レンタカーは往復が当たり前。そんなふうに刷り込まれているけれど、移動の基本を「片道」にすると、クルマは飛行機や鉄道、船など他の交通手段とつながることができ、自由度ははるかに増す。
片道レンタカーの「カタレン」を運営するPathfinder株式会社CEOの小野崎悠介氏に話をお聞きした。
「自動運転時代をもっと便利にしたい」 そう語るのはカタレンを運営する
片道レンタカーと聞いて、私がパッと思いついた用途は「引越し」だった。往路のみ需要があり、帰路は必要ない。そんな時に片道レンタカーは便利そう! と感じた。小野崎さんによると、実際に引越しで利用されるほか、旅行はもちろんのこと、帰省や単身赴任時の帰宅、展示会の試作品運搬などに使われているそうだ。
そして利用者の半数は20代だという。「例えばグループ旅行の際、新幹線は高いよねとか、高速バスは安いけど大声で話せないし、好きな音楽をかけられないとか。また、寄りたいところに気軽に寄れないとかいった公共交通機関の不便さに対して、仲間と気ままに旅ができるレンタカーの自由度の高さが若い人に刺さっているのではないでしょうか」と小野崎氏。同社によるアンケートでは利用動機の1位は「移動の自由度」であり、旅行の際にカタレンを利用すればさらに旅の自由度はぐっと高くなる。
片道レンタカーは使い方次第で非常に便利だが、レンタカーを利用する際は借りた店舗と同じ店舗に返すのが一般的だ。サービスとして片道だけの利用も可能だが、その場合、車両の運搬手数料(店舗に車両を戻す手数料)として、基本料金以上の乗り捨て料金を請求されることも珍しくない。だが、カタレンは店舗に車両を戻す運搬手数料がなんと無料。
なぜそれが可能なのか。その理由は、「お客様にクルマを回送してもらうから」だ。
同社は自社でレンタカー業務の免許をとり、自社車両を30台ほど所有。片道利用のみの片道レンタカー屋さんとして、片道だけ利用するお客さんをたくさん抱えている。一方で大手レンタカー会社には「A店からB店へクルマを移動したい」「乗り捨てのクルマを回収したい」というニーズがある。そこで大手レンタカー会社と提携し、カタレン利用者に回送車を移動してもらう。大手レンタカー会社の車両回送のニーズと、片道だけ利用したいユーザーのニーズをマッチングし、コストを安く済ませることができているのだ。
このビジネスのアイデアのきっかけは小野崎氏が自動運転の研究をしていた大学時代にある。小野崎氏は当時からすでに将来、自動運転の時代は来ると考えていた。
移動とは行きと帰りの移動手段が決して同じである必要はない。より移動を効率化するなら移動の最小単位の片道ずつに細分化して利用してもらうのが、利用者にも業界にとっても一番効率的と考える。カタレン利用者の膨大なデータの蓄積が今後の「モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)」の発展に大きく役立つ。MaaSとは、情報通信技術を使い、「移動」を効率化することを意味する。都市部の渋滞解消や地方交通の再構築、環境問題対策の一環として期待されている技術だ。
「電車、バス、飛行機の乗り換えなど乗換案内の総合サービスのようなものの中に、定時制が低いクルマは組み込まれていないのが現状です。クルマを借りた場所に返すという従来のレンタカーのシステムだと、出発地に戻ってしまうので他のものと繋がれない。しかし片道利用ならそこから飛行機に乗ったり、新幹線を利用したりが可能です。片道ごとにクルマを貸すことによって他の移動手段とよりスムーズに繋がっていける。そこを目指して、今はまず足元の片道レンタカー事業に注力しています」(小野崎氏)
カタレンの直近のビジョンとしては空港間の観光移動を主要ターゲットとしインバウンド予約も開始する。また、環境問題に配慮して今年中にEVの導入も予定している。今はまだ自由に車種を選ぶことができないが、徐々にユーザーの選択肢を増やしていきたい、とも。自身もクルマ好きである小野崎氏は、移動の便利さだけでなく、クルマの楽しさも提供したいと考えているからだ。
将来の自動運転時代を見据えている小野崎氏だからこそ、手堅く着実にモビリティサービスの未来に向けた進化にも貢献できているのだと、話を聞いている私もわくわくした。
小野崎悠介/Yusuke Onozaki
黒木美珠/Mijyu Kuroki
(YouTube「AUTO SOUL JAPAN 旧みじゅ【車と洗車ちゃんねる】」 右のQRコードから)
ahead TV 次世代ジャーナリストがいく 第4回
ジャーナリストへの道を
拓いてくれたのはヴェゼルだった
文・黒木美珠
幼少期、GWのお決まりの家族行事はスーパーGT観戦だった。サーキットでしか見られない、ハイスピードで目の前を駆け抜けるカッコいいクルマ同士の戦いに非日常感のあるトキメキを感じたのを覚えている。休日の朝イチには父や祖父と一緒に家のクルマを手洗いし、晴れた日には祖母の乗るS2000で箱根をドライブした。幼い頃から、意識せずとも人よりクルマと接する機会が多かった。私にとってクルマは生活に欠かせない相棒であるとともに、自分の生活に寄り添ってくれる娯楽や趣味、エンターテインメントのひとつでもあった。
青春時代は週7日で部活動に励み、クルマと触れ合うのは遠征時の母親の送迎クルマくらいだったが、社会人1年目にホンダ「ヴェゼル」を購入したことをきっかけにクルマ好きが再燃した。人生で一番高い買い物な上に、一番汚れの目立つ黒いボディカラーを買ってしまったからには、「常にきれいに、大切に乗ろう」と決め、週末必ずヴェゼルを手洗いをしていた。この週末の手洗い洗車の習慣を大学時代の友人たちに話したところ、洗車は洗車機に入れるだけだったり、もしくはそもそもクルマを持っていなかったりする友人がほとんどだった。「週末に手洗い洗車をしている22歳女性」というのは自分が思う以上にレアキャラなのか!? と少しの焦りを感じるとともに、同年代である若者のクルマ離れに対して危機感を持った。そして「クルマの魅力を伝え、老若男女問わず、クルマ好きが増えて欲しい」という思いからYouTubeチャンネルを開設した。
当時はまだプロドライバーのインカー映像や、ドラテク講座のようなコアな内容のものが大半で、クルマにまつわる情報を発信するYouTubeチャンネルはそう多くなかった。そんな中、比較的ライトな内容の「洗車で愛車を大切にする方法」を中心に発信し、2年目からはエアコンフィルターやマフラーの交換、エアロ取り付けなどのちょっとしたカスタムのやり方なども配信してきた。すると、私の動画を見てヴェゼルを購入したというメッセージを年間で数十件受けるようになり、クルマ好きの輪を広げるという目標を少しずつ達成できている喜びを感じた。でもこの頃まではまだあくまで「クルマ好きを増やしたい」というサークルの延長のような気持ちだった。転機が訪れたのは2021年3月、ヴェゼルがフルモデルチェンジしたときのこと。
ある日、ホンダの広報担当の女性から一通のメールが届いた。「プロトタイプの新型ヴェゼルをいち早く撮影しませんか」というお誘いだった。まさかメーカーの方が私の配信を見てくれているとは思わず、今まで活動してきたことは無駄ではなかったと、メールを見ながら涙が出たのを覚えている。この時撮影した新型ヴェゼル プロトタイプの車両紹介動画をきっかけに、他のメーカーからもお声をかけて頂くことが増え、私は本格的に自動車ジャーナリストへの道を意識するようになった。
初めて買ったクルマがヴェゼル。初めて取材したクルマもヴェゼル。私の人生のきっかけとターニングポイントはいつもヴェゼルとともにあった。あの時、ただの洗車好きの女の子だった私に声をかけてくださった広報の方には感謝してもしきれない。
自動車の情報をいち早く取材し発信する自動車ジャーナリストという仕事はクルマ好きにとっては夢のような仕事だ。発売されたばかりの日本車、輸入車にいち早く乗ることができ、普通はなかなかお会いすることのできない開発者の方から直接話を伺い、それを記事にする。クルマ好きとしてはこれ以上ない喜びとやりがいを感じることのできる仕事だと思う。その貴重な機会に感謝しながら私は様々な「想い」を届けたいと思っている。
クルマをただの移動手段としてだけ評価して配信するのではなく、クルマを開発する過程でのいろんな人の想いや願いも汲み取った上で配信したい。私が発信する情報を手に取る人が、少しでもクルマに対して何か愛情のような思い入れを感じることができたら嬉しい。
そんな願いも込めて、YouTube活動4年目を迎える今年、私はチャンネル名を「AUTO SOUL JAPAN」に改名した。