オンナにとってクルマとは vol.46 マンナカニスタの女

  いつも、5人で1台のクルマに乗って撮影に出かけるメンバーがいて、その中の20代女性編集者Aちゃんは、いつの頃からか「マンナカニスタ」を名乗っている。

  Aちゃんが自分で決める指定席は、必ずリアシートの真ん中だ。というのも、運転席は私、助手席はモデルさん、残るカメラマンさんとスタイリストさんにリアシート左右席というように、Aちゃんはメンバー全員に気を遣い、いちばん狭く座りにくいであろう真ん中の席に、当然のように自分が収まるようになったのだった。撮影は毎回違うクルマだから、4年もの間、Aちゃんは様々なクルマの真ん中の席に座り続けていることになる。

  仕事でもプライベートでも、女性はAちゃんのように周囲に気を遣い、すすんで真ん中に座ることが多いのではないだろうか。私も先輩たちとタクシーに乗る時に、よくそうしている。シートベルトは締めにくいし、足の置き場には困るし、カーブで揺れてもつかまるところはないしで、タクシーにはろくな真ん中の席がない。お客を乗せるためのクルマなのだから、もうちょっと快適性を考えてくれても良さそうなものだと思う。

  「マンナカニスタ」Aちゃんはクルマに詳しいわけでなく、あまり運転もしない、ごく普通の20代女性だ。それでも、すっかり評論家になれるくらい、真ん中席の違いがわかるオンナに成長した。座面の座りやすさ、背もたれのフィット感、スペースのゆとり、シートベルトの締めやすさ、足の置き場の広さや安定感はもちろん、走行中の揺れや振動、身体がズレるかどうかなど、クルマによってぜんぜん違うのだと言う。

  撮影の企画上、扱うクルマはコンパクトカーが多く、価格は高くても280万円くらいが限度というラインアップではあるが、Aちゃんがこれまでに絶賛した真ん中席は、わずか3台だった。マツダ・CX-5、ホンダ・フィット(新型)、フィアット・パンダで、とくにCX-5は「パーフェクトに近い」とベタ褒め。さっそく私も試してみたら、平面に見えるのにお尻の収まりが良く、クルマの挙動による身体のグラつきが少ないから疲れない。さすがは、マンナカニスタのお墨付き。

  それにしても、他人を思いやって真ん中に座る女性の気持ちを、わかってくれるクルマはまだまだ少ない。ようやくヘッドレストやシートベルトが義務化された真ん中の席。今度はその快適性にも注目して、クルマづくりをして欲しい。

文・まるも亜希子

Akiko Marumo

自動車雑誌編集者を経て、現在はカーライフジャーナリストとして、雑誌やトークショーなどで活躍する。2013年3月には、女性の力を結集し、自動車業界に新しい風を吹き込むべく、自ら発起人となり、「PINK WHEEL PROJECT」を立ち上げた。

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