5月20日に開催された「ビジネスアップデート2025」で、ホンダは新たなパワートレーン戦略を発表した。
2030年のBEV販売目標を20%に引き下げ、関連投資も3兆円削減。2027年からは13車種のハイブリッド新モデルを投入する。現実に即した妥当な判断である。一方で、2040年にグローバルで内燃機関車(HEV含む)を全廃するという長期目標に関しては「一切見直さない」とした。この目標は、2021年の社長就任会見で三部社長が打ち出したもので、背景には「バックキャスト」の考え方がある。2050年にカーボンニュートラルを実現するには、車両の平均保有期間を10年前後と仮定した場合、2040年の時点で新たに販売されるクルマには内燃機関を載せられない、というロジックだ。
だが、その根拠である「1.5℃目標*」は達成困難だという声が世界的に高まり、2.0℃、あるいは2.5℃を前提に政策の現実化を図る動きが広がっている。もし国際合意が2.0℃となれば、CO₂削減の必要量は1.5℃の80〜90%削減から60~70%に緩和され、2.5℃では40~50%に下がる。こうした水準であれば、再生可能燃料や高効率ハイブリッドを組み合わせることで、内燃機関の活用も選択肢として十分成立する。にもかかわらず、内燃機関の全廃を前提とする戦略に固執する姿勢には理念偏重の印象がある。現実に目をむけると、現場ではすでに、静かな構造劣化が進行しつつある。トランスミッションや燃料噴射系などの部品メーカーでは、新規開発の凍結や量産ラインの縮小が相次ぎ、若手の採用も止まりつつある。技能継承の断絶も深刻で、熟練工の退職に伴い、手作業の微調整を必要とする加工ノウハウが失われつつある。さらに、大学や専門学校の研究室も電動関連分野に予算が集中し、内燃機関関連の基礎研究が急速に萎縮している。こうした動きは表面化しにくいが、中長期的には国と企業の競争力をじわじわと浸食していく。
トヨタが採るマルチパスウェイ戦略のように、多様な技術選択肢を残す姿勢は、変化の時代において一つの強さでもある。掌返しとの批判を甘んじて受け止め、理念ではなく現実と向き合う。そして未来へのしたたかな道筋を描くことが、ホンダをはじめとする日本企業に求められていることだ。
Goro Okazaki