岡崎五朗のクルマでいきたい vol.113 COTY辞退に想うこと

文・岡崎五朗

 今年のCOTY(カーオブザイヤー)は異例の9台で争われた。予備投票で上位10台に残っていたフォレスターが、土壇場になってのスバルの辞退で外れたからだ。

 加えて、今年はイヤーカーを十分に狙えるジムニーもスズキの辞退によって選考リストから外れていた。

 なぜ辞退したのかとうと、前回のコラムで詳しく書いた燃費&排ガス試験での不正が原因である。不祥事を起こした以上、賞典に参加するのは好ましくない、というのがスズキとスバルの考えのようだ。もちろん、個々のメーカーの考えは尊重すべきだが、そのうえで「それってなんかおかしいよね」というのが僕の正直な気持ちである。

 まず、COTYはエントリー制ではない。主催者である実行委員会が発売日や販売台数などの基準に従ってリストを作成し、自動的に対象モデルが決まる。したがって、受賞した後に辞退するなら話はわかるが、事前の辞退など本来はナシ。選考委員である僕からすると、「不正」の「中身」まできちん勘案して点数を付けるのが我々の仕事だ。スズキもスバルも不正をしたが、悪質度は制限速度60km/hの道路を65km/hで走った程度のもの。加えて、ジムニーにもフォレスターにも、商品としての欠陥はまったくない。にもかかわらず、評価をするチャンスを奪われてしまったのは評価者としてはなんとも悔しい。

 百歩譲ってそれは認めたとして、もっとも残念なのはスズキとスバルが下した辞退という選択そのものだ。もちろん、不祥事を起こしたくせにCOTYなんて…と批判する人もいるだろう。でもね、いまの世の中、何かあると正義感を振りかざして他人の非を責める人はいくらでもいる。そんな暇人から非難されるのを怖れるあまり、COTYの受賞を楽しみにしている自社のファンやジムニーやフォレスターのオーナーを無視してしまったのは本当に残念だ。僕の番組(クルマでいこう!)には視聴者から毎週何百通ものメールが届くが、ジムニーやフォレスターユーザーから「COTY受賞を楽しみにしていたのにとても残念です」という声がたくさん寄せられた。COTYとは誰のためにあるのかをもう一度考え直すべき時期に来ているのではないだろうか。


BMW X5
ビーエムダブリュー・X5

5年で異例のモデルチェンジ

 もうフルモデルチェンジ? 新型X5登場のニュースを聞いてそう思った。先代が登場したのは2013年半ばだからまだ5年しか経っていない。初代は8年間、2代目は6年間販売した。よほどの不人気車であれば話はわかるが、先代は好調な販売をキープしていただけに、たった5年での刷新は異例だ。

 開発陣に話を聞くと、競争が激化しつつあるSUVマーケットにおいて優位性を保つための早めのフルモデルチェンジだったそうだ。

 新型X5は、7シリーズや5シリーズが採用する新プラットフォームをベースにしている。これにより、軽量化を図りつつ、走行性能や快適性を大幅に引き上げたという。と同時に、高度な運転支援機能も獲得した。

 エクステリアデザインは典型的なキープコンセプト。2台並べればすぐにわかるが、単独では新旧モデルの違いをすぐに言い当てるのは難しい。もちろん、優れたものを無理に変える必要はないのだが、パリモーターショーでデビューした新型3シリーズにしろこの新型X5にしろ、最近のBMWデザインには少々行き詰まりを感じる。保守的イメージの強いメルセデスがデザイン面で攻めに転じていることを考えると、BMWもそろそろ何らかのアクションを起こす必要があるだろう。

 ボディサイズは大きい。米国仕様のスペックをそのまま記すと、全長は36mm伸びて4,922mmに、全幅にいたっては66mm増えて2,004mm! になった。日本では欲しくても買えない人が続出しそうだ。

 とはいえ、収まるガレージさえあれば大きさは魅力にもつながる。週末のレジャーが主な用途であれば、広々した室内はきっと家族に喜ばれるだろう。より高まった静粛性や洗練度を増した乗り心地、パワフルな3ℓ直6ターボディーゼル、巨体を感じさせない素直なハンドリングも新型X5の特徴だ。日本導入は2019年前半。3ℓガソリン直6ターボや4.4ℓV8ターボも導入予定だ。

BMW X5

車両本体価格:未定
*諸元値はX5 xDrive30d
全長×全幅×全高(mm):4,922×2,004×1,745
エンジン:直列6気筒ディーゼル・エンジン
総排気量:2,993cc
最高出力:195kW(265ps)/4,000rpm
最大トルク:620Nm/2,000~2,500rpm
加速性能[0-100km/h]:6.5秒 最高速度:230km/h

JEEP WRANGLER
ジープ・ラングラー

伝統の継承と燃費性能アップ

 2018年はオフロードモデルのビンテージイヤーだ。ジムニー、Gクラス、そしてジープ・ラングラーという生粋のオフローダーが揃いも揃ってリニューアルされたからだ。この種のモデルはさほど大きな需要が望めないためモデルチェンジサイクルは長めになる。Gクラスは40年ぶり、ジムニーは20年ぶり、そしてジープ・ラングラーは10年ぶり。こんな偶然は二度とこないかもしれない。

 最近はコンパスやレネゲードなど、流行のSUVにも力を入れているジープだが、軍用車としてスタートした初代ジープの直系の子孫にあたるのがこのラングラーだ。JL型と呼ばれる最新モデルにも、強固なラダーフレーム式シャシーや可倒式フロントスクリーン、取り外し可能なドアといった伝統が色濃く反映されている。一方、軽量化や空力性能の向上、直4ターボエンジンの新採用などが、生粋のオフローダーであるラングラーとて燃費を無視できない時代になったことを物語る。

 日本仕様は2ℓ直4ターボを積む「スポーツ」と、3.6ℓV6を積む「サハラ」の2種類。ともに4ドア仕様のアンリミテッドだが、将来的には2ドア仕様の導入も検討しているという。従来はアンリミテッドでも後席の快適性は決して誉められるレベルではなかったが、新型はシートの着座感が大きく改善された。また、最小回転半径が7.1mから6.2mになったのも大きな進化だ。

 スポーツとサハラのドライブフィールはかなり異なる。軽快かつパワフルに回る2ℓターボ、滑らかかつ重厚に回る3.6ℓV6というパワーユニットの違いもあるが、それ以上に大きいのがフットワークの違いだ。スポーツはオフロード志向の強いタイヤを履いているため、舗装路での乗り心地は粗っぽく、ハンドリングにも頼りなさがある。それに対しオンロード志向の強いタイヤを履くサハラは、より快適で安心感も高い。燃費は多少悪いが、僕ならサハラを選ぶ。

ジープ・ラングラー

車両本体価格:4,590,000円~(税込)
*諸元値はUnlimited Sahara Launch Edition
全長×全幅×全高(mm):4,870×1,895×1,840
エンジン:V型6気筒 DOHC
総排気量:3,604cc
乗車定員:5名
車両重量:1,980kg
最高出力:209kW(284ps)/6,400rpm
最大トルク:347Nm(35.4kgm)/4,100rpm
燃費:9.2km/ℓ(JC08モード)

LEXUS UX
レクサス・UX

実質的エントリーモデル登場

 LC、LS、ESと、矢継ぎ早にニューモデルを投入しラインアップの刷新を図っているレクサス。その最新モデルがコンパクトSUVのUXだ。特徴は手頃なサイズ。まず、全高が1,540mmに抑えられているから立体駐車場に収まる。といっても全幅が1,840mmあるためすべての立体駐車場でOKとまではいかないが、背の高いSUVよりも停められる可能性はかなり高い。デザイン的にも、前後フェンダー周りにこそSUVテイストを与えているものの、全体的にはハッチバック的なイメージが強い。これならもはやCTは要らないなというのが正直なところ。「CTの後継モデルではない」「CTは当面継続販売する」というのがレクサスの公式回答だが、デザインにも走行性能にも明らかに旧世代感漂うCTにはそろそろ退場願ったほうが、レクサスのブランドイメージにとっては正解だと思う。

 UXに乗ってみて2つのことに感心した。1つは新開発したパワートレーンの出来映え。エンジンは2ℓ直4と2ℓハイブリッドの2種類を用意するが、どちらもかなりよくできている。2ℓには発進用のメカニカルギアをもつ「ダイレクトシフトCVT」を組み合わされるが、CVTにありがちなラバーバンドフィールがほとんどなく、名前の通りダイレクトな駆動フィールが気持ちいい。一方のハイブリッドも、もともと力に余裕のある2ℓエンジンにモーターを組み合わせているため、爽快な加速フィールを味わえる。

 もう一点は乗り味に他のレクサスとの共通性が出てきたことだ。ステアリングフィールや足の動きがどことなくLCやLS、ESに似ている。以前のレクサスは車種ごとにバラバラだったが、ようやくメルセデスやBMWのように横串が通ってきた。これはプレミアムブランドにとって非常に重要なことだ。価格は390万円から。レクサスの実質的なエントリーモデルとして人気を獲得するだろう。

レクサス・UX

車両本体価格:3,900,000円~(税込)
*諸元値はUX200 “version L”
全長×全幅×全高(mm):4,495×1,840×1,540 エンジン:直列4気筒
総排気量:1,986cc 車両重量:1,500kg
最高出力:128kW(174ps)/6,600rpm
最大トルク:209Nm(21.3kgm)/4,000~5,200rpm
燃費:16.4km/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:前輪駆動

MAZDA CX-3
マツダ・CX-3

フットワークが見事に改善

 2017年の商品改良から1年。CX-3が4回目の商品改良を受けた。前回の改良は2ℓガソリンエンジンの追加がメインだったが、今回はディーゼルエンジンの排気量を1.5ℓから1.8ℓへと拡大。さらに、フロントグリルとリアコンビランプのデザイン変更、電動パーキングブレーキの採用、それに伴うアームレストの追加、シートと足回りの改良など多岐にわたる改良が行われている。

 排気量を大きくしたにもかかわらず動力性能の向上はわずか11‌ps。最大トルクにいたっては270Nmのままだ。ならばなんのための排気量拡大化なのか? エンジニアによると、小さな排気量のエンジンで頑張って走らせるより、ある程度大きな排気量のエンジンでラクに走らせたほうが排ガスもクリーンになるし、実用燃費も向上するのだという。実際、新旧モデルに動力性能の違いはほとんどない。とはいえ、もともと必要にして十分プラスαの動力性能をもっていたのだから、よりクリーンに、よりエコになるのは大歓迎である。

 大きく変わったのはフットワークだ。従来のCX-3は不整路でのタイヤのバタ付きや盛大なロードノイズといった弱点を抱えていた。ところが今回の改良によってそれらが見事に改善された。凹凸を乗り越えてもタイヤの振動はスッと収まるし、ザラついた路面でのザーッというノイズも見事に収まった。来年デビューが予想される次期アクセラ用に開発した技術をいくつか先取りする形で搭載した結果だというが、となれば次期アクセラの仕上がりに期待しないわけにはいかない。

 そんななか、文字にしてわかりやすい改良ポイントとしてボディ外板一部の厚さアップがある。0.05mm増とわずかな違いだが、実験車を作って乗り比べてみたところ、とくに静粛性向上には明らかな違いがあったそうだ。出したら出しっぱなしではなく、常に改良し続けていくことの大切さをCX-3は教えてくれる。

マツダ・CX-3

車両本体価格:2,127,600円~(税込)
*諸元値はXD L Package(2WD/6EC-AT)
全長×全幅×全高(mm):4,275×1,765×1,550
エンジン:水冷直列4気筒DOHC 16バルブ直噴ターボ
総排気量:1,756cc 乗車定員:5名 車両重量:1,300kg
最高出力:85kW(116ps)/4,000rpm
最大トルク:270Nm(27.5kgm)/1,600~2,600rpm
燃費:20.0km/ℓ(WLTCモード)

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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