岡崎五朗のクルマでいきたい Vol.194 夜の運転とメガネ

文・岡崎五朗

僕は普段メガネをかけていないが、最近、夜間運転中に遠くの表示板や矢印信号がぼやけることに気付いた。

 これはマズいと、近所のメガネ量販店へ。近視と乱視を補正するメガネを作ったところ、遠くはクリアになった。けれど今度は車内のメーターパネルがぼやけてしまう。とくにデジタル表示の小さな文字が読みづらい。もともと遠視気味の状態で近視を矯正したのだから当然だ。

 どうしたものかと悩んでいたとき、ニコン・エシロールが手掛ける運転専用の遠近両用レンズ「バリラックス・フィジオ・エクステンシー」の存在を知った。瞳孔の変化を考慮した設計で、薄暗い環境でも視界が崩れにくいという。半信半疑で試してみると、その効果は明らかだった。視界が「パキッ」と鮮明になり、メーターパネルはもちろん、遠くの標識も以前のものよりくっきり見えるようになった。
 メーカーによれば、このレンズは瞳孔が開閉しても光を効率よく網膜に届ける設計のため、夜間や曇天でもコントラストが落ちにくいのだという。

 いまさら気付いたのかよと思われるかもしれないが、よく見えるのはやっぱり気持ちがいい。ということで、運転用レンズに続きパソコン作業専用メガネもつくることにした。選んだのは、デジタル作業に特化した「バリラックス・デジタイム・ルーム」だ。画面までの距離を70cmに設定し、手元の資料やスマホを読むための遠視も加えた。

 この選択も大正解。とにかく目がラクになった。これまで無意識に「見よう見よう」と目を酷使していたのだろう。周囲から見ると、さぞかししかめっ面でキーボードを打っていたに違いない。画面だけでなく、スマホ画面や小さな文字の資料も格段に見やすくなった。

 ずっとメガネをかけている人にとっては当たり前のことかもしれないが、レンズの設計次第でここまで世界が違って見えることに驚かされた。価格は安くはないが、その価値は十分にある。カメラのレンズと同じで、メガネも一度いいものを体験するともう戻れない、という人の気持ちを59歳になって初めて理解した。運転用とPC用。用途に合わせてレンズを選ぶことで、日常は驚くほど快適になる。

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

定期購読はFujisanで