うつもりで、ホーク11のプロジェクトを進めました」

 初夏に開催された発表試乗会の折、開発チームのひとりがそう語ってくれた。エンジンやメインフレームといった主要なコンポーネントは確かに流用なのだ。アドベンチャーモデルの「CRF1100Lアフリカツイン」、もしくはスポーツツアラーの「NT1100」と被る部分が多い。言い方を換えると、背が高く、安楽なライディングポジションを持つそれらが、よくもまぁ、こんなカタチに変態したものだと驚かされる。

 ホンダはひと言もそう言っていないのだが、ホーク11はカフェレーサーにカテゴライズすることができる。レーサーは厳格なレギュレーションに則って作られるのに対し、カフェレーサーにルールはない。ベースモデルに正しいも間違いもなく、一定の流儀や様式美はあっても必ずしもそれに縛られる必要はない。カフェレーサーは、一個人の趣味嗜好と、コンペティティブなマインドがミックスされた独善的な乗り物である。にもかかわらず、それをホンダという巨大メーカーが企画に上げ、リリースにこぎつけたこと自体が大きな変革と言っていい。

 しかもグローバル展開でも北米向けでもない。年間1200台のみの国内流通を計画に掲げた日本専用モデルという立ち位置も特異だ。効率化最優先の時勢にあって、なにからなにまで従来のホンダの枠組みから外れたモデルであり、作り手の自由闊達さが際立つ。

 それが端的に表れている部分が、ロケットカウルだ。通常、こうしたパーツの造形にはABS樹脂が使われるものだが、ホーク11のそれはFRP(繊維強化プラスチック)を採用。その理由は明確で、まず継ぎ目のない一体成形と、それによる滑らかな曲線を実現すること。そして深みのある艶やかな塗装ののりが優先された結果だ。FRPはシートカウルにもおよび、外観は美しさにこだわった反面、内側はあえて繊維地が露出されている。それによって、ワンオフパーツのような雰囲気がもたらされ、カフェレーサーらしい荒々しさにひと役買っているのだ。

 サイドミラーのマウント方法もそのひとつで、必要最小限のサイズと存在感に留められている。せっかくのカウルに穴を開けることを嫌ったからだ。代償として犠牲になっているユーティリティはあるものの、それをよしとしたところもまた、ホンダらしからぬ決断だ。

 カフェレーサーとは、乗り手の欲望をそこに込めて完成に至る。その意味で、トリップメーターに数字が刻まれていないホーク11は、単なる素材に過ぎない。このバイクを手に入れたなら、遠慮することなく自分仕様に仕立てていくといい。マフラー、ステップ、ブレーキ、シート……。続々と揃いつつあるカスタムパーツの中からお気に入りのものをチョイスし、週末の早朝はワインディングへと車体の鼻先を向ける。なまっていた身体がセパハンで引き締められる頃には、新車の匂いは消え去り、最初は苦痛だったライディングポジションに一体感を覚えるようになっているに違いない。そしていつしか、ホーク11は自分だけのカフェレーサーになっている。

HONDA HAWK 11

車両本体価格:1,397,000円(税込)
エンジン:水冷4ストロークOHC4バルブ直列2気筒
排気量:1,082cc
車両重量:214kg
最高出力:75kW(102PS)/7,500rpm
最大トルク:104Nm(10.6kgm)/6,250rpm

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