モタスポ見聞録 Vol.27 日産が参戦するフォーミュラE

文・桂 伸一

「ヒューン」と唸るのはモーター音。「キューン」と減速と共に音量が高まるのは回生ブレーキ音。加速して行く際の「キュルル」はギヤ音。この擬音の正体は…!?

 世界中のいつもの街並に忽然と現れる分厚いコンクリートブロックで囲われた公道サーキット。そこでレースをするのは擬音の主、バッテリーEVカーのフォーミュラE(以下FE)である。大音量のエンジンサウンドも、もちろん排気ガスの煙も匂いも無い、まさに“電動RC (ラジオコントロール)カー”感覚の音しか発しないため、世界各国の名所を舞台に市街地レースが展開されている。

 FE発足から5年目の今年、日本メーカーで唯一参戦する日産のフォーミュラEチーム、正式名称“日産e.dams”(ダムス)の戦いが熱い。初年度にも関わらずポールポジションを獲得し、トップを快走するなどいきなりの快進撃だ。激戦に次ぐ激戦のレース内容は、「F1」よりも各マシンの「差」が少なく、戦いの内容が濃い。

 トップに立つ者を引きずり降ろすようなレース展開は見る者をワクワクさせる。日産もそう易々と勝たせてはもらえず、現時点で最高位は2位どまりだ。

 すでにEV量産車、リーフを世界40万台以上送り出している日産だけに、FEのいかに“効率良く電気消費を抑えながら使い切るか” が、レースという厳しい実戦に参戦して鍛えられる意義は大きい。

 参加7チームはボディ/シャーシ、バッテリー、タイヤは全車共通。モーター、インバーター、コントローラー、トランスミッションなど、要となるパワートレーンは各チームオリジナルにして極秘のカタマリ。

 レースは45分+1周で行われ、エネルギーマネージメントが重要となる。速く走りつつ回生し、レース距離に応じてどう使い切るかは、まさにメーカーの威信を懸けた技術力の勝負である。参加7チームはもちろん、自動車メーカーが直接、あるいは名を変えて参加する。ここに今後メルセデス・ベンツとポルシェも参戦してEVによる主導権争いが激しくなるが、レースをやれば技術は急速な進歩を遂げる。残り2戦、日産ドライバーが表彰台の中央に立てるかも含め、ワクワクしながら見守りたい。

 またFEレースと同時併催で今期から始まったレース、「ジャガーI-PACE eトロフィー」にも注目したい。市販車をベースとしたフルバッテリーEVカーによる世界初のワンメイク・シリーズだ。

 2モーター4WDは標準モデルでも0-100㎞/h加速4.8秒の瞬発力と470㎞の航続距離を持つ市販車で、レース仕様車は200Kg軽量化されてパフォーマンスはわずかに向上している。

 レースは無謀なバトルがそこかしこで展開される。強靭な骨格を持つクルマだから多発する接触もシリアスな状況にはならず笑っていられるが、市街地というただでさえ難しいコースで戦うのだから乱戦模様。滑りやすい舗装路に雨とくればI-PACEは、FEを上回るスピードを見せる。

 どちらのレースもとにかく目が離せないのである。

Shinichi Katsura

1959年生まれ。モータージャーナリスト。COTY選考委員、WCAワールド・カー・アワード選考委員。レーシングドライバーとしてニュル24時間レースにアストンマーティンのワークス・ドライバーとして参戦し、2度のクラス優勝を飾る。

定期購読はFujisanで