先日北海道に行ってきた。発電所とデータセンターの視察だ。
訪れたのは北海道電力の泊発電所(原子力)とさくらインターネット石狩データセンター。なぜモータージャーナリストがそんなところに? と思われるかもしれない。しかしカーボンニュートラルと、それに伴うクルマの電動化が今後ますます進展していくこと、さらに言えば国のエネルギー政策が産業、とりわけ自動車産業を中心とする製造業の命運を大きく左右することを考えれば、そこに無頓着でいるのはあまりに楽観的すぎるだろう。カーボンニュートラルの要である電化を支える発電所と、今後電力消費量が劇的に増えるデータセンターは、自分の目で見て、自分の耳で現場の声を聞いておきたかった。
再稼働を目指し急ピッチで改修工事が進められている泊発電所では、原子力規制委員会が課す新安全基準がいかに厳しいものであるかを実感した。それでもゼロリスクにはならないが、たとえば津波で流されてきた大型タンクローリーが万が一にも施設にダメージを与えないよう防潮堤を大幅に強化、延長する、といったことを含め、ありとあらゆる「想定外」を想定している。もちろん、事故が起こったときの被害の大きさを考えれば原子力発電はないにこしたことはない。が、逼迫するエネルギー状況やカーボンニュートラル化の要請、エネルギー安全保障を考えあわせると原子力発電は必要だ、と頭では理解しつつ感情が付いていかなかった僕が、ここまで念には念を入れ徹底的な対策をしているのなら…という気持ちになった。
データセンターでは、主にAIを扱うGPU*が発する強烈な熱と、それを冷却する無数の電動ファンのとてつもない騒音に驚愕した。GPUの消費電力はCPUの比ではないと頭では理解していたが、熱風と耳をつんざく轟音をフィジカルで感じ、思ったのは「便利だからとAIを気楽に使うのは正義なのか?」という疑問だった。石狩データセンターは北海道の冷たい外気を利用した節電対策を最大限取り入れているし、技術の進化は誰にも止められないだろうが、AIにはそういう側面があることを心の片隅に置きつつ利用することも大切なのではないだろうか。
Goro Okazaki