F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Vol.53 リカルドの意外な躍進

 2014年シーズンはメルセデスAMGが圧倒的に強く、同チームに所属するニコ・ロズベルグとルイス・ハミルトンを中心にチャンピオン争いが展開している。だが、そこに割って入るドライバーがいる。しぶとい走りが身上のフェルナンド・アロンソ(フェラーリ)? それとも同じくフェラーリのキミ・ライコネン?5連覇を狙うセバスチャン・ベッテル(レッドブル)?

 いえいえ、ベッテルのチームメイト、ダニエル・リカルドだ。4年連続でF1を制したドライバーを尻目に強敵メルセデス勢に割って入っているのは、オーストラリアはパース出身、1989年7月1日生まれの若手ドライバーである。

 ’09年にイギリスF3のチャンピオンを獲得したリカルドは、’11年シーズン途中でHRTからF1デビューを果たし、翌’12年にトロロッソに移籍した。イタリア語で「レッドブル」を示すことからも察しがつくように、トロロッソはレッドブルの姉妹チームだ。オーストリア国籍でイギリスに本拠を置くレッドブルが1軍なら、イタリアに本拠を置くトロロッソは2軍扱い。チャンピオンを獲得するのが狙いではなく、実戦を通じてドライバーを育成し、レッドブルに優秀なドライバーを送り込むのが参戦の目的だ。

 その最大の成功例がベッテルである。BMWザウバーで代役出場した際の走りが認められ、’07年シーズン途中にトロロッソ入りしたベッテルは、翌’08年、雨のイタリアGPで自身初、かつチームにとっても初優勝を遂げる。その活躍などが認められて’09年に1軍、すなわちレッドブルに移籍すると、’10年から4年連続でチャンピオンを獲得した。

 ベッテルの華やかなキャリアと比較すると、リカルドの経歴は地味だ。’12年、’13年と2シーズンを過ごしたトロロッソ時代の最高位は7位である。優勝はおろか、表彰台も未経験だった。実力で1軍のシートを奪い取ったというより、WECに活躍の場を移した同郷の先輩、マーク・ウェバーが抜けたので、運良く空いた席に収まったと見えなくもない。

 ところがどうだろう。’14年シーズンが開幕してみると、リカルドはベッテルのお株を奪うような、賢く、速く、大胆な走りを披露。上位入賞の常連となり、ついに第7戦カナダで初優勝を遂げる。このときは上位の脱落に助けられた面もあったが、第11戦ハンガリーの2勝目は、終盤、ハミルトンやアロンソといった百戦錬磨のドライバーを実力で追い抜いての優勝だった。

 才能の花が開くタイミングがベッテルと違っただけなのかもしれない。リカルドの潜在能力を見抜いたチーム関係者の眼力を評価すべきだろう。勢いとは恐ろしいもので、計算上はタイトルに手が届く位置にいる。

リカルドといえば、白い歯を見せた笑顔がトレードマーク。表彰台慣れ(?)したベテラン勢とは対照的に、喜びをストレートに表現する姿が初々しい。ベッテルが不調から脱しきれないのは、排気を空力的に有効利用したがゆえ、特殊なドライビングテクニックを必要とした昨年までのスタイルが抜けきっておらず、異なる技術を要する今年のマシンに戸惑っているからだろうか。一方、特殊なテクニックが染みついていないリカルドにアジャストの必要はなく、伸び伸びと運転できているようにも見える。

Kota Sera

ライター&エディター。レースだけでなく、テクノロジー、マーケティング、旅の視点でF1を観察。技術と開発に携わるエンジニアに着目し、モータースポーツとクルマも俯瞰する。

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