岡崎五朗のクルマでいきたい Vol.183 25年後の選択肢

文・岡崎五朗

2030年までの100%EV化を宣言していたボルボがついに白旗を掲げた。

 ボルボだけでなく、EV化を強力に推進していたメルセデスもアウディもフォルクスワーゲンもGMもフォードも、積み上がる一方のEV在庫の山に悩まされている。こんな事態に陥った理由はいろいろあるが、煎じ詰めれば「何を買うかは顧客が決めること」という商売の大原則を忘れてしまったからだ。たとえ時の政府がエンジン禁止政策をぶち上げたとしても、民主主義国家ならば政治家は選挙で落選させることができる。実際、6月の欧州議会選挙では極端なEV&再エネ政策を掲げていた緑の党をはじめとするリベラル政党が大敗を喫した。おそらく2035年のハイブリッドを含むエンジン車禁止法案は大幅に修正を余儀なくされるだろう。

 そんななか、にわかに注目を集めているのがカーボンニュートラル燃料だ。水素と二酸化炭素から合成するe-fuel、バイオ燃料、水素など、エンジンで燃焼させても実質二酸化炭素を出さない燃料が普及すれば、全車EV化などという絵空事を無理やりやらなくてもカーボンニュートラルは実現できる。5月にトヨタとマツダとスバルが共同で「マルチパスウェイ・ワークショップ」というイベントを開催し、その場で新型エンジンをお披露目したのもカーボンニュートラル燃料の普及が視野に入ってきたからだ。

 もちろん、当初はコスト高は避けられず、十分な量の確保もできない。しかし、カーボンニュートラル燃料はガソリンや軽油に混ぜて使える。最初は10%、次は20%…と徐々に混合率を増やし、日本政府がカーボンニュートラル化を表明している2050年までに100%にすればいい。もちろん、EVの性能もどんどん上がっていくから、すべてのクルマがカーボンニュートラル燃料で走ることにならないだろう。だが、少なくとも「解決策はEVのみ」という決め打ちで物事を進めていく必然性はここに来てかなり薄れてきた。25年後の顧客が選ぶのはEVなのか、あるいはカーボンニュートラル燃料で走るクルマなのか。僕が想像しているのは、用途や好みに合わせた選択肢が用意された自由なクルマ社会である。

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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