オンナにとってクルマとは vol.45 上京とペーパードライバー

  地元では当たり前のようにマイカーを運転していたのに、東京に住むようになってからは運転する機会がなく、ペーパードライバーになってしまったという女性たちによく出会う。

  その理由でいちばん多いのは、高い家賃を払いながらのひとり暮らしで経済的な余裕がないこと。さらに、駐車場代や保険代、ガソリン代などの維持費が高いわりに、平日は帰宅が遅くて乗る時間がなく、使えるのはたまの週末だけ。そんな境遇でマイカーを持つなんてもったいない、無駄遣いだと考えてしまうこと。それに、クルマと歩行者と路上駐車でごった返した都心の道路状況を見て、「これは私には運転できそうもない」と恐怖心を覚えたり、どこへ行くにも高い駐車場代がかかり、ちょっとコンビニに寄るにも停める場所に困る、なんて都心特有の障害があるのも運転しなくなる理由だ。

  でも、普段は地下鉄や自転車で不自由なく過ごしている彼女たちにも、「今この瞬間にクルマがあったなら!」と思う場面があるという。

  北海道から転勤で東京にきた女性は、ミネラルウォーターなど重たい物をまとめ買いできないのがツラいと言う。地元ではケースごと買えたのに、今ではせいぜい3本が限界で、こまめに買い足さないといけない。山梨から来ている女性は、トイレットペーパーとボックスティッシュを同じ日に買えなくなったと嘆く。スーパーでは特定の日にポイント5倍などのサービスがあって、せっかくならその日にたくさん買い物をしたいのに、クルマがないとできないとも言っていた。そして熊本出身の女性は、クリーニングに出した洋服を引き取る時に、クルマのありがたみを実感する。なるべく折り畳まずに持って帰りたいのに、自転車や徒歩ではそれができず、雨が降ってしまうと引き取ることすらできない。こうした不満が、あとからあとからと出てくるのだった。

  話を聞きながら、やはり女性は日常のふとした場面で、クルマに助けられているのだとあらためて思った。でもそれだけじゃない。北海道の女性は、「悲しいことがあると、地元ではすぐクルマで音楽をかけてドライブして気晴らしができたけど、今はそれができなくて」 メンタルのケアにもクルマは即効性がある。東京の女性たちは、どうしたらもっとクルマと過ごせるようになるのか。それが私の最近の悩みである。

文・まるも亜希子

Akiko Marumo

自動車雑誌編集者を経て、現在はカーライフジャーナリストとして、雑誌やトークショーなどで活躍する。2013年3月には、女性の力を結集し、自動車業界に新しい風を吹き込むべく、自ら発起人となり、「PINK WHEEL PROJECT」を立ち上げた。

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