特集 日本のクルマはどこにいく

 日本を代表するクルマ産業は、景気の動向に左右されながらも発展を続けてきた。古くはオイルショックやバブル崩壊に打ちひしがれ、最近ではリーマンショクや3.11を乗り越えて、日本のクルマは進化しているように見える。

 スバルやマツダは欧州と同じようにメーカーの個性を前面に押し出し、レクサスはジャーマン3に対抗すべく走行性能に優れた高級車を生み出している。

 日本国内のクルマをとりまく状況は今、どうなっているのだろうか。また「モノ造り大国ニッポン」を代表するクルマはこの先どこへ向かっていくのだろうか。4人のモータージャーナリストにそれぞれの視点から意見を聞いた

三冠王を取れない日本のクルマ

 今、あるいは今まででもいいが、日本のクルマが「世界で一番カッコいい」もしくは「世界で一番速い」と言いきれる人がどれだけいるのだろう。あくまでも冷静にデザインや品質を振り返ってみてだ。確かに一時、日産GT-Rは速さで「ポルシェを越えた」と言われたが基本的にはドイツ・ニュルブルクリンク北コースでの話でその後はダントツでもないし、それ以前にGT-Rは世界一売れるスポーツカーにはならなかった。ましてや世界で一番美しいと言われた日本車を私はほぼ聞いたことがない。

 クルマの良し悪しを計る基準は山ほどあるし、人にもよるが当然セールスだけでは語れない。トヨタは2012年から現在まで3年連続で販売世界一に輝いているが、だからといって品質世界一とは言いがたく、それは世界で一番売れるハンバーガーがマクドナルドだとしてそれが「世界一美味しいハンバーガー」にならないのと同じだ。まして今やコストパフォーマンスでは一部の韓国車に追いつかれ、信頼性でも一時、現代自動車が北米で「10年10万キロ保証」を敢行した。

 そうでなくとも1989年にトヨタが「セルシオ」(北米ではレクサスLS)を、日産が「スカイラインGT-R」を、ホンダが「NSX」を、マツダが「ユーノス・ロードスター」を発表し、日本車が世界を驚かせてから26年。その間どれだけ進化したのだろう。

 レクサスLSはハイブリッド化し、今も日本を代表する高級車ではあるが、見た目や走りの楽しさはやっぱり控えめだし、初代NSXはビジネス的にはフェラーリ、ポルシェの敵にすらならず、今年出る新型は未知数。今、部門別に世界一と呼べそうなのはおそらく世界で一番売れているエコカーのトヨタ・プリウスや一番売れるオープン2シーターのマツダ・ロードスターぐらいだろう。

 ここからは私の独断と偏見だが、要するにクルマ世界一を計るモノサシに「台数」「利益」「個性」の3部門があるとして日本車はトヨタが「台数」「利益」で2冠王は取れそうだが「個性」は決定的に弱く、利益も「利益率」となるとポルシェやフェラーリに遠く及ばない。つまりざっと世界クルマ3冠王があるとしたら2冠王か、1.5冠王に過ぎないのだ。もちろんそれでも十分凄いのだが。

 もっと言うと最後の「個性」や「味わい」では徐々に引き離されているように感じる。例えばレクサスはメルセデスやBMWはもちろん、ロールスロイスやベントレーに追いついているだろうか。スポーツカーはどうだろう。もっと広げるとレーシングカーはどうか。今年ホンダがF1に復帰したが、勝利は先のまた先でしかもオールジャパンという意味では第三期より退化している。

 さらに怖いのは日本マーケットのパワーと質だ。今や年間約500万台と中国の5分の1程度に落ちた販売数もさることながら中身が問題。今や4割が軽自動車で、意外に走りや質感重視ではあるが、ざっくり「安さ」と「燃費」優先の姿勢は否めない。この変化こそが本当の意味で深刻なのだ。

 ドイツ車がなぜ良く走り、見た目が力強いのか。それは間違いなくアウトバーンがあるからであり、イタリア車がカッコ良いのは優れたデザイナーと享楽的な国民性により、韓国が日本車に迫っているのは歴史と精神構造によるところが大きい。

 日本車がエコで燃費がいいのは、日本が世界に冠たる平和主義社会で、低速社会だからで、逆にいうと今後日本車がエコで勝つことはあっても「強いデザイン」「しっかりした走り」で勝てるとは思えない。相変わらず競泳や体操や柔道でしかメダルを取れないオリンピックと同じだ。そう簡単に陸上短距離で世界一にはなれないのだ。

 トヨタが販売世界一になった、マツダが頑張っている、ホンダがF1に復帰した。しかし、世界における日本車のポジションは総合的にどうで、本当の意味で上がっているのか下がっているのか。そこは真剣に議論する価値があると私は考えている。

文・小沢コージ Koji Ozawa/写真・長谷川徹

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