なぜソニーがEVを作り、トヨタが街を作るのか

文・小沢コージ

新春ラスベガスの「CES」ことハイテク見本市に行ってきた。元々は消費者家電見本市だが、今やメルセデスやアウディ、トヨタ、日産、ホンダがこぞってブースを出し、事実上のハイテク自動車ショーと化してるのは誰もが知るところ。

 今年も日本メーカーがとんでもない新技術を発表してきた。ソニーが出した初のEV「VISION-S」とトヨタのコネクティッド・シティ「WOVENウーブン CITY」だ。

 正直、どっちも一瞬マジかよ? と思う。確かにこれまでソニーはウォーキングステレオのウォークマンや次世代ゲーム機プレイステーション、愛玩ロボットのアイボなどを生み出して来た。あのソニーがEV! ってことでみんながワクワクするのもよく分かるし、帰国後も記事要望が高かった。スポーツ選手のイチローみたいなもので「イチローが新球団を作る!?」とか「フルマラソンを走る!?」と聞けば、難しいと思いつつ誰もが期待するだろう。ソニーもそういう存在なのだ。

 ただし、小沢的にソニーVISION-Sは「なるほど」という程度。なぜなら試験走行は予言しているが、量産化は否定しているし、今やソニーはカメラ用センサーのトップメーカー。今回VISION-Sはソニー製の各種ハイテクセンサーを33個も搭載しており、まさしくセンサーのショーケース。VISION-Sは、今後自動車がセンサーの塊となることへの予言の1つであり、自動車メーカーへの提案であり、超分かり易い売り込みでもあるのだ。

本誌P5の「FEATURE1 ソニー、EV参入の意味」でも紹介した「Sony VISION-S」はCES2020で発表された。

 それ以上に小沢が注目したのはトヨタのWOVEN CITYだ。トヨタが街を作る? 一瞬、不思議な気がするが、2つの大きな要因がある。1つは昨年既に発表済みの新会社、プライムライフテクノロジーズ社の存在。トヨタはパナソニックとの共同出資でパナソニックホームズ、トヨタホーム、ミサワホームなどの住宅事業会社を傘下に収め、街づくり、新築請負、リフォーム、住宅内装、海外事業などを行うと宣言。今後トヨタも単純にクルマを作っていくだけじゃない。家づくり、街作り事業にも触手を伸ばして行く可能性があるのだ。

 もうひとつはCASE&MaaSケース マーズに対する「住む研究室」としてのWOVEN CITYだ。

 ご存じ今は自動車業界の大変革期で、コネクティッド、自動運転、シェアリング、電動化、さらに移動そのものをビジネス化するマーズへの対応は避けられない。しかし、一部自動運転や電動化は、いうほどスムーズに進化していない。国によって新技術に対する対応はまちまちだし、EVの導入は補助金が終わると止まってしまうケースもある。マーズに関しても簡単には導入できない。

 中でもネックとなるのは「実証実験」である。人、クルマ、自転車が行き交う街で、自動運転車やマーズの実験はしたいが、リスクが伴う。当然クルマとクルマの衝突が起きるかもしれないし、最悪の場合、人とクルマの事故もありうるだろう。マーズも道の構造、システム、アプリ、機械故障、どこで躓くかわからない。結局は街や都市の中で使うモノなので、実際に試して、システムが上手く動くようにアップデートもしたい。だが、失敗は許されないし、中でも人命に対するリスクは御法度。生々しい実験はしたいが、失敗も出来ない。ある種の矛盾を抱えた状態なのだ。

 そこでWOVEN CITY。東富士の関東自動車工場跡地にトヨタ関係者や協力会社を集めて、2,000人程度の街を作る。関係者ばかりなのでコントロールは効くし、データは取れるし、リスクも最小限に抑えられる。跡地の有効活用にも繋がり、八方が丸く収まる見事なアイデア。自動車のトヨタがハイテクシティを作る。十分アリではないか。久々に日本メーカーが生んだハイテクの初夢。これだけでも今年のCESに行って良かったと思う。

photo:CES®

小沢コージ氏のYouTubeチャンネル「KozziTV!!」で今回のCES2020の様子を見ることができます。

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