おしゃべりなクルマたち Vol.76 SNS的オフ会について

 冬のはじめ、2つの自動車ミーティングに遭遇した。

 一つ目はシビック。通りかかった市民プールの駐車場の奥に20台ほどのシビック(ほとんどが初期モデル!)を見つけ何ごとかと尋ねたら、オタクふうの青年が「愛好家のちょっとした集まりですよ」と教えてくれた。地面に置かれたスピーカーから『what a wonderful world 』が流れていて懐かしさに胸が熱くなった。

 二つ目はVWビートル(当然、旧型!)で、財布を忘れた愚息に懇願されて出向いたのだが、こんな集まりに出掛けているとは知らず行ってみて驚いた。何に驚いたかって、見事なシャコタンや再塗装したぴかぴかのビートルより、この時期、半袖のTシャツにウールの帽子を被り、足元はVan’sのスニーカーという、愚息とまったく同じスタイルの若者がうじゃうじゃいたこと。財布片手に愚息を探して右往左往してしまった。

 ミーティングといえば印刷されたパンフレットが配られるクラブ主催のそれを想う私には、どちらも小規模の、友達の集まりふうだったが、それだけに濃厚で、クルマで遊んでます、そんな様子が実に楽しそうだった。愚息によればフェイスブックのおかげで、こういう自然発生的な集まりやツーリングが週末、たくさんあるのだという。 幹事がいるわけでも参加費用がかかるわけでもなく、場所は空き地、走るのは一般道、決まりごとの何もない”緩々の集まり “。性別、年齢も様々だそうで、セリカの時は「プロフ(教師)の研修かと思った」、愚息は言ったのだった。

 それにしても考えさせられてしまった。2つのミーティングに遭遇したのは、当地の国営放送局が1週間、ゴールデンタイムのニュースの最後に自動車特集を組んだ直後のこと。日替わりのテーマは燃費向上、電気自動車、新型レーダー、事故を予防する未来型道路などなど。立派な姿勢、有効な情報、ではありましょうが、思わず箸が止まるとか、見とれて味噌汁をこぼすようなことはまったくなかった。あー、クルマはがんじがらめになって行くう、これが感想。新技術満載の未来への取り組みを見ながらクルマに未来はないのかと思わずにはいられなかった。それだけに、遭遇したミーティングは国を挙げての立派な取り組みとはまったく違う次元でクルマで遊ぶ人々の存在を教えてくれてウレシかったが、同時に自動車の実用と遊びは違う道を反対方向に歩みはじめていることを痛感させられた。

 かつては使い方や乗り方といったクルマの実用と遊びの要素はだぶっていた。こういうだぶりから技術もデザインも装備も生み出されたのではなかったか。互いを縛り合い、抱き合いながら育ったのではなかったか。ところが時代が二つを引き離した。いや、くっついていたのでは身動き取れなくなったのだろう。さよーなら。元気でねえー。遊びが実用に見切りをつけたのか、実用が楽しみを切り捨てたのか、私にはわからない。わかっていることは私にとってクルマは楽しみだけでは不十分で、実用だけではツマラナイ、ということだけだ。いいコンビだったのに。

文・松本 葉
イラスト・武政 諒
提供・ピアッジオ グループ ジャパン

Yo Matsumoto

コラムニスト。鎌倉生まれ鎌倉育ち。『NAVI』(二玄社)の編集者を経て、80年代の終わりに、単身イタリアへ渡る。イタリア在住中に、クルマのデザイナーであるご主人と出会い、現在は南仏で、一男一女の子育てと執筆活動に勤しんでいる。著書:『愛しのティーナ』『どこにいたってフツウの生活』(二玄社)など。

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