岡崎五朗のクルマでいきたい vol.108 白と黒のボディカラーが55%

文・岡崎五朗

 モータージャーナリストの大先輩である故徳大寺有恒さんはクルマの色にとてもこだわる人だった。

 僕が「クルマ買い換えたんですよ」と話しかけると、まず最初に「で、色は何にしたの?」と聞かれたし、ご自分のクルマについても「今度○色の××を買ったんだよ」という説明のしかたをされた。徳大寺さんにとってボディカラーは、エンジンやハンドリング、ボディスタイルと同じぐらい重要なモノだったんだろうと思う。

 他ならぬ自分自身、どうしても気に入る色がないからと、新車を買ってすぐに全塗装をしたことがある。クルマは初代ロードスター。ボディは紺メタ、ハードトップはオフホワイトに塗った。このとき参考にしたのはクラシックミニ。不思議なことに、ミニに似合うカラーはたいていロードスターにも似合った。おそらく、コンパクトなボディと曲面を多用した造形という共通点があったからだろう。白のような陰影の付かない色は、大福餅のようなボテッとした感じになってロードスターにはあまり似合わなかった。

 自動車用塗料を手がけるドイツの総合化学メーカーBASFのレポートによると、世界でもっとも人気のあるボディカラーは白で全体の39%。次点の黒を足すと過半数の55%に達し、さらにグレーとシルバーを加えれば、無彩色系で全体の約8割を占める。次に来るのがほぼ同率で青と赤、そしてブラウンと続くわけだが、コンパクトカーやSUVでは鮮やかなカラーの割合が増えるという。

 なかでも最近人気が高まっている注目色としてBASFが挙げているのがブルーとベージュだ。ブルーは新しいテクノロジーの象徴。一方、テクノロジー進化の裏返しとして生身の体やアナログなモノへの欲求が高まり、それがベージュの人気を高めるだろうとも。世相やそれに伴う人の気持ちの変化が流行色に影響を与える…本当か? とも思うけれど、ゲーテもかの有名な「色彩論」のなかで色にはそれぞれ個別の意味があると述べている。それ以上詳しいことは僕にはわからない。が、少なくともどんな色のクルマに乗るかということが、どんなクルマに乗るのかと同じぐらい、その人のことを雄弁に物語るのはたしかだ。


VOLVO XC40
ボルボ・XC40

ボルボのスニーカー的SUV

 XC90やXC60も素敵なんだけど、もうちょっと気軽に乗りたいんだよね。そんな人のためにボルボが提案するSUVがXC40だ。ボディサイズは全長4,425mm、全幅1,875mm、全高1,660mm、価格も389万円~とお手軽だ。まあ冷静に考えれば全幅はかなりあるし、中心価格帯は400万円台後半だから「お手軽」と表現するのには抵抗もある。けれど、それでもボルボのSUVとしてはコンパクトで安いのは間違いない。

 とはいえ、ボルボはXC40を上位モデルの単なる廉価版で終わらせていない。そこには独自の魅力がある。デザイン要素を究極までそぎ落としたピュアな美しさを持つXC90、そこにスポーティーな要素を加えたXC60。それらに対しXC40のデザインには遊び心が満載だ。ドア下部に入った深いえぐり、大胆にキックアップしたショルダーライン、オプションの2トーンカラー。ひと言でいうなら、よりカジュアルで若々しいイメージに仕上がっている。ボルボ曰く「90シリーズがフォーマルなエナメル靴だとすれば60シリーズはフォーマルにもカジュアルにも対応できるスウェードのドレスシューズ。40シリーズはスニーカー」 なるほど松竹梅ではなく、味付けからして変えているというわけだ。ドイツ車のような松竹梅方式と比べると、各モデルの魅力がストレートに伝わってくる。それでいて、各モデルのイメージを分散させ過ぎず、上手い具合にボルボらしさを保っているのは上手いなぁと感心させられた。上位モデルと完全に同等とまではいかないものの、このクラスとしては内外装のクォリティを極めて高いレベルに保っているのも、XC40を単なるお手軽車に見せていない理由である。

 2ℓ直4ターボはコンパクトなボディを軽快に走らせる一方、高速道路ではボルボらしい安心感を味わわせてくれる。ただし20インチタイヤを履くと乗り心地が少々厳しくなる。快適性重視なら17~19インチを選択したい。

ボルボ・XC40

車両本体価格:3,890,000円(XC40 T4、税込)*欧州参考値
全長×全幅×全高(mm):4,425×1,875×1,660
エンジン:水冷直列4気筒DOHC16バルブ インタークーラー付ターボチャージャー
総排気量:1,968cc 乗車定員:5名
最高出力:140kW(190ps)/4,700rpm
最大トルク:300Nm(30.6kgm)/1,400~4,000rpm
駆動方式:前輪駆動

JAGUAR XF SPORTBRAKE
ジャガー・XF スポーツブレイク

ステーションワゴン最高の走り

 ジャガーのミドルクラスセダンXFにステーションワゴン版が加わった。本題に入る前に同社の命名ポリシーを説明しておくと、最初にくる「X」はセダン群であることを示し、次の「F」がクラスを示す。BMWの場合クラス分けは7、5、3となるが、ジャガーは数字ではなく上からJ、F、E。一方SUV群は「PACE」と呼ばれ、現状いちばん上がF-PACE、次にE-PACE(先日本国でデビューしたEVはI-PACEI)と呼ばれる。そしてTYPEはスポーツカー。いまのところF-TYPEしかないが、仮にもうひと回り小さいモデルが登場したらE-TYPEと呼ばれる可能性が高い。

 さてXFスポーツブレークだが、気持ちよく走るステーションワゴンを探している人にとって、現状これ以上の選択はないと思える仕上がりをもっている。なかでも特筆に値するのが走り味だ。正直、試乗する前まではさほど興味を引かれていなかったのだが、実際に乗ってみて驚いた。何に驚いたかと言えば、ジャガーらしい「猫足」の濃さに。よく、硬ければ走り重視で柔らかければ快適性重視とか言われるが、こいつの走りはそんな単純な言葉では表現できない。タイヤの路面への当たりはきわめてマイルド。凹凸をしなやかに動く足が巧みにいなす。それでいてコーナーでの振る舞いは実に安定している。ステアリング操作に対しても、キュッキュッと鋭い動きが出るのではなく、穏やかに、けれども軽快に鼻先が動く。硬い足でロールを強引に抑えながらタイヤのグリップに頼って曲げるのではなく、ロールをある程度許容しつつも、減速、ターンイン、定常旋回、ステアリングを戻しつつ加速という各段階で前後左右の3次元的動きを巧みにコントロールすることで、得も言われぬ気持ちのいい旋回性を生みだしているのだ。SUVがもてはやされているが、ここまで走りを磨き込めば車高の低いモデルの存在意義をはっきりと感じられる。

ジャガー・XF スポーツブレイク

車両本体価格:7,220,000円~(税込)
*諸元値は2.0リッターi4 180PS ターボチャージドクリーンディーゼル
全長×全幅×全高(mm):4,965×1,880×1,495
エンジン:2.0リッターi4 180PS ターボチャージドクリーンディーゼル
総排気量:1,999cc
乗車定員:5名 車両重量:1,820kg
最高出力:132kW(180ps)/4,000rpm
最大トルク:430Nm/1,750~2,500rpm
最高速度:221km/h JC08モード燃費:16.9km/ℓ駆動方式:後輪駆動

NISSAN SERENA e-POWER
日産・セレナ e-POWER

日産e-POWERの第二弾

 ノートに続く日産eパワーの第2弾がセレナだ。1.2ℓエンジンを発電機として使い、駆動は電動モーターのみで行うこのシステムを日産はeパワーと呼んでいる。何やら新しい感じがするが、要はシリーズハイブリッドである。なぜハイブリッドと呼ばず、わざわざeパワーという言葉をひねり出したかといえば、純粋にイメージ戦略だ。いまや日本ではフツーの存在になったハイブリッドでは新味が出せない。ならばeパワーというネーミングでEV寄りのイメージをつくったほうが得策だ、という。「電気自動車の新しいカタチ」というアピールもそんな思惑を示している。まあそれはそれで悪いことではないのだが、問題は、エンジンで発電するのだから、ガソリンが入っている限りモーターは常に最大スペックを発揮する、という誤解を招きやすいことだ。

 セレナeパワーの重量は1.7トンを超えるが、136ps/320Nmというスペックのモーターはそれを苦にしない。モーターならではのスムースさと分厚い低速トルクは、街中はもちろん高速道路への流入でも気持ちのいい加速を生みだしてくれる。ただしそれには「通常時は」という注釈が付く。

 セレナeパワーにはリーフの約20分の1にあたる容量1.8kwhのバッテリーが搭載されている。フル加速時には84‌psのエンジンが発電する電力とバッテリーからの電量を組み合わせ、モーターはカタログ値通りの136psを発揮するが、長い登り坂などでバッテリーを使い切ると84‌psのエンジンが発電する電力分しかモーターに届かなくなる。実際、箱根ターンパイクの登りでは途中で動力性能ががっくりと落ち込んだ。

 もちろん、普通に走っている限りこうした状態になることはないが、フル乗車で山道を急いで登っていくときなどに体験する可能性は大いにある、という点は頭に入れておいたほうがいい。次期モデルにはより大容量のバッテリー搭載を期待したい。

日産・セレナ e-POWER

車両本体価格:2,968,920円~(税込)
*諸元値はセレナ e-POWER X(2WD)
全長×全幅×全高(mm):4,690×1,695×1,865
乗車定員:7名 車両重量:1,730kg
【発電用エンジン】エンジン:DOHC水冷直列3気筒
総排気量:1,198cc 最高出力:62kW(84ps)/6,000rpm
最大トルク:103Nm(10.5)/3,200~5,200rpm
【モーター】最高出力:100kW(136ps)
最大トルク:320Nm(32.6kgm)JC08モード燃費:26.2km/ℓ
駆動方式:前輪駆動

LEXUS RX450hL
レクサス・RX450hL

RXの3列シートモデル登場

 レクサスRX450hLは、RXのリアオーバーハングを110mm延長することで3列シート化したモデルだ。SUVが一時のブームを超え定番化。ユーザー層がさらなる拡がりをみせていることを考えると、3列シートの需要は今後も増えていくだろう。とはいえ450hLは、ランドローバー・ディスカバリーやマツダCX-8のような、ミニバンからの乗り換え組を強く意識したモデルではない。フル7シーターを謳う上記2車種との違いは、RX450hLの3列目シートがあくまで緊急用という位置づけであることだ。具体的には身長170cm程度の乗員を想定している。それ以上大柄な人が乗り込むと、膝元や頭上空間には明らかに不足感が出てくる。

 110mmなんてケチなこと言わずいっそのこと200mmぐらい伸ばせばもっと広い空間ができたわけだが、レクサスはあえてしなかった。その理由は、RXがもともともっている魅力をスポイルしないギリギリのところが110mmの延長だと判断したからだ。ご覧のように450hLの外観は標準ボディとほぼ見分けが付かない。角度によってはリアエンド付近が重く見えるし、よくよく観察するとルーフライン後端の落ち込みは小さくなり、リアウィンドウの角度も立ってきているが、パッと見で違いに気付く人はほとんどいないだろう。約100㎏の重量増も、パワフルな3.5ℓ+前後モーターで構成するハイブリッドにとっては朝飯前である。

 その結果、何が生まれたかといえば、ベースモデルのデザインや走りを受け継ぎつつ、大きなラゲッジスペースと、いざというときのプラス2人乗車というプラスアルファの使い勝手である。問題は769万円という価格。もともとの月販想定がわずか50台だったことから、ベースモデルを最上級グレードに絞ったことを考えれば仕方ないが、今後は2ℓターボなどもっと買いやすいグレードを増やしていって欲しいところだ。

レクサス・RX450hL

車両本体価格:7,690,000円(税込)
全長×全幅×全高(mm):5,000×1,895×1,725
エンジン:V型6気筒3.5ℓエンジン+ハイブリッドシステム
総排気量:3,456cc 乗車定員:7名
【エンジン】
最高出力:193kW(262ps)/6,000rpm
最大トルク:335Nm(34.2kgm)/4,600rpm
【モーター】フロント 最高出力:123kW(167ps)

最大トルク:335Nm(34.2kgm)/リア 最高出力:50kW(68ps)
最大トルク:139Nm(14.2kgm)
JC08モード燃費:17.8km/ℓ

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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