岡崎五朗のクルマでいきたい vol.107 関税25%の思惑

文・岡崎五朗

 トランプ米大統領が、通商拡大法232条に基づき乗用車の関税を現在の2.5%から25%に引き上げることを検討していると報じられた。これが実行されたら日本の自動車メーカーは大打撃だ。

 いや、大打撃どころか息の根が止まるだろう。自動車は高額な耐久消費財である一方、薄利多売のビジネスでもある。売上高利益率が10%に達したらエクセレントカンパニー。5%でもまあ悪くはない。そこに25%もの関税が課されたら勝負にならないのは火を見るより明らかだ。もちろん、中間選挙に向けた政治的パフォーマンスという要素も多分にあるだろう。決して人気が高いとはいえないトランプ大統領にとって、自分の票田であるブルーカラー層からの支持は必要不可欠。必死になればなるほどリップサービスも大胆になる。また、「安全保障上の脅威となる」ことが前提の通商拡大法232条が自動車に適応可能かどうかも微妙なところだ。とはいえ同法でアルミと鉄鋼で大幅な関税アップをした前例もあるから決して安心はできない。いや、トランプ大統領ならやりかねない、と思わせるところが彼一流の交渉術である。

 念のために言っておくと、自由貿易が善で保護貿易が悪という二元論を振りかざすつもりはない。度を超した自由貿易主義は富の集中を招くと多くの経済学者が主張している。要は中身とバランスの問題である。その観点から自動車貿易について考えると、実質的な輸入車締め出しという極端な政策は決してアメリカ国民のためにならない。なぜなら、輸入車を選択している約半数のユーザーから選択の自由を奪うと同時に、アメリカ車を選択する残り半分のユーザーにも便乗値上げの影響が及ぶだろうからだ。結果多くのユーザーから反発を食らったら選挙で不利になる。ここがアルミと鉄鋼とは決定的に事情が異なる部分であり、自動車に高い関税をかけることの難しさでもある。おそらく関税引き上げをちらつかせることで、NAFTA再交渉でメキシコとカナダから譲歩を引き出すのが彼の本当の狙いだろう。実にトランプ政権らしいゲスなやり方だが、日本を含めた世界はしばらくの間、こういうことに付き合っていくしかなさそうだ。


RENAULT KADJAR
ルノー・カジャー

ルノー流の走りと際立つデザイン

 カジャーの登場によって、ルノーのラインアップには小さい順にキャプチャー、カジャー、コレオスという3種類のSUVが揃った。といっても日本ではコレオスはすでにカタログ落ち。本国でデビュー済みの新型コレオスの日本導入はまだ見えていないから、当面はキャプチャーとカジャーの2本立てということになる。ボディサイズは全長4,455×全幅1,835×全高1,610。立体駐車場さえ諦めてしまえば、都内でもそこそこ扱いやすいサイズといっていいだろう。

 そんなカジャーの最大の特徴はデザインにある。200mmという本格SUVに匹敵する最低地上高を与えられる一方、上屋のデザインはきわめて乗用車的。それも、キックアップしたサイドウィンドウ下のラインや、ググッと盛り上がったリアフェンダー、眼光鋭いヘッドライトなどルーテシアに通ずるスポーティーな仕上げが印象的だ。その反面、残念だったのがインテリア。室内もラゲッジスペースも広くて使いやすいのだが、如何せんダッシュボード周りが退屈だ。ほぼ黒一色で、かつ造形にも遊び心がない。せめて本国にある明るいグレー内装が選べればいいのだが。ATセレクター周りやエアコンスイッチ、ウインカー/ワイパーレバーなどに見慣れた日産との共用パーツを使っているのも、そんな印象を強めているのかもしれない。

 日産との共用といえば、クルマの土台であるプラットフォームもエクストレイルやキャシュカイと同じものを使っている。しかし走り味は紛う事なきルノー流。19インチタイヤの影響もあって低速ではちょっと固めだが、速度を上げていったときのフラット感と、ワインディングロードでのしっかり感はさすがルノーと唸らされた。ルノー製1.2ℓターボと7速DCTが生みだす小気味よいパワーフィールも上々。同じプラットフォームを使っても、作り手の魂を入れれば違うものができる。それがクルマの面白いところだ。

ルノー・カジャー

車両本体価格:3,470,000円(税込、INTENS)
全長×全幅×全高(mm):4,455×1,835×1,610
エンジン:ターボチャージャー付 筒内直接噴射 直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量:1,197cc 車定員:5名
車両重量:1,410kg
最高出力:96kW(131ps)/5,500rpm
最大トルク:205Nm(20.9kgm)/2,000rpm
駆動方式:前輪駆動

MITSUBISHI ECLIPSE CROSS
三菱・エクリプス クロス

ミツビシらしい“真面目”SUV

 ミツビシが新しいSUVをつくるならミツビシらしいモデルでなければならない。エクリプス・クロスはそんな想いでつくられたという。具体的には、パジェロで培ってきたSUV性能と、ランサー・エボリューションで培ってきた走りの楽しさの融合を目指した。とはいえ、エクリプス・クロスにパジェロほどの悪路走破性はないし、ランエボほどの速さもない。コンセプトは欲張りだけど実際は中途半端? どっこい、実際に乗ってみて、たしかにこいつはミツビシにしかできないクルマだなと思った。

 乗り込むと、クーペスタイルの斬新なデザインからはちょっと想像できないほど視界に拡がりがある。Aピラーやドアミラーの位置と形状、リアのダブルウィンドウなど、直接視界に徹底的にこだわった結果だが、そこには「SUVかくあるべし」という、ミツビシの社内基準が活きているという。リアシートに200mmのスライド機構と9段階のリクライニングを与え、大人4人でのゆったり乗車から、ゴルフバッグ4セットの収納にいたる様々な使い勝手に配慮したのもミツビシらしいこだわりだ。スポーティーでスタイリッシュなSUVという時代の要請に応えつつも、機能では決して妥協しない。エクリプス・クロスには、そんな真面目な一面がある。そう考えると、視界や後席居住性を捨ててデザインを優先したトヨタ「C-HR」とは似て非なるクルマといっていいだろう。

 走らせると、びっくりするほど気持ちよく曲がる。狙ったラインを正確にトレースする性能も高い。これには走破性と安定性だけでなく、曲がる性能にも寄与するミツビシ独自の高度な4WD「S-AWC」が大きく貢献しているわけだが、そのベースとなっているのはランエボで培った技術である。

 SUVの選択肢が増えるなか、独自性を与えるのが次第に難しくなってきているが、エクリプス・クロスにはしっかりとミツビシらしさが表現されている。

三菱・エクリプス クロス

車両本体価格:2,532,600円~(税込)*諸元値はG Plus Package(2WD)
全長×全幅×全高(mm):4,405×1,805×1,685
エンジン:DOHC16バルブ4気筒
総排気量:1,498cc 乗車定員:5名
車両重量:1,480kg
最高出力:110kW(150ps)/5,500rpm
最大トルク:240Nm(24.5kgm)/2,000~3,500rpm
JC08モード燃費:15.0km/ℓ
駆動方式:2WD

VOLKSWAGEN POLO
フォルクスワーゲン・ポロ

静かで力強い走りの6代目登場

 ゴルフの弟分として’75年に登場したポロも今回で6代目。大きくコンセプトを変えないまま、しかし大きく立派になっていったゴルフの後を追うように、ポロもモデルチェンジの度に大きく立派になっていった。新型のボディサイズは全長4,060mm、全幅1,750と、ほとんどゴルフ4のサイズである。

 エクステリアデザインはひと目でポロとわかるキープコンセプト。しかしひと目で新型とわかる新しい個性も備えている。中でも目を引くのがボディサイドを走る鋭利なプレスラインだ。ショルダーに1本。その下、ドアハンドルの位置にもう1本。合計2本のプレスラインが、新型ポロのデザインに強い個性と高い質感を与えている。このクラスでこれだけ精緻な造形を与えてきたVWのプレス技術は本当に素晴らしい。ただしちょっと煩雑な印象を受けたのも事実。デザイン的に必要だったから入れたのではなく、自社のプレス技術の優秀性をアピールするために入れたのではないか、というのは邪推だろうか? シンプルさが魅力だった先代と比べると、新型には良くも悪くもギラつきのようなものを感じる。それはそれでドイツ車らしいとも言えるが、鼻につく人はメタリック系ではなく、プレスラインが目立ちにくいソリッド系ボディカラーを選ぶといいだろう。

 インテリアはドアトリムを叩くとコンコンという安手の音がしたり、リアウィンドウ周りのモールが省略されたりと、コスト削減の影響も垣間見えるが、それでも相変わらずクラスを超えた質感を誇る。室内&ラゲッジスペースも拡がった。エンジンは1ℓ3気筒ターボ。カタログ燃費は先代の1.2ℓ4気筒ターボより落ちているが、実用燃費はむしろ向上している。3気筒化に伴う騒音や振動の悪化についても心配は無用。新型ポロは先代よりも静かに快適に、そして力強く走る。

 手頃なサイズと価格でドイツ車を味わいたい人にとって、新型ポロは最適な1台だ。

フォルクスワーゲン・ポロ

車両本体価格:2,098,000円~(税込)*諸元値はTSI Trendline
全長×全幅×全高(mm):4,060×1,750×1,450
エンジン:直列3気筒DOHCインタークーラー付ターボ(4バルブ)
総排気量:999cc
乗車定員:5名 車両重量:1,160kg
最高出力:70kW(95ps)/5,000~5,500rpm
最大トルク:175Nm(17.9kgm)/2,000~3,500rpm
JC08モード燃費:19.1km/ℓ
駆動方式:FF

MERCEDES-BENZ S450
メルセデス ベンツ・S450

48ボルト電源+直6のISG搭載モデル

 言わずとしれたメルセデス・ベンツのフラッグシップがSクラスだ。5年前にデビューしたときも先進安全装備や内外装の質感に大いに驚かされたが、昨年のマイナーチェンジでは一部を除きエンジンを一新。燃費と動力性能の両立ポイントを高めてきた。大パワーエンジンを搭載した高級車が生き残っていくためには燃費を向上させなければならない。しかし燃費だけに振ったらユーザーが離れていってしまう。そう、Sクラスが存続していくための最大の鍵になるのが、パワーを維持しながら燃費を向上させることなのである。

 最近追加投入された3ℓ直列6気筒は、そんな狙いがもっともはっきり表れたエンジンだ。当然ながら過給をしているわけだが、低速域では電動スーパーチャージャー、中高速域ではターボチャージャーという2段階過給になっているのがミソ。加えてスターターを兼ねた駆動用小型モーターをもつマイルドハイブリッドとすることでさらに効率を高めている。そして、スーパーチャージャーとモーターに電気を供給するのが、今後普及が確実視されている48ボルト電源システムだ。

 このような数々の最新デバイスによってサポートされた直6エンジンは、艶やかな回転フィールと強力な動力性能と優れた燃費をマークする。従来のV6ターボより上質感は間違いなく上。V8と比べても負けてない。普段は粛々と回り、いざ踏み込めば快音を発しながら巨体を勢いよく加速させていく様は、まさに高級車用エンジンの鏡だ。

 かつて直6がV6に置き換わったのはクラッシャブルゾーンを確保するためだったが、新しい直6は極限まで全長を短くしてそこもクリア。その結果、ウルトラスムースな回転フィールという直6の長所だけが残った格好だ。と同時に足回りの熟成も進み、ハンドリングと快適性にもさらに磨きをかけてきた。悔しいが弱点はなし。その出来映えには参りました、と頭を垂れるほかない。

メルセデス ベンツ・S450

車両本体価格:11,470,000円~(税込)
*諸元値はS450 ISG搭載モデルの欧州参考値
全長×全幅×全高(mm):5,125×1,899×1,493
エンジン:DOHC直列6気筒ターボチャージャー付
総排気量:2,999cc
乗車定員:5名
最高出力:270kW(367ps)/5,500~6,100rpm
最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1,600~4,000rpm
駆動方式:後輪駆動

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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