岡崎五朗のクルマでいきたい Vol.171 ギガキャストの真実

文・岡崎五朗

テスラが推し進めているギガキャスト。従来は数十の鋼板を切断、プレス成形し、溶接で組み上げていたところを、巨大なアルミ鋳造マシンでドーンと一気につくってしまう方法だ。

 これにより部品点数が大幅に少なくなり、製造ラインも短くなり、結果としてコストが大幅に削減する、というのがテスラの主張だ。これを鵜呑みにした一部メディアは、自動車製造の再発明! と持ち上げまくっていたが、僕は懐疑的だった。鉄からアルミにしたら材料コストは上がるし、衝突時のリペアビリティも悪くなるし、いいことばかりではないんじゃないの? と。

 そんななか、トヨタが2026年に発売する予定の新型BEVにギガキャストを導入するというニュースが流れた。「再発明説」を唱える人たちは、ここぞとばかりに、ほーら見たことか。トヨタも真似をしてきたんだからギガキャスト最高じゃん! と盛り上がったが、トヨタの鋳造技術者を取材をしていく過程でギガキャストの真実が見えてきた。今回はそこを皆さんと共有したい。

 結論から言って、トヨタの場合、ギガキャストにしてもコストはさほど下がらないという。なるほどねと思ったのは次の言葉。「われわれと違って、テスラさんは溶接技術の積み上げが少ないのでギガキャストのほうが安くなるんじゃないでしょうか」。つまり、トヨタは改善に次ぐ改善によって従来工法でのコストを極限まで下げている。だからいまさらギガキャスト化してもコスト低減は見込めないということだ。日産もギガキャストのコスト低減効果的には懐疑的だ。

 ではなぜトヨタはギガキャストを採用するのか。最大の動機は走行性能の向上だ。リペアビリティを考慮しつつ、要となる部分を大型鋳造パーツとすることで従来よりも剛性を高めることができ、結果として「もっといいクルマ」ができ上がる。最近は中国メーカー勢もこぞってギガキャストを採用し始めたが、溶接技術が未熟な彼らの狙いもテスラと同じくコスト削減がメイン。しかしトヨタにとってのギガキャストは異なる意味をもつ。そう、世に出ている報道だけが真実ではないのである。

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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