第21回 憧れた旧車に乗れる
―Vintage Club by KINTOが広げる
“旧車のコミュニティ”
文・ 黒木美珠
レストアと並んで、旧車コミュニティを築くことも「TOYOTA CLASSIC」の4つの柱のうちの一つである。旧車をもっと身近に感じ、もっと気軽に触れてもらう仕組みがここで紹介するVintage Club by KINTOである。
「若い頃に憧れていたクルマに、乗ってみたい」「あの名車を体験してみたい」――
利用者の年齢層を見ると、最も多いのは50代。そして意外なことに、それに次いで多いのが20~30代の若い世代だ。「わざわざオートマ限定解除して、乗りに来る方がいらっしゃるんですよ」と、担当者の方は嬉しそうに話してくれた。
その言葉に、筆者自身の過去が重なった。AT限定免許で運転していた20代前半、オートサロンの会場で目にしたホンダ・シビックタイプR(FK8)に一目惚れし、限定解除を決意。MT免許を取ってから納車までのあいだ、S660やハチロク、さらには32GT-Rなどをレンタカーし、練習していた日々を思い出した。
正直なところ、限定解除したばかりの初心者に貴重な旧車を貸し出すというのは、貸す側としてはかなり不安なことだと思う。それでも、あのとき味わった体験は、今でも鮮明に心に残っている。思い出すたび幸せな気持ちになれる、自分にとって大切な記憶だ。Vintage Club by KINTOのサービスは、まさにそんな熱い夢や憧れを持つ人たちに、旧車の魅力を味わわせてくれる貴重な存在だ。
クルマ好きをつなぐ“コミュニティの起点”
車両は常時10台前後をラインアップし、これまでにも5台ほどの“卒業車両”があったという。新しい車両の導入や卒業は、利用者の声を聞きながら慎重に決めている。
レンタカー車両を仕入れる際も、担当者自らが市場に足を運び、車両の状態や個性を見極めている。年式の古い車両ゆえに、色々と不具合が出てくる個体もあれば、修復不要な優等生もいるという。
卒業車両は、SNSを通じて次のオーナーを募集するケースもあるそう。その際は希望者との“面談”も実施。まるでクルマのお見合いのようなプロセスで、新たなオーナーへと託される。
車種を変え、場所を変えて体験する
レンタカーというと、「一度きりの乗車」と捉えがちだが、リピート利用も少なくない。中には、ラインアップされた全車両をコンプリートした猛者もいるという。
このサービスは、数ヵ月ごとに全国を巡るキャラバン方式で展開されており、「前回は東京で借りたけれど、今回は長野で同じクルマに乗ってみたい」と、地域ごとの道路環境や景色の違いを楽しむ利用者もいる。道が変われば、クルマの走り方も変わる。そんな違いを楽しめるのも魅力のひとつなのかもしれない。
そして、このサービスを支えるのが、SNSを通じたコミュニティの存在だ。総フォロワー数は7,500人(2025年3月時点)にのぼる。担当者は外出先などで気になる旧車を見つけたら、所有者に声をかけて撮影させてもらい、SNSに投稿することもあるという。ブランドやメーカーの垣根を越えた“旧車好き”のつながりが、少しずつ広がっている。
よろず相談から、幸せの量産へ
このコミュニティの広がりに伴い、「よろず相談」のような形で、修理やカスタマイズの相談にも乗るようになったという。メーカー問わず相談に乗っており、他で断られて最終的にここに行き着くという方もいるそうだ。
あくまで中心にあるのは、クルマを通じて生まれる人と人とのつながりだ。これはまさに、トヨタ自動車が掲げる「幸せの量産」というビジョンに通じるものではないだろうか。
Vintage Club by KINTO
黒木美珠/Mijyu Kuroki
―Vintage Club by KINTOが広げる“旧車のコミュニティ”
文・黒木美珠