今回の巻頭特集のテーマは〝ピュア〟である。それを聞いて真っ先に思い浮かんだのは、現在のところ最後のロータリー・エンジン搭載車となっている、マツダRX-8だった。
より正確にいうなら、RX-8に関わった人達の想いの熱さ、である。
RX-8の販売がスタートしたのは、2003年の春のこと。前年の夏に生産中止となったFD3型RX-7の直接的な後継車というわけではなかったが、RX-7なき後のロータリー・エンジンを積む唯一のスポーツ・モデルとしての登場だった。
同じ〝RX〟を名乗るクーペでありながら〝7〟と〝8〟で決定的に違っていたのは、まずはドアの数。8は小さな観音開き式ドアを設けることでリアシートへの乗降性を確保した、フル4シーターの4ドア・モデルとして設計されていたのだ。
そしてもうひとつは、搭載された13B型ロータリー・エンジンがFD3のようなシーケンシャル・ターボ付きではなく、自然吸気とされていたこと。スピードを重視する一部のファンからは嘆きの声も聞こえたが、マツダの狙いは違うところにあって、ターボを廃することでロータリー・エンジンの大きなデメリットといえた燃費の悪さを緩和させながら、自然吸気ならではのレヴリミットまでストレスなしに伸びやかに回っていく、よりロータリー・エンジンの特色を活かした気持ちのいいエンジンを作ることだった。パワーはFD3の最後期型の280psに対して、最も出力の高い仕様では250ps。ターボ付きのような胸のすく加速感こそなかったが、特有の線の細いサウンドのオクターヴを上げながら滑らかに吹け上がっていくときのフィールの気持ちよさは、格別だった。
そのコンパクトな13Bユニットはフロントアクスルの後ろ側に低くマウントされていて、ハンドリングも抜群によかった。スポーツカーとしての完成度は極めて高かったのだ。
〝8〟発売の数ヵ月前、僕達はテストコースでプロトタイプに試乗させてもらう機会に恵まれた。その試乗会の晩、開発に関わった人達と飲みながら色々な話をしていたのだが、その席で僕は思わずもらい泣きしそうになった。当時にしてすでにロータリー存続には常に困難がつきまとっていたことは知っていたが、彼らは〝7〟の後にもどうしてもロータリーを積んだスポーツ・モデルを作りたかった。その苦労を笑いながら語っていたとある役員は、〝それがこうしてカタチになってよかった〟という言葉を発すると、笑顔のままポロポロと涙をこぼしたのだ。そこにあったのは、ロータリー・エンジンにかける純粋な想いだったのだ。
日本の自動車メーカーの中にも、こんなふうに熱い想いでクルマ作りに従事している人がいるということを、僕達は忘れてはいけないのだ。