次世代ジャーナリストがいく

第21回 憧れた旧車に乗れる
―Vintage Club by KINTOが広げる
“旧車のコミュニティ”

文・ 黒木美珠

レストアと並んで、旧車コミュニティを築くことも「TOYOTA CLASSIC」の4つの柱のうちの一つである。旧車をもっと身近に感じ、もっと気軽に触れてもらう仕組みがここで紹介するVintage Club by KINTOである。

TE27型 カローラ レビン(1974年式/MT)

RA25型 セリカリフトバック 2.0GT(1975年式/MT)

 「若い頃に憧れていたクルマに、乗ってみたい」「あの名車を体験してみたい」―― Vintage Club by KINTOヴィンテージ クラブ バイ キントのレンタカーサービスは、そんな願いを叶えてくれる存在だ。とはいえ、単なるレンタカー事業がこの取り組みの中心というわけではない。真の目的は、旧車を愛する人々が集い、つながり合う“コミュニティ”を築くことにある。

 利用者の年齢層を見ると、最も多いのは50代。そして意外なことに、それに次いで多いのが20~30代の若い世代だ。「わざわざオートマ限定解除して、乗りに来る方がいらっしゃるんですよ」と、担当者の方は嬉しそうに話してくれた。

 その言葉に、筆者自身の過去が重なった。AT限定免許で運転していた20代前半、オートサロンの会場で目にしたホンダ・シビックタイプR(FK8)に一目惚れし、限定解除を決意。MT免許を取ってから納車までのあいだ、S660やハチロク、さらには32‌GT-Rなどをレンタカーし、練習していた日々を思い出した。

 正直なところ、限定解除したばかりの初心者に貴重な旧車を貸し出すというのは、貸す側としてはかなり不安なことだと思う。それでも、あのとき味わった体験は、今でも鮮明に心に残っている。思い出すたび幸せな気持ちになれる、自分にとって大切な記憶だ。Vintage Club by KINTOのサービスは、まさにそんな熱い夢や憧れを持つ人たちに、旧車の魅力を味わわせてくれる貴重な存在だ。

レンタル車両のレストアやメンテナンスは、この事業のパートナーである新明工業で行なっている。

クルマ好きをつなぐ“コミュニティの起点”

 車両は常時10台前後をラインアップし、これまでにも5台ほどの“卒業車両”があったという。新しい車両の導入や卒業は、利用者の声を聞きながら慎重に決めている。

 レンタカー車両を仕入れる際も、担当者自らが市場に足を運び、車両の状態や個性を見極めている。年式の古い車両ゆえに、色々と不具合が出てくる個体もあれば、修復不要な優等生もいるという。

 卒業車両は、SNSを通じて次のオーナーを募集するケースもあるそう。その際は希望者との“面談”も実施。まるでクルマのお見合いのようなプロセスで、新たなオーナーへと託される。

(左上から右に)MZ11型 ソアラ2.8GT-Limited(1982年式/AT)、GA61型 セリカXX 2000GT(1985年式/MT)、UCF10型 セルシオB仕様(1991年式/AT)※期間限定、JZA70型 スープラ 2.5GTツインターボ エアロトップ(1992年式/MT)、HZJ77HV型 ランドクルーザー”70”(1995年式/MT)、JZX100型 チェイサー ツアラーV TRDスポーツ(1998年式/MT)

車種を変え、場所を変えて体験する

 レンタカーというと、「一度きりの乗車」と捉えがちだが、リピート利用も少なくない。中には、ラインアップされた全車両をコンプリートした猛者もいるという。

 このサービスは、数ヵ月ごとに全国を巡るキャラバン方式で展開されており、「前回は東京で借りたけれど、今回は長野で同じクルマに乗ってみたい」と、地域ごとの道路環境や景色の違いを楽しむ利用者もいる。道が変われば、クルマの走り方も変わる。そんな違いを楽しめるのも魅力のひとつなのかもしれない。

 そして、このサービスを支えるのが、SNSを通じたコミュニティの存在だ。総フォロワー数は7,500人(2025年3月時点)にのぼる。担当者は外出先などで気になる旧車を見つけたら、所有者に声をかけて撮影させてもらい、SNSに投稿することもあるという。ブランドやメーカーの垣根を越えた“旧車好き”のつながりが、少しずつ広がっている。

旧車に乗りたい! とAT免許を限定解除してレンタルするお客様もいるとか。新車と比べるとクルマの扱いは簡単というわけにはいかないので、車両ごとに細かな取扱説明書を作ってお渡ししているという。

よろず相談から、幸せの量産へ

 このコミュニティの広がりに伴い、「よろず相談」のような形で、修理やカスタマイズの相談にも乗るようになったという。メーカー問わず相談に乗っており、他で断られて最終的にここに行き着くという方もいるそうだ。

 あくまで中心にあるのは、クルマを通じて生まれる人と人とのつながりだ。これはまさに、トヨタ自動車が掲げる「幸せの量産」というビジョンに通じるものではないだろうか。


Vintage Club by KINTO

“モビリティサービスを提供する企業として一人ひとりの「移動」に「感動」を”というヴィジョンを掲げているKINTOが、旧車に気軽に触れる場をつくり、お客様と一緒に旧車を楽しもうという目的で立ち上げたコミュニティ。レンタルの情報などはインスタグラムなどのSNSを通じて展開されている。https://vintage.kinto-jp.com

黒木美珠/Mijyu Kuroki

1996年生まれ。スーパーGT観戦やS2000を所有する祖母とのドライブなどで幼少期からクルマに親しむ。YouTubeも開設しており95日連続車中泊の日本一周や試乗会での新車紹介などを配信している。目指すは「クルマの能力だけでなくその背景にある作り手の想いなども伝えられるジャーナリスト」。(YouTube「AUTO SOUL JAPAN 旧みじゅ【車と洗車ちゃんねる】」は下のQRコードから)

第21回 憧れた旧車に乗れる
―Vintage Club by KINTOが広げる“旧車のコミュニティ”
文・黒木美珠


定期購読はFujisanで