岡崎五朗のクルマでいきたい vol.102 XC60がトップを射止めた理由

文・岡崎五朗

 大本命だったリーフが日産の完成車検査問題で辞退し、大混戦となった日本カー・オブ・ザ・イヤー。

 トップの座を射止めたのはボルボXC60だった。この結果を受け「納得いかない」といった声も聞こえてくる。輸入車としては過去、現行ゴルフが本賞を受賞しているが、XC60はスターティングプライスが599万円という高価格車。2位のBMW5シリーズも600万円オーバーと、たしかにちょっと浮世離れしたクルマが上位2台を占めてしまった。

 原因は日本車の票割れだ。持ち点25点のうち最高点の10点を投じた選考委員がカムリ14人、スイフト11人、N-BOX10人と割れ、しかも点を入れなかった選考委員がカムリ16人、スイフト26人、N-BOX27人と多かった。その点、XC60と5シリーズは満点こそ少なかったものの5点、6点をまんべんなく獲得し合計点で上位に立った。

 正直、スイフトに最高点を投じた僕としても意外な結果に思えた。が、誰もが納得する賞とはあらかじめ結果が見えている賞とも言えるわけで、そんなのはつまらないな、とも思う。そしてなにより、カー・オブ・ザ・イヤーはそれなりの見識を持つ60人の専門家が熟慮した上で決めたのだから、結果を受け入れ、勝者を讃えたいと思う。

 そのうえでXC60について書くなら、今回の受賞は同じく今年デビューしたV90を含めた最近のボルボへの評価だったと解釈している。かつて安全とステーションワゴンという二つの要素でそれなりの人気を獲得していたボルボだが、現行XC90以降はそこに「卓越したデザインと質感」という新たな魅力を吹き込むことに成功した。デザイン面で手詰まり感を拭えないドイツ勢や、迷走気味の日本勢(とくにトヨタ)とは対照的に、その美しいスタイルには自己のアイデンティティを明確に掴んだ気配が濃厚に漂う。しかもそれを、煩雑なデザインではなく「More is Less」というシンプルなデザインで見事に表現してみせているのが素晴らしい。電動車両に特化したポールスターブランドの設立や、2018年中に登場予定の新型S/V60シリーズ、XC40といったニューモデルを含め、元気を取り戻したボルボからはしばらく目が離せない。

選考結果は http://www.jcoty.org/result/


MAZDA CX-8
マツダ・CX-8

パパ・ママから「家族を持つ男と女」へ

 CX-8は二つの顔をもっている。ひとつは3列シートSUVという顔。もうひとつはマツダのフラッグシップモデルとしての顔だ。この一見何の関係もなさそうに見える二つの顔が組み合わさった結果、CX-8には素晴らしい価値が備わった。

 フロントセクションはCX-5とほぼ共通だが、輸出向け車種であるCX-9の骨格を利用して全長を355mm延長。3列シート化を実現した。この種のクルマは3列目のヘッドクリアランス確保の副作用でボディ後半部のデザインが重く見えがちだが、そこを細かなデザインによって回避したことにまずは大きな拍手を送りたい。インテリアの仕上げも素晴らしい。マツダ車としてはユーノス・コスモ以来実に20年ぶりに採用された本杢パネルのセンスは抜群だし、シートに使ったナッパレザーの手触りは高級ハンドバッグを連想させる。2列目、とくに独立式シートの座り心地はまるで高級車のよう。3列目は座面とシートが接近しているため大人が座ると少々窮屈だが、小柄な女性や子供ならロングドライブにも十分使える。そしてもちろん、3列目を畳めば広大なラゲッジスペースが現れる。

 ボディの大型化や3列シート化で重量はCX-5より約200kg増えたが、大幅に進化した2ℓ直4ディーゼルターボは重さをまったく意識させることなく、低中回転域では力強く、高回転域では軽快に回る。乗り心地、ハンドリング、直進安定性、静粛性にも高得点が付く。このように、素晴らしいデザインと仕上げとスペースユーティリティとハードウェアを備えたCX-8が提供するのは、極めてライフスタイル寄りの価値だ。CX-8なら、パパとママではなく「家族をもつ男と女」になれる。男性目線でいえば、父親←→夫←→男を自由に行ったり来たりできる。ミニバンの機能に惹かれつつ、でもなんか違うんだよなぁ、と感じている方にとってはおあつらえ向きの1台である。

マツダ・CX-8

車両本体価格:3,196,800円~(税込)(2WD/4WD・6EC-AT)
*諸元値はXD L Package/2WD
全長×全幅×全高(mm):4,900×1,840×1,730
エンジン:水冷直列4気筒DOHC 16バルブ
直噴ターボ  総排気量:2,188cc
 
乗車定員:6名 車両重量:1,830kg
最高出力:140kW(190ps)/4,500rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/2,000rpm
JC08モード燃費:17.6km/ℓ 駆動方式:2WD

SUBARU REVORG
スバル・レヴォーグ

アイサイトが運転支援へと進化

 北米をメイン市場に据え大型化したレガシィの実質的な後継モデルとして、2014年に登場したジャストサイズのワゴン、レヴォーグがマイナーチェンジを受けた。最大の進化点は、アイサイトが「アイサイト・ツーリングアシスト」へと進化したこと。「ぶつからないクルマ」というキャッチフレーズをひっさげ2008年に登場したアイサイトは、スバル躍進の立役者となるばかりか、事故を大幅に減らすことも証明された。交通事故総合分析センターのデータによると、対歩行者事故は5割減、追突事故に至っては8割減と、その効果は絶大だ。

 ツーリングアシストは、従来の機能に加え、ステアリングアシストの作動範囲が60~100km/hから0~120km/hに拡大したことで、渋滞時でも使えるようになったのが大きい。実際にいろいろなシーンで試してみたが、緩いカーブならステアリングに手を添えているだけでほぼ狙い通りのラインをトレースしてくれる。先行車との車間距離維持とステアリング操作をクルマがやってくれるというのは、もはや自動運転ではないか? と思うかもしれない。実際、条件が揃えばレヴォーグはそのように振る舞う。が、ツーリングアシストという名称からもわかるように、スバルはこの機能を「運転支援」と位置づけている。ステアリングの手放しは御法度(一定時間以上操作しないとアラームが鳴りシステムが解除される)だし、法的にも事故が起こったときの責任は100%ドライバー側にある。そしてなにより、カーブの曲率と速度によっては、ドライバーが意識的にステアリングを操作しないと曲がりきれない状況もあった。安全性や快適性には大きく貢献するものの、多くの人が考える「クルマまかせの自動運転」とは本質的に異なる技術であるということは頭に入れておいて欲しい。なお、クルマそのものも、ステアリングフィールの改善や静粛性の向上など、着実な進化を果たしている。

スバル・レヴォーグ

車両本体価格:2,829,600円(税込)
(リアトロニック・AWD、1.6GT EyeSight)
全長×全幅×全高(mm):4,690×1,780×1,495
エンジン:水平対向4気筒 1.6ℓDOHC 16バルブデュアルAVCS
直噴ターボ“DIT”
総排気量:1,599cc 乗車定員:5名
車両重量:1,540kg
最高出力:125kW(170ps)/4,800~5,600rpm
最大トルク:250Nm(25.5kgm)/1,800~4,800rpm
JC08モード燃費:16.0km/ℓ
駆動方式:AWD(常時全輪駆動)

TOYOTA LAND CRUISER PRADO
トヨタ・ランドクルーザー プラド

極上の乗り心地が生む豊かさ

 いまもっとも旬なジャンルであるSUV。マーケットにはコンパクトなものやスポーティーなもの、スタイリッシュなものなど多彩なモデルが溢れている。それら乗用車の技術を使ってつくられたSUVたちと対照的な存在がランドクルーザー・プラドだ。マイナーチェンジで細部のデザインをフィラインしたものの、プラドのデザインは依然として無骨だ。インテリアにしても、大きなダイヤル式スイッチ、ゴツいATセレクター、ワイドなロアコンソールなど、決して都会的ではない。

 メカニズム面における最大の特徴は、並外れた耐久性を生みだす堅牢なフレーム構造だ。これが、プラドが世界中で支持されている大きな理由だが、日本の道路ではオーバークォリティとも言える。しかし、クルマに限らず、世の中を豊かにしてきたのは無駄が生みだす価値であることも事実。実際、プラドに乗ってやや大きめの段差を通過した瞬間、これはすごい! と痛感させられる。普通のクルマならガツンという衝撃が伝わってくるところ、プラドは涼しい顔でストッと乗り越える。それが示すのは、他のクルマとは異次元とも言える大きな余裕であり、その余裕が「豊かさ」「気持ちよさ」「本物感」をリアルに伝えてくるのだ。そう、圧倒的な悪路耐久性を追求した結果手に入れた、路面を問わない極上な乗り心地がプラドの魅力というわけだ。にわかには信じがたいだろうが、ある意味クラウンよりも贅沢な乗り味の持ち主だし、試乗してみれば僕の主張が決して誇張ではないことを実感できるはずだ。

 エンジンは2.7ℓガソリンと2.8ℓディーゼルを搭載するが、2トンを悠に超える重量とのマッチングがいいのは中低速域で太いトルクを発生し、燃費的にも有利なディーゼル。価格は400万円を超え、最上級グレードは500万円に達するものの、プラドは驚異的なリセールバリューの持ち主としても知られている。

トヨタ・ランドクルーザー プラド

車両本体価格:4,047,840円~(税込)(TX“Lパッケージ”)
*北海道・沖縄地区は価格が異なります。
*諸元値は2.8ℓクリーンディーゼルエンジン車・5人乗り
全長×全幅×全高(mm):4,825×1,885×1,850
エンジン:直列4気筒 総排気量:2,754cc 
乗車定員:5名 車両重量:2,180kg
最高出力:130kW(177ps)/3,400rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)
/1,600~2,400rpm
JC08モード燃費:11.8km/ℓ
駆動方式:4輪駆動(フルタイム4WD)

AUDI Q5
アウディ・Q5

一筆書きのような走行性能

 アウディの主力SUVであるQ5がフルモデルチェンジした。最近の多くのドイツ車がそうであるように、Q5もまた、ぱっと見では「本当にフルモデルチェンジ?」と思ってしまうようなデザインに身を包んでいる。いまやアウディの屋台骨を支える主力モデルへと成長しただけに、リスクを冒したくない気持ちもわかるが、それにしてもあまりに保守的過ぎるような気もする。よくよく見ていけば、グリル形状の変化や抑揚の効いたサイド面など、新しい息吹を感じるのも事実だが、先代モデルのオーナーでもなければ新旧モデルをたちどころに識別するのは難しいだろう。

 一方、基本骨格は最新鋭のものに変更され、60kgの軽量化を果たした。ボディサイズは全長4,685mm、全幅1,900mm、全高1,665mmと、このクラスの標準サイズ。全長は少し長くなったが、先代ですでに「日本ではこれ以上大きくなるとちょっと厳しい」と感じていた全幅が拡大されなかったのは朗報だ。

 乗り込んで最初に感じるのはアウディらしいインテリアの緻密感と清潔感。このクールな感覚は、メルセデスにもBMWにもボルボにも真似のできないアウディならではの世界だと思う。アウディ・バーチャルコクピットと呼ばれるフル液晶メーターも用意されるが、試乗車のメーターはオーソドックスなアナログタイプだった。しかしこのアナログメーター、視認性もさることながら、質感の高さが素晴らしい。時計の世界ではすでに起こっているが、そう遠くない将来にはクルマのメーターも「普及品はデジタル、高級品はアナログ」という逆転の時代がやってくるのではないか、とふと思った。

 2ℓ直4ターボエンジンは、フラットなトルクを備えつつ、爽快なサウンドを奏でながらトップエンドまで気持ちよく回る。7速DCTのシフトクォリティも最高だ。それ以上に感心したのがフットワークの仕上がり。日常領域では、乗り心地がちょっと硬めなこともあり、あまりいい印象はなかったのだが、高速道路での直進安定性とフラットライドはさすがの仕上がり。ワインディングロードを走らせれば、SUVの平均水準をはるかに上回るコーナリング性能に舌を巻く。とくに、同じプラットフォームを使うA4/A5譲りの、狙ったラインをピタリと一筆書きのようにトレースしていく性能は素晴らしい。新型Q5。見た目は地味だが、乗るとアウディの底力を強烈に感じさせる力作だ。

アウディ・Q5

車両本体価格:6,620,000円(税込)(2.0 TFSI quattro)
全長×全幅×全高(mm):4,680×1,900×1,665
エンジン:直列4気筒DOHCインタークーラー付ターボチャージャー(1気筒=4バルブ)
総排気量:1,984cc 乗車定員:5名
車両重量:1,820kg
最高出力:185kW(252ps)/5,000~6,000rpm
最大トルク:370Nm(37.7kgm)/1,600~4,500rpm
JC08モード燃費:13.9km/ℓ
駆動方式:quattro(4WD)

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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