岡崎五朗のクルマでいきたい vol.98 踊らされることなかれ

文・岡崎五朗

 このところ目に付くEVに関する話題だが、大手メディアの記事でも事実誤認があったり、誤解を招くような書き方になってたりすることが多い。

 たとえばフランスとイギリスが「2040年にガソリン車とディーゼル車の販売禁止を決定」という話題。これだけを見ると英仏ではすべてのクルマがピュアEVになると思ってしまいがちだが、実はそうではなく、ハイブリッドやプラグインハイブリッドの販売は認められる。「ボルボが2019年からすべてのモデルを電動車にする。」というのも衝撃的なニュースだったが、これに関しても、電動車はハイブリッドとプラグインハイブリッドが含まれる。しかもボルボが開発しているハイブリッドは48ボルト電源システムを使ったシンプルかつ低コストなマイルドハイブリッドであり、作動電圧は違うが基本的にはワゴンRやセレナと同タイプ。200万円台で買えるミニバンや100万円台で買える軽自動車にまで降りてきているシステムであることを考えれば、日本にとっては衝撃的でもなんでもなく、むしろなにをいまさらという話しである。こうしたニュースを引き合いに出し、日本はEVシフトで遅れをとっている! などと騒ぎ立てた記事がミスリードであるのは明らかだ。

 もう一点、目に付いたのが「EVが善、エンジンが悪」という決めつけだ。EVはたしかに走行段階ではCO2を発生しないが、それは発電所の煙突が排気管の代役を果たしているから。原子力発電(の是非はともかく)が75%に達するフランスならともかく、電力の85%を火力発電が占める日本ではEVが増えたところで劇的なCO2削減にはならない。25~30km/ℓ走るガソリン車であればCO2排出量はEVとほぼイーブンだ。もちろん、石油が有限資源である以上、いずれは枯渇するわけで、将来のEV化は避けては通れない。しかし急速なEVシフトは電力や充電といったインフラ面での混乱を招く。来たるべきEV時代の到来に備えそれはそれできちんとやりつつ、一方でエンジンのさらなる改良やバイオ燃料の研究開発など、あらゆる可能性を追求していくことが現段階ではもっとも利口なやり方だ。いまEVだけに賭けるのはリスクが大きすぎる。


CITROËN C3
シトロエン・C3

僕がC3を買った理由

 隠す必要もないので最初に書いてしまうが、僕はこのクルマを購入した。ボディカラーはサーブル(砂色)。内装はファーストエディションのみに用意されたライトブラウンのテップレザー。3月のジュネーブショーでこの色の組み合わせを見て一目惚れした。

 SUVテイストを取り入れたルックスは街中でかなり目立つ。C4カクタスとよく似たエアバンプや2トーンカラーのせいだろうか。これほど注目を浴びるコンパクトカーはこいつが初めてだ。とはいえ決して悪目立ちしないところがデザインの妙。プロポーションが整っていて、ボディにも余計なラインが一切入っていないので、ビジーな感じがまったくない。これはもうかなり高度なデザインだと言っていいだろう。

 全長は4mを切り、全高もタワーパーキングOK。全幅こそ1,750mmあるが、トレッドが狭いため5ナンバーサイズ限定のタワーパーキングでも、係の人がOKとさえ言ってくれればたいてい入庫可能だ。改めて思ったが、都内中心で使うのにこれほど便利なサイズはない。それでいて長距離移動がとびきり快適なのも新型C3の特徴だ。1.2ℓ3気筒ターボエンジンはトルクこそあるものの、アイドリング付近でブルブル震えるし、6速ATの低速ドライバビリティも決して誉められたものじゃない。市街地燃費も10㎞/ℓ程度に留まる。けれど、速度が上がるにつれコンパクトカー離れした静粛性と乗り心地にうっとりさせられる。ゆったりした座り心地のシートと相まって、驚くほど優秀なロングツアラーぶりを発揮してくれるのだ。

 こんな素敵なクルマが、サイドエアバッグ、カーテンシールドエアバッグ、自動ブレーキ、車線逸脱警報などなど、安全装備をてんこ盛りしつつ、国産コンパクトカーの上級グレードとほぼ同じ価格で手に入るというのはとても喜ばしいことだ。乗る度に笑顔になれるし。本当に買ってよかった。

シトロエン・C3

車両本体価格:2,160,000円(FEEL、税込)
全長×全幅×全高(mm):3,995×1,750×1,495
エンジン:ターボチャージャー付直列3気筒DOHC
総排気量:1,199cc
乗車定員:5名
車両重量:1,160㎏
最高出力:81kW(110ps)/5,500rpm
最大トルク:205Nm/1,500rpm
JC08モード燃費:18.7km/ℓ
駆動方式:前輪駆動

TOYOTA VITZ HYBRID
トヨタ・ヴィッツ ハイブリッド

上質なハイブリッドモデル追加

 スターレットの後継モデルとして登場した初代から数えて3代目のヴィッツがマイナーチェンジを受けた。単なるマイナーチェンジであればとりたてて紹介する必要はないのだが、今回は注目すべき点が2つある。ひとつは内外装の大幅変更。もうひとつがハイブリッドの追加だ。まずはデザインだが、否応なく目が行くのが顔。つり上がった目に大きく開けた口という、最近のトヨタ車に共通する「キーンルック」は、たしかに迫力はあるものの、いくらなんでもちょっと派手すぎやしない? と感じる。大型化されたリアコンビランプと、それに沿うようハの字型に入れられたプレスラインもビジーだ。僕はマイナーチェンジ前のシンプルなデザインほうが好きだった。これはプリウスにも言えることだが、「凡庸」とか「退屈」と言われることをトヨタは気にしすぎているのではないだろうか。国内シェア約50%という圧倒的な強さを誇るのだから、街の景観のことも考えてもっとプレーンな造形を目指してもらいたい。ただしインテリアの質感が向上したのは嬉しい。それでもそこここに寂しい部分は残っているが、室内にいると悲しげな気持ちになってくるアクアよりはずっと上質だ。

 ハイブリッドはアクアのシステムをベースに改良を加えたもの。1.5ℓエンジンとモーターの組み合わせは、常用域では優れた静粛性と気持ちのいい加速、そしてもちろん抜群の燃費をもたらす。急加速のためアクセルを深く踏み込むとエンジンのノイズ(サウンドではない)が高まってくるが、1~2名乗車なら低い回転数を保ったままでも十分走る。いい意味で予想を裏切ったのがシャシー性能で、乗り心地はよりスムーズに、直進安定性とコーナリングはよりたしかなものになっていた。聞くとボディ剛性アップやダンパーの特性変更を行ったという。価格は装備を揃えていくとシトロエンC3とほぼ同等。さて、貴方ならどちらを選びますか?

トヨタ・ヴィッツ ハイブリッド

車両本体価格:2,087,640円~(HYBRID U/2WD、税込)
*沖縄・北海道地区は価格が異なります。
全長×全幅×全高(mm):3,945×1,695×1,500
エンジン:直列4気筒DOHC 総排気量:1,496cc
乗車定員:5名 車両重量:1,110kg
【エンジン】 最高出力:54kW(74ps)/4,800rpm
最大トルク:111Nm(11.3kgm)/3,600~4,400rpm
【モーター】 最高出力:45kW(61ps)
最大トルク:169Nm(17.2kgm)
JC08モード燃費:34.4km/ℓ
駆動方式:前輪駆動

AUDI Q2
アウディ・Q2

型破りな最小モデル

 アウディのネーミングポリシーでSUVを意味するQの最小モデルとなるのがQ2だ。どのぐらい小さいかというと、ほぼゴルフと同じサイズだと思えばいい。5ナンバーサイズであるのにこしたことはないが、経験上、Q2のサイズならどんな場所に行っても困ることはほとんどない。全高もタワーパーキングで制限の多い1,550mm以下だ。都市型SUVに求められる「都市部での機動性」という点について、まずは合格である。

 おっ、と思ったのがデザイン。ボディサイドを走る鋭利なナイフで削り取ったような造形は、いままで見たことのない新鮮な表現だ。悪くはない。けれど同時に美しくはないなと思った。僕は初代TTと先代A5クーペが最高に好きなアウディなのだが、それらと比べるとQ2はセクシーじゃない。アウディの担当者によると、それが彼らの狙いなのだという。川の石は上流では角張っていて、下流に流される過程で角が取れ丸まっていく。クルマのデザインに置き換えると、Q2の角張った造形は若々しさの表現なのだそうだ。なるほどそう言われれば納得がいく。Q2が狙っているのは20代、30代のユーザーであり、先代A5クーペがいいなんて言っている僕などは端っから想定外ユーザーというわけだ。たしかにもう少し若かったら、こういうカジュアルで使い勝手のいいアウディを欲しくなっただろうなと思う。エントリーグレードで299万円という価格にも強い説得力がある。

 1ℓ3気筒ターボはとてもよくできている。スムーズで静かで力もあり静か。デュアルクラッチトランスミッションとのマッチングもいい。乗り心地、ハンドリング、インテリアのクォリティにも価格以上の実力がある。もしスポーツ性を求めるなら1.4ℓ4気筒ターボを積むトップグレートにも乗ってみることをおすすめする。ただし価格は405万円に跳ね上がる。予算が限られているなら下手に乗らない方が幸せだろう。

アウディ・Q2

車両本体価格:2,990,000円
(Q2 1.0 TFSI、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,200×1,795×1,500
エンジン:直列3気筒DOHCインタークーラー付ターボ 総排気量:999cc
乗車定員:5名 車両重量:1,310kg
最高出力:85kW(116ps)/5,000~5,500rpm
最大トルク:200Nm(20.4kgm)/2,000~3,500rpm
JC08モード燃費:19.8km/ℓ
駆動方式:FWD

MERCEDES-BENZ Mercedes-AMG E 63 S 4MATIC +
メルセデス ベンツ・Mercedes-AMG E 63 S 4MATIC +

別次元の超弩級、高性能モデル

 メルセデス・ベンツの高性能ラインであるAMG。アーマーゲーと呼ぶ人もいまだ少なくないが、正式名はエーエムジー。ドイツ語読みしてもアーエムゲー。誰が言い出し、どう広まったのか定かではないが、どうやってもアーマーゲーとは読めないのでご注意を。

 EクラスにはE43とE63/63Sという3種類のAMGが存在する。前者は3ℓV6ターボ、後者は4.5ℓV8ターボを搭載し、いずれも4MATIC=フルタイム4WDを採用する。こう書くと、単なる搭載エンジンの違いのみに聞こえるかもしれないが、実は両者の間には大きな隔たりがある。E43は快適性も考慮したちょっと高性能なEクラス、それに対しトップグレードのE63Sは脳天まで突き抜けるようなパフォーマンスをもつ超弩級の高性能モデルである。

 太いタイヤを収めるべくグッと張り出したフェンダー、サイドサポートが大きく張り出した固いシート、迫力満点のエンジンサウンドなど、走り出す前からただならぬ存在感を示してくるE63Sだが、ATセレクターをDレンジに入れアクセルを軽く踏むと、さらに本性を露わにする。トルクコンバーターの代わりに油圧多板クラッチを組み込んだ9速AT(E43はトルコン式)は、わずかなギクシャク感を伴いながらエンジンとタイヤを繋ぎにいく。車庫入れ時など極低速域での扱いやすさには難あり。しかしその代わり、スポーツ走行時にはトルコンスリップのないダイレクト感を満喫できる。エアサスはかなり固い。荒れた路面では強く揺すられる。しかし段差での突き上げの角はちゃんと丸められ、強い入力に対してもボディは決して音をあげない。相当入念なボディ剛性向上対策を行っているに違いない。612psという途方もないパワーは途方もない速さを生みだしているが、それ以上に印象に残ったのは、そんなパワーにボディとサスペンションが負けていないこと。EクラスでありながらEクラスとは次元の違う化け物。それがE63Sの正体だ。

メルセデス ベンツ・Mercedes-AMG E 63 S 4MATIC +

車両本体価格:17,740,000円(税込)
全長×全幅×全高(mm):4,995×1,905×1,460
エンジン:DOHC V型8気筒ツインターボチャージャー付 総排気量:3,982cc
乗車定員:5名
車両重量:2,070kg
最高出力:450kW(612ps)/5,750~6,500rpm
最大トルク:850Nm(86.7kgm)/2,500~4,500rpm
JC08モード燃費:9.1km/ℓ
駆動方式:四輪駆動

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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