F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 PLUS vol.09 F1ファンを取り戻せ

 視聴者の好みが多様化しているから、という理由で片付けられるだろうか。国内ではプロ野球中継が地上波から消えて久しいが、欧州でのF1も苦しんでいる。

 ドイツの代表的な自動車ブランドであるメルセデス・ベンツは、2014年にコンストラクターズチャンピオンを獲得。所属するドイツ人ドライバーのN・ロズベルグはドライバーズチャンピオン争いを繰り広げた。メルセデスとロズベルグが活躍しているのは’15年も同様で(チャンピオンはチームメイトのL・ハミルトンが獲得したが)、ときおり、同じドイツ人で’10年から’13年まで4年連続でチャンピオンを獲得したS・ベッテルが割って入る構図だ。

 ドイツ人にとっては願ってもない展開のはずだが、爆発的な人気を得るには至っていない。メルセデスが強いのは大歓迎だが、あまりにも強くてワンサイドゲームがつづいているのが、疎まれている理由だろうか。こんなにドイツのメーカーやドライバーが頑張っているのに、’15年は予定されていたドイツGPが契約上の理由で中止になった。ドイツGPのないF1は55年ぶりであり、異常事態と言っていい(’16年の開催カレンダーには入っている)。

 F1が盛り上がらない理由をパワーユニット(PU)に求める風潮もある。’14年からは2種類のエネルギー回生システムを組み合わせた複雑なシステムの搭載が義務づけられているが、それによってPUを購入しなければならない独立系チームの資金的な負担が倍増し、開発資金が豊富なワークスチームとの差が広がり、F1をつまらなくしているという見方だ。

 PUを開発・製造しているメーカーは4社ある。メルセデス・ベンツとフェラーリ、ルノー、ホンダで、車体もひとつ屋根の下で開発しているのはメルセデスとフェラーリだ。’14年以降は動力源のシステムが複雑になったため、車体側とより緊密に開発を行う必要が出てきた。’15年のチャンピオンシップ上位2つをメルセデスとフェラーリが占めているのは、PUと車体を一体開発することの重要性を裏付けている。

 ルノーはレッドブルを重要なパートナーと位置づけて開発を行ってきたが、調子が上がらない原因を主にレッドブル側がなすりつけたことで不協和音が発生。ルノーはワークスチームの重要性を再認識し、ロータスを買収する方向で調整に入っている。ホンダはマクラーレンとの関係を強固にすることで、実質的にワークス体制として機能させる道を選択した。

 これではPUコンストラクターと同数のチームしか競争力を得られないので、’17年から独立系チーム向けに低コストで競争力の高いPUを導入するプランが持ち上がっている。PUの性能が拮抗すれば、競争が激しくなってレースはおもしろくなり、それにともなってファンも戻ってくるという読みだ。果たしてどうなるだろう。

ワークス系パワーユニットは技術の粋を集めて開発。一方、検討されている独立系チーム向けのパワーユニットはコストを重視するため、ストレートに開発したのでは性能面で劣ってしまう。そこで、独立系チーム向けパワーユニットには性能調整が施される方向。ワークス系コンストラクターがそれを受け入れるかどうか…。現行パワーユニットの控え目な音を物足りないとする声に応えるため、’16年のパワーユニットには排気系に改良が加えられ、現在より迫力のある音になる予定。

Kota Sera

ライター&エディター。レースだけでなく、テクノロジー、マーケティング、旅の視点でF1を観察。技術と開発に携わるエンジニアに着目し、モータースポーツとクルマも俯瞰する。

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