ジャガーが誕生したのは1935年のことだ。創業者はその名にちなみ、自社の製品に「気品とスピード」のイメージを重ね合わせたという。以来、流麗なスタイリングと性能の高さは、歴代モデルと切っても切れない関係となった。
ジャガーは1990年にフォードの傘下に入り、ランドローバーやボルボとともに高級車部門の一翼を担うことになった。いくつかの試行錯誤と紆余曲折を経て2008年にインドのタタ・モーターズ傘下に入り、現在に至る。
新生ジャガーは2ドアクーペのXKと、クーペライクな4ドアサルーンのXF、フラッグシップサルーンのXJをそろえる。XKとXFはフォード時代に初公開された。オールアルミボディのXJは、タタ傘下に入ってからの公開である。
これらジャガーの3モデルは、2013年モデルでパワートレーンを刷新した。従来は5L・V8スーパーチャージャーと5L・V8自然吸気、それに3L・V6自然吸気をそろえていたが、5L・V8自然吸気を3L・V6スーパーチャージャーに、3L・V6自然吸気を2L・直4直噴ターボに置き換えた。ヨーロッパを発信源に広がる「過給ダウンサイジング」の流れに乗った格好だ。
2L・直4直噴ターボを搭載するXJ・Luxuryは900万円のプライスタグを掲げるが、「2リッターで900万円もするの?」と感じたとしたら、考えが古い証拠である。排気量の大きなエンジンを積むほど高級という概念は古い。小さな排気量で十分な力を出しつつ、燃費を向上させるのが新しい価値観である。ジャガーはそこに気づいたから5L・V8を3L・V6に、3L・V6を2L・直4に切り替えたのだ。ジャガーを選ぶユーザーの価値観切り替わっていると信じたからこその英断に違いない。
XJとXFはエンジンラインアップを刷新すると同時に、トランスミッションを従来の6速ATから8速ATに切り替えた。エンジンの刷新と同様、効率向上のためだ。効率一辺倒かといえばそんなことはなく、ほれぼれする「気品」をたたえていることに驚いた。
パワートレーンを一新したXJは見違えるほどに色気があり、しなやかな乗り味になっている。オーナーが変わって元気をなくしているのでは、というのは思い過ごしで、作り手のモチベーションが内外装や身のこなしからにじみ出ている。
ジャガーはフォード傘下に入って以降、コストを重視する大量生産型の経営に呑み込まれて牙を削がれた格好だったが、実はその間、陰でじっくり気品という名の牙を磨いていたのだ。ベンチャーの気風が残る新オーナーがやって来てからというもの、持ち前の強みを存分に打ち出すようになった。フォード時代に学んだ堅実な経営センスを生かしながら。
そう考えると、伝統に寄りかからず前を見据えて進むリーピング・ジャガーが若々しく、そして頼もしく思えてくる。
文:世良耕太