岡崎五朗のクルマでいきたい Vol.187 気付かないフリ

文・岡崎五朗

ニュースでよく目にするCOP。国連気候変動枠組条約締約国会議の略だ。

 今年は29回目の会議がアゼルバイジャンのバクーで開催されたのだが、議論の内容がとんでもないことになっていることを報じた国内メディアはほとんどない。過去には’97年のCOP3で京都議定書、’15年のCOP21でパリ協定が締結され、温暖化防止のための道筋が示された。それが現実的であったかどうかは別として、紆余曲折を経ながらそれなりの成果を出してきたCOPだが、ここに来てついに空中分解の危機に瀕しているのだ。

 先進国が温暖化防止のために各国に二酸化炭素排出量削減を要請しているのはご存じの通り。しかし新興国にしてみれば、「お前らが発展と引き換えにこれまでじゃんじゃん出してきた尻拭いをどうして俺たちがしなければならないんだ」となる。それはそれで正しい。そこで先進国は資金援助を申し出るわけだが、新興国の要求額が毎年200兆円なのに対し、先進国が提示したのは46兆円とまったく折り合わない。普通の国際会議ならなんとかお互いの妥協点を探るものだが、温暖化で地球が滅亡するならカネに糸目を付けてる場合じゃないだろう? と、彼らは強硬な姿勢を崩さない。しかもその46兆円にしても、二酸化炭素排出量世界1の中国は「われわれは新興国だ」と言って払う気は毛頭なく、パリ協定から脱退した2位のアメリカも、3位のインドも4位のロシアも払わない。じゃあいったいどこが払うのかといえば、主だったところでは欧州、カナダ、日本ぐらい。つまり日本の負担は少なく見積もって年間数兆円。年収130万円の壁撤廃を「税収が7.6兆円減るから」と渋るような国が、果たしてそんなカネを払えるのかといえば不可能に決まってる。他の国も同様だ。ましてや200兆円なんてまったくもって話にならない。

 果たしてこの騒ぎに着地点はあるのだろうか。少なくとも僕には皆目見当がつかない。それでもCOPは毎年開催されることになるだろうが、着地点のない議論ほど無意味なものはない。おそらくは会議の参加者全員がそれに気付きつつ、しかし当分の間は気付かないフリをしてやってる感だけを出していくのだろう。

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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