モタスポ見聞録vol.3 女子だけのプロレース始まる

文・藤島知子 写真・増田留美

 2017年5月14日、4輪モータースポーツ史に新たな1ページが刻まれた。「KYOJOカップ」がスタートしたのだ。

 競争女子選手権(KYOJOカップ)は今日より明日の成長を目指して切磋琢磨する私たち女性レーシングドライバーが競い合う世界初の女性プロレースシリーズである。スポーツの世界は男女の性差における体力の違いを考慮して、男女別で競われることが殆ど。それがモータースポーツの場合、公認レースの競技人口が少なく、女性だけの公式戦を成立させることは難しかった。日本では数十年前に女性レースがあったが、継続には至らなかったそうだ。ところが、ここに来て願ってもいない転機が訪れたのだ。

 「プロレーサーを目指す女性にスポットライトを当て、クルマ社会を活性化させたい」

 そんな思いでKYOJOカップの実現に尽力したのは、かつてはドライバーとしてル・マン24時間で日本人初の総合優勝を果たし、若手ドライバーの育成や日本のモータースポーツの発展に貢献してきた関谷正徳氏。まずは女性が参戦しやすい環境を整えることを提案した。レース参戦でハードルを下げるべく、「1台のマシンで2度レースを行う」という発想のもと、レース参戦者にマシンを提供してもらうべく協力をもちかけた。彼らが土曜日に開催されるFCR-VITAのレースで使用するマシンを提供し、同じマシンで翌日に女性のレースが行われる。マシンはウエスト レーシング カーズ製のレース専用車「VITA-01」。セミモノコックとスペースフレームを組み合わせたシャシーには先代ヴィッツRSの1.5ℓエンジンとHパターンの5速MTが搭載されている。女性レースの最低車重はドライバーを含めた580kg。パワステやABSなど、現代の市販車に用いられる電子デバイスは一切なく、溝付きの市販タイヤで走る。運転操作が如実に挙動に現れるマシンはドライバーのスキルが問われ、クルマの動きが分かりやすく、観客席からの見応えもある。

 レースの舞台となるのは世界一長いストレートと起伏のあるコースで知られる富士スピードウェイ。開幕戦に名を連ねたドライバーは13名で20歳前後の若手のレースエリートから、レース経験を重ねたベテランまで幅が広く、F4などのフォーミュラやドリフト経験者のほかにも、ヴィッツやN ONEレースの優勝経験者などの役者揃い。その中で本格的なレースマシンに乗るのは10年ぶりとなる私が参戦するのはある意味無謀な挑戦だが、女性同士で競えるという願ってもいないチャンスに迷うことなく飛びついた。

 開幕戦の注目度は想像以上に高く、サポーターやメディアが押し寄せた。トップ集団はスタート直後から彼女たちの闘志が溢れる壮絶なバトルが展開され、手に汗握るヒートに会場は沸いた。まだマシンを乗りこなし切れていない私は後方からのスタートで結果は惨敗。チームの期待に応えられないことは悔しいが、女性レースが本当のスポーツとして認められた瞬間に立ち会えたことは素直にうれしい。

 次戦は9月17日。すでに次の闘いは始まっている。

Tomoko Fujishima

レース活動を通じて得た体験をもとに、Web、雑誌、TV番組等で活躍するモータージャーナリスト。TV神奈川「岡崎五朗のクルマでいこう!」では2008年のスタート以来レギュラー出演している。

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