岡崎五朗のクルマでいきたい vol.99 ダイソンのEV参入

文・岡崎五朗

 このところEVの話題で持ちきりの自動車業界。先日のフランクフルトモーターショーではドイツメーカーを中心にEVのコンセプトカーが大量に展示され話題をさらっていた。

 まだ試乗はできていないが、ほぼ価格を維持したまま航続距離を400km(JC08)まで伸ばしてきた新型リーフも、今後のEV普及を占ううえで非常に重要な存在になるだろう。一方、トヨタの豊田章男社長は「EVはクルマのコモディティ化を招くリスクがある」と警戒する。たしかにエンジンがモーターに置き換われば、エンジンのフィーリングという、クルマの味を決定づける大きな要素が失われる。ポルシェに乗ってもBMWに乗ってもスバルに乗ってもホンダに乗ってもモーターはモーターだよね、というように。

 そんななか、ダイソンが2020年までにEV事業に参入するというニュースが飛び込んできた。ダイソンと言えば、掃除機や扇風機といった究極のコモディティ商品を、独自のテクノロジーとデザインによって先端的なライフスタイル商品へと見事に生まれ変わらせたメーカーだ。ダイソン以前にも「デザイン家電」と呼ばれるジャンルはあったが、ちょっとお洒落なデザインを与えた程度のもので、革新的かと問われれば、決してそんなことはなかった。その点、ダイソンは自社開発の超高性能モーターとサイクロン機能を組み合わせた掃除機や、羽を廃した扇風機など、あっと驚くアイディアと技術と次々に投入。クールなデザインとあいまって一躍人気ブランドへと上り詰めた。

 掃除機や扇風機やヘアドライヤーですらクールにしてしまうダイソンがEVをつくったらどうなるんだろう? 詳細はまだまったくわかっていないが、想像するだけでワクワクしてくる。テスラもそうだが、EVはクルマのコモディティ化を招くどころか、むしろこれまでクルマに縁のなかった魅力的なチャレンジャーの参入を促進するきっかけになると考えるべきだ。この動きはユーザーにとって喜ぶべきことだが、自動車メーカーにとっては試練のひとつになるだろう。既存メーカーにはこれまでの成功体験に縛られず、積極的に新しいワクワクを生みだして欲しいと思う。


SUZUKI SWIFT (Full HYBRID)
スズキ・スイフト(フルハブリッド)

“走り”のためのハイブリッド

 スイフトにフルハイブリッドが加わった。グレード名がどちらも「12ハイブリッド」なのでわかりづらいのだが、従来からあったのは小さなモーターとバッテリーをもつマイルドハイブリッドで、今回追加されたのは大きなモーターとバッテリーをもつフルハイブリッド。当然、燃費低減効果はフルハイブリッドの方が大きく、前者が27・4㎞/ℓであるのに対し、後者は32㎞/ℓをマークする。

 とはいえ、開発担当者に話を聞くと、燃費だけがフルハイブリッドモデルの狙いではなく、むしろ「走りを楽しんでもらうために開発したハイブリッド」という意味合いが強いのだという。

 フルハイブリッド車のメカニズムはユニークだ。組み合わせるトランスミッションは5速MTをベースにクラッチ操作とシフト操作をアクチュエーターで行う、スズキがAGSと呼ぶロボタイズドMTだ。この種のトランスミッションはコストが安く、伝達効率が高く、なおかつダイレクト感がある反面、1速→2速あるいは、2速→3速といった低速ギアでのシフトアップ時につんのめるような減速感が出てしまうのが問題だった。スイフトのフルハイブリッドシステムは、この「加速の継ぎ目」でモーターの出力を高め、継ぎ目のない加速フィールを実現しているのがミソ。実際に運転してみると、スムーズで小気味よい変速と頼もしい加速に驚かされる。開発担当者が主張するように、たしかに走って楽しいハイブリッドに仕上がっている。長所はたくさんあるのにドライバビリティの面で問題を抱えていたロボタイズドMTだが、モーターという新たな助っ人の登場で俄然可能性が出てきた。走りの楽しさと燃費と価格のバランスではシリーズ中トップの出来だと思う。

 次号では、1.4ℓターボと専用ボディ、専用サスペンションを与えられたスイフトシリーズのフラッグシップ「スイフトスポーツ」の紹介をする予定だ。

スズキ・スイフト(フルハブリッド)

車両本体価格:1,668,600円(HYBRID SG/2WD/5AGS、税込)
全長×全幅×全高(mm):3,840×1,695×1,500
エンジン:水冷4サイクル直列4気筒DOHC16バルブ吸排気VVT
総排気量:1,242cc 乗車定員:5名
車両重量:940kg
最高出力:67kW(91ps)/6,000rpm
最大トルク:118Nm(12.0kgm)/4,400rpm
JC08モード燃費:32.0km/ℓ
駆動方式:前輪駆動

BMW M4

エンジンフィールを味わう

 巨人メルセデスに対し、常に「スポーティー」というキーワードで戦いを挑んできたBMW。そのなかでもスポーティーさをさらに先鋭化させたのが〝M〟モデルだ。今回マイナーチェンジを受けたM4は、4シリーズクーペをベースとしたモデル。セダン版のM3もあるが、デザイン的にはM4のほうが数倍魅力的だ、というのが僕の考え。もちろん、後席を多用する人なら2ドアクーペより4ドアセダンのほうが使いやすいのは自明だが、現行3シリーズセダンはかなりのビッグキャビンになってしまっているため、見た目のスポーティーさが希薄。その点、4シリーズクーペはそこかしこにBMWらしいスポーティーさが溢れ、M専用パーツがそこにさらに華を添える。後席への乗り降りにはひと手間かかるものの、いったん乗り込んでしまえば大人でも楽に座れるスペースがあるのも、僕がM4を推す理由のひとつだ。

 マイナーチェンジと言っても、変更箇所は灯火類のデザイン変更がメインで、メカニズム面は従来と変わっていない。試乗したのは高性能モデルのM4コンペティション。450psというパワースペックもさることながら、3ℓストレート6ターボの情熱的でありながらスウィートで芯の通った回転フィールはクルマ好きにとって最高のご馳走だ。適度に重みのあるパーツが完璧にバランスされた状態で回っている…そんなふうに表現すればこのエンジンの魅力の一端をおわかりいただけるだろうか。燃費追求のあおりでカサついたフィーリングのエンジンが増えるなか、単なる動力源に留まらず、官能表現の手段として抜群の存在感を示すエンジンである。

 450psをしっかりと受け止めつつ、望外な快適性を示す足回りもM4の大きな魅力。7速DCTに加え、6速MTが追加導入されたのも朗報だ。サーキットでの速さを追求するならDCTだが、リアルなドライビングプレジャーを重視するならMTをおすすめする。

BMW M4

車両本体価格:12,790,000円(M4 Coupé Competition/7速DCT、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,685×1,870×1,390
定員:4名 エンジン:直列6気筒DOHC
総排気量:2,979cc
最高出力:331kW(450ps)/7,000rpm
最大トルク:550Nm(56.1kgm)/2,350~5,500rpm
JC08モード燃費:11.9km/ℓ
駆動方式:後輪駆動

ROLLS-ROYCE DAWN
ロールス・ロイス・Dawn

相応しさが問われる気高き高級車

 試乗前、こんなに緊張したのは久しぶりだった。運転することに緊張したのではない。曲がりなりにもモータージャーナリストである以上、どんなクルマだってそれなりに走らせるぐらいのスキルは持っている。では何に緊張したのかというと、ロールス・ロイスの圧倒的な存在感とオーラに、だ。もっとストレートに言ってしまえば、ぜんぜん似合ってないよ、と言われる恐れ。

 Dawn=夜明けと名付けれれたこのモデルは、もっとも美しく、もっとも贅沢で、もっとも静かな4シーターコンバーチブルであることを目指して開発されたモデルだ。エンジンは6.6ℓの12気筒ターボ。ロールス・ロイスは長年にわたってエンジンスペックを公表せず、「必要にして十分」とだけ言ってきたが、何事にもディスクロージャーが求められる世相を受けてか、カタログには570ps/820Nmという数字が記されている。2.6トンというウェイトを差し引いても、必要にして十分どころか、必要にして十分以上である。

 後ろヒンジのドアを開け、乗り込むと、目の前には最上級の革とウッドを贅沢に使ったインテリアが拡がっている。ドアハンドルひとつとっても美しく重厚な造りで、メッキ類の厚みと輝きもそんじょそこらの高級車とはまったく違う。実にスバラシイ。もはや工業製品の域を超え、工芸品である。そして走らせれば、囁くように回る上質な12気筒とエレガントな足さばきが乗員を夢見心地にさせてくれる。

 けれど、果たして自分がこのクルマに似合っているのか、という疑問は解けぬまま試乗を終えることに。同行したスタッフは「似合ってますよ」と言ってくれたが、きっとお世辞に違いない。でもそれでいいのだ。誰にでも似合う高級車なんて本当の高級車じゃない。立ち居振る舞いや内面を含め、相応しい人物にしか似合わない気高さこそが、本物の高級車の価値であり、証というものだろう。

ロールス・ロイス・Dawn

車両本体価格:37,400,000円(税込)
全長×全幅×全高(mm):5,295×1,945×1,505
エンジン:60°V型12気筒 ツイン・ターボ/48バルブ
総排気量:6,591cc
最高出力:420kW(570ps)/5,250~6,000rpm
最大トルク:820Nm/1,600~4,750rpm
0-100km/h加速:5.0秒
最高速度:250km/h(リミッター制御)

LEXUS LS
レクサス LS

日本の最上級車種に新型登場

 ’89年に登場した初代(日本名セルシオ)から数えて5代目にあたる新型LSが登場した。今回サンフランシスコ郊外で試乗したのは米国仕様の試作車。11月頃を予定する日本発売までにはさらなる煮詰めが加えられてくるだろうが、まずはファーストインプレッションをお届けしよう。

 LSといえばレクサスのフラッグシップセダンであり、それはつまり日本の最上級車種を意味する。現行モデルの最上級グレードの価格は1,595万円。おそらく新型もその程度の価格感でくるだろう。メルセデス、BMW、アウディに対し、もはやお買い得感で勝負するクルマではないということだ。もっとも、ライバルたちが最上級グレードに用意している12気筒モデルは用意されていないし、新型に至っては従来のV8からV6へとダウンサイジングしている。このあたりは現実的というかおしとやかというか…派手な顔つきとは裏腹に、燃費にもこだわったイマどきのバランス感覚の持ち主である。

 ノーマルモデルは3.5ℓV6ターボ、ハイブリッドは3.5ℓV6。どちらも速い。そしてスムーズだ。とくにターボモデルは下からトルクも出ているし、上まで回していったときのパンチ力もある。足回りをスポーティーに仕上げたFスポーツとの組み合わせならワインディングロードもかなり楽しめる。一方、ハイブリッドはクルージング状態からアクセルを軽く踏み込んでいったときのトルクの余裕がもう少し欲しいところ。ただし車載燃費計によると燃費はターボより40~50%よかった。どちらを選ぶかは人それぞれだろうが、僕だったら悩んだ末にターボを選ぶだろう。

 いちばん変わったのはデザイン。フォルムはまるでクーペのように流麗だし、前後フェンダーも力強く盛り上がっている。この躍動的なデザインとスポーティーな走りによって、60歳代に達している平均ユーザー年齢を50歳代に引き下げるのがレクサスの狙いだ。

レクサス LS

車両本体価格:未定
*下記はLS500(北米仕様)の主要諸元です。
全長×全幅×全高(mm):5,235×1,900×1,450
排気量:3,445cc
最高出力:310kW(421ps)/5,200~6,000rpm
最大トルク:600Nm(61kgm)/1,600~4,800rpm

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

定期購読はFujisanで