岡崎五朗のクルマでいきたい Vol.192 クルマをニッポンの文化に

文・岡崎五朗

2025年6月、トヨタの豊田章男会長が日本自動車会議所の会長に就任した。

 会議所とは自動車工業会や部品工業会、輸入車組合、JAFなどを束ねる自動車関係の最上位団体で、構成員は2,600万人に達する

 就任に際して豊田氏がアピールしたのは「クルマをニッポンの文化に」という言葉だ。

 日本の自動車は、技術と信頼性において世界に誇れる存在だ。しかし「文化」としての位置づけはいまだ低い。豊田氏はAIに「日本の魅力は何か」と尋ねたという。すると、和食、アニメ、治安、豊かな自然……自動車が出てきたのはその後だった。一方ドイツでは、まずクルマが出てくる。「正直、羨ましい」と彼は語った。

 この違いは、自動車税制にも表れている。ドイツでは旧車を文化財と見なし、クラシックカー登録の上で免税措置がある。これは、自国が誇る文化遺産を良好な状態で保存することを文化功労行為と位置づけているからだ。一方、日本は13年超のクルマに対し、環境負荷名目で問答無用で増税を課す。それがたとえトヨタ2000GTやスカイラインGT-Rといった歴史に残る名車であっても、増税である。この構図こそが、日本社会における自動車の位置づけを象徴している。

 ここで重要なのは、文化はただの文化ではないという視点だ。文化的な誇りと共感、そこから生まれる魅力的なブランドイメージは、クルマという商品の国際競争力にも直結する。かつての日本人が輸入車に強い憧れを抱いたように、従来の「壊れない」「燃費がいい」といった点に「歴史」や「物語」といった文化的付加価値が加われば、日本車の魅力にはさらに磨きがかかる。

 とりわけ中国の新興ブランドと競い合う際、文化的背景を持つブランドであることは大きな武器になる。そのためには、まずは自国で豊穣なクルマ文化を作らなければならない。

 「クルマをニッポンの文化に」 豊田章男という強力なリーダーの元、社会全体を巻き込んだ取り組みが始まろうとしている。ならば自動車メディアは何ができるのか。たぶん、やれることはたくさんある。

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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