岡崎五朗のクルマでいきたい vol.125 高齢ドライバーの支援策

文・岡崎五朗

 高齢者の事故やあおり運転など、クルマにまつわるネガティブな話題が社会問題として注目されている。

 これらが報道されることでクルマの安全性に注目が集まり、事故が減るのなら歓迎なのだが、新聞や週刊誌、テレビといったマスメディアの報道内容を見ていると暗澹たる気持ちになる。とくに酷いのはテレビのワイドショーだ。視聴率稼ぎのお涙頂戴の内容には、事故を伝えることによって将来起こりうる事故を軽減させようという、報道機関として当然もつべき理念が一切感じられない。

 先日もとある番組で高齢者の運転免許問題を採りあげていた。あるコメンテーターが「年齢制限をつくって強制的に返納させればいい」と暴論を吐けば、もう一人が「いやいや、あと5年も経てば自動運転が実現するので免許返納は意味ないです」と。僭越ながら、お二人とも何もわかっておられない。考えを述べるのは自由だが、コメントが多くの人に影響を与える以上、背景にはきちんとした状況認識があるべきなのにそれがない。まず、ドライバーが関与しない自動運転は5年程度では絶対に実現しない。地域限定のノロノロ運転の乗り合いコミューターなら可能性はあるが、普通の人が普通に買え、どこにでも行けるクルマが自動運転になるのはまだまだ遠い未来の話だ。強制免許返納にしても、地方に住むお年寄りはクルマなしでどうやって暮らしていけばいいのか? タクシーやバスを手配するとして、その費用はどうやって捻出するのか? そういった現実論を無視した意見に僕はまるで価値を感じない。

 さらにことは送迎コストだけにとどまらない。筑波大学の市川教授の研究によると、クルマの運転をしなくなると要介護リスクは2.2倍になるという。逼迫した介護保険の状況を考えれば要介護リスクを減らすのは日本社会にとって喫緊の課題。運転できる人にはできるかぎり運転し続け元気でいてもらわなければ介護保険は早晩崩壊する。クルマ側は運転支援機能の充実を、行政は免許更新時の運転能力の確実な検査を。これらをセットで行うことで安全を担保しつつ、元気で活き活きとした高齢ドライバーの支援を行うのが国の役目である。


TOYOTA YARIS
トヨタ ヤリス(プロトタイプ)

欧州仕様と並んだ基本性能

 前号で、生まれ変わったカローラを「誉めないわけにはいかない」と評した。それに続く新型ヤリスも、同様の出来映えである可能性が高い。断定していないのは、先日開催された試乗会が2月の正式発売を前にしたプロトタイプ試乗会であり、かつ試乗がサーキット内という限られた状況だったからだ。けれど、感触としては「そうとうよかった」ということをまずはお伝えしておく。

 スターレットの後継モデルとして’99年に登場したヤリスは、世界、とくに欧州のコンパクトカーに対抗すべく開発された意欲作だった。しかし国内仕様のヴィッツはといえば、「日本のコンパクトカーユーザーは優れた走行性能など望んでいない」という当時のトヨタの判断の下、サスペンションやボディが容赦ないコスト削減対象となり、基本中の基本である直進安定性に不安を抱える仕上がりだった。続く2代目、3代目も方向性に変化はなかった。欧州に出向いたときに現地仕様のヤリスに乗ると、剛性感や直進安定性の差に愕然としたものだ。

 今回のトヨタの狙いは、ネーミング変更が示すように日本仕様の立ち位置を欧州仕様と同じところにシフトさせること。全幅は欧州仕様の1,745mmに対し1,695mmに抑えられ、かつ走行速度域の違いを踏まえボディ剛性強化対策も少し控えめになっているが、それでも新型プラットフォームは大幅な軽量化と性能アップを実現。エンジンも新設計の3気筒を投入してきた。サーキットで乗るかぎり、ボディのガッチリ感、直進安定性、コーナーでの身のこなしといった基本性能の向上はかなり大幅。上まで回すと少々うるさいが3気筒エンジンは活発だし、プリウス超えの燃費と走りの両立を目指したハイブリッドのフィーリングもよかった。かつてはレンタカーで出てくるとガッカリさせられたヴィッツだが、新型ヤリスならラッキー! と思えるだろう。2月の公道試乗が楽しみだ。

トヨタ ヤリス(プロトタイプ)

*11月末時点でのデータ/諸元値はHYBRID G(FF)
車両本体価格:12月発表予定
全長×全幅×全高(mm):3,940×1,695×1,500
エンジン:直列3気筒 1.5ℓダイナミックフォースエンジン+ハイブリッドシステム
総排気量:1,490cc 乗車定員:4名
車両重量:1,090kg
最高出力:未発表
最大トルク:未発表
燃費:未発表
駆動方式:FF

DAIHATSU COPEN GR SPORT
ダイハツ コペンGRスポーツ

大人のためのコペン

 2シーターオープンスポーツのコペンにGRバージョンが加わった。GR(ガズーレーシング)とはトヨタのモータースポーツとスポーツカー開発を担う部門で、そこが開発したコペンということになる。なぜトヨタがダイハツのクルマを? と思うかもしれないが、ダイハツは2016年からトヨタの100%子会社になっている。加えて、スポーツカーラインアップの充実を図りたいGRと、トヨタの協力を得てクルマの進化と拡販(コペンGRスポーツはトヨタの販売店でも扱う)を狙いたいダイハツの思惑が一致した結果、今回のコラボレーションが実現したという。

 開発の仕組みをシンプルに説明すると、ベースとなるコペンにGRのノウハウを注入する、というもの。具体的にはボディ剛性の向上、足回りや電動パワーステアリングのチューニングを実施。ガチガチな方向ではなく、あらゆる路面でしなやかな接地性と扱いやすさを感じられる特性を狙ったという。実際、走りだして最初に感じるのはよりガッチリしたボディとスムースに動く足だ。スポーツモデルなのにノーマルのコペンより乗り味はむしろ上質。荒れた路面ではさすがにサスペンションストローク不足を露呈するが、一般的な路面状態なら至極快適に走れる。切り始めからジワリと正確に旋回力を立ち上げるステアリング特性もGRらしさを感じる部分。自主規制の64psがあるためエンジンには手を入れていないが、落ち着き感と上質感を高めた外観や内装を含め、大人のためのコペンというキャラクターをはっきりと感じとることができたのは収穫だった。

 コペンはFFのメリットを活かし、ミッドシップのホンダS660とは比べものにならないほどの実用性を持っている。こういうクルマをセカンドカーとして所有すれば、日常的な通勤だけでなく、ひとりきりのドライブや夫婦水入らずの温泉旅行など、かなり楽しいカーライフが送れるのではないだろうか。

ダイハツ コペンGRスポーツ

車両本体価格:2,380,000円~(税込)
*諸元値は7速スーパーアクティブシフト付CVT
全長×全幅×全高(mm):3,395×1,475×1,280
エンジン:水冷直列3気筒12バルブDOHC
総排気量:658cc 乗車定員:2名
車両重量:870kg
最高出力:47kW(64ps)/6,400rpm
最大トルク:92Nm(9.4kgm)/3,200rpm
燃費:19.2km/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:2WD

TESLA MODEL 3
テスラ モデル3

テスラ初の廉価モデル

 自動運転にまつわる過剰アピールや燃料電池への誹謗中傷など、イーロン・マスクCEOの言動にはときおり眉をひそめたくなるが、自動車産業への新規参入という高いハードルを見事に越えて見せたという点で彼は間違いなく非凡な経営者だ。さらにもう一点、認めざるを得ないのが、テスラのつくる商品が魅力に溢れているということだ。

 最新モデルのモデル3は、テスラが手がける初めての廉価モデル。モデルSやモデルXが1,000万円オーバースタートであるのに対し、モデル3のスターティングプライスは511万円。しかしスタンダードモデルは航続距離が409kmと短く(それでも十分長いが)通信機能も制限されるため、売れ筋は655万円のロングレンジ(560km)だという。価格感とサイズ感は4気筒ターボを積むBMW3シリーズの上位モデルに近い。

 ドアを開けると物理スイッチを徹底的に排したダッシュボードが目に入る。部品点数が少なくなる分、コストも大幅に節約できるはずだ。よく言えばシンプル、悪くいえば殺風景だが、素材感と組み付け精度が高いので安っぽさはない。ほとんどの操作を15インチディスプレイで行うため操作性はよくないが、この斬新なデザインはテスラを買うような新しもの好きには好まれるだろう。僕もこのテイストは嫌いじゃない。

 驚いたのはドライブフィールだ。シリコンバレーがつくったクルマという表現がよく使われるテスラだが、モデル3の開発には間違いなくプロの自動車屋、それもかなり優秀な人物が関わっているに違いない。乗り心地はフラットだし、ステアリングも滑らかで正確。そして何より電動パワートレーンがきわめて洗練されている。試乗したロングレンジモデルの0-100km/h加速はBMW・M3の4.3秒に迫る4.6秒。それでいて圧倒的な静かさとスムースさを誇る。乗ったら目から鱗が落ちること請け合いだ。

テスラ モデル3

車両本体価格:5,110,000円~(税込)
*諸元値はパフォーマンスモデル
航続距離:530km
最高時速:261km/h
0-100km/h:3.4秒
車両重量:1,847 kg
駆動方式:デュアルモーターAWD

Honda FIT
ホンダ FIT

スペック競争からの離脱

 先代フィットに対する僕の評価はあまり高くなかった。というと誤解されるかもしれないから補足しておく。クルマとしての実力は決して悪くはなかった。ライバルのアクアと比べると、とくにパッケージングとインテリアの質感はフィットが大差を付けてリードしていたほどだ。しかし、線を多用したビジーなエクステリアデザインには最後まで目が慣れなかったし、そもそも論としてホンダの売り方に僕は大きな疑問をもっていた。アクアのカタログ燃費を超えるべく、ボンネットをアルミ化し、燃料タンクを小型化し、挙げ句の果てには分割機構はおろか中央席用のヘッドレストまで省いたペラペラの後席を取り付けた「燃費スペシャルグレード」を設定。この、ほぼ誰も買わないグレードの燃費をテレビコマーシャルでデカデカとアピールしてきた。こんなことしても誰も幸せにならない。

 新型フィットの開発陣にそれを問うと、「新型では不毛なスペック競争はやめることにしました」という答えが返ってきた。数字ではなく人が心地よいと感じる性能を造りこんでいくことが新型フィット開発の柱となる考え方だったという。思わず「いいですねー!」と反応してしまった。

 そんなコンセプトはけれん味のない外観や、シンプルだが暖かみのあるインテリアにきちんと表現されている。ストロークのたっぷりしたシートの座り心地や、究極まで細くしたフロントピラーが生みだす視界のよさも心地よさを高めている大きな理由だ。

 もちろん、心地よさは走りの面でも第1プライオリティになっている。テストコース内での試乗だったが、路面の凹凸に対し足はスムースに動き、i-mmd改めe:HEVと呼ばれる2モーター式ハイブリッドのフィーリングも上々だった。1ℓ3気筒ターボのフィーリングを含め、詳細なインプレッションは2月頃に開催される公道試乗会を待ってお届けする予定。かなり期待できそうだ。

ホンダ FIT

車両本体価格:1,455,300円~(税込)
*諸元値はHYBRID・L Honda SENSING<FF>
全長×全幅×全高(mm):3,990×1,695×1,525
エンジン:水冷直列4気筒横置
総排気量:1,496cc
乗車定員:5名
車両重量:1,150kg
【エンジン】
最高出力:81kW(110ps)/6,000rpm
最大トルク:134Nm(13.7kgm)/5,000rpm
【モーター】
最高出力:22kW(29.5ps)/1,313~2,000rpm
最大トルク:160Nm(16.3kgm)/0~1,313rpm
燃費:34.0km/ℓ(JC08モード)
駆動方式:FF

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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