次世代ジャーナリストがいく 第14回 クラウンは昔も今も、人々の憧れ ~THE CROWN 東京虎ノ門~

文・黒木美珠/写真・長谷川徹

2025年に生誕70年を迎えたトヨタ クラウン。

初代クラウンが発表されたその地に、新たなクラウン専門店がオープンした。ここは「売る」ための場所ではなく、お客様との「絆」を紡ぐ場所だという。多様な時代を背景に、ユーザーへの“クルマの届け方(販売の仕方)”も変化している。

 東京の中心、虎ノ門に位置するクラウン専用ショールーム「THE CROWN 東京虎ノ門」。ここはクラウンの歴史(過去)、現在、そして未来を体感できる特別な場所だ。

 ここはただクルマを展示するだけでなく、ただ売るだけでもない。訪れる人々にクラウンというブランドが持つ価値を直接感じてもらうための空間である。

 初代クラウンは1955年1月7日に、東京トヨペット虎ノ門本社で発表された。そして、ちょうどその70年後にあたる2025年1月7日、まさにその同じ場所に、THE CROWN 東京虎ノ門がオープンしたのである。

 初代クラウンが誕生した当時、トヨタは主にトラックなどを製造していたが、日本初の国産乗用車としてクラウンを世に送り出し、大きな注目を集めた。

 発表当時、現在と同じ虎ノ門の地に建つ2階建てのショールームには、約1万8,000人もの見学者が訪れ、その熱狂ぶりが記録に残されている。

 その後、現在の16代目クラウンに至るまで、象徴的な言葉として思い浮かぶのが「いつかはクラウンに」である。この「に」がつくということについては、今回の取材で初めて知ったが、多くの人が一度は耳にしたことのあるフレーズではないだろうか。当時のクラウンがいかに憧れの存在であり、手の届きにくい高嶺の花であったかが伝わってくる。

 しかし、時代は変わり、現在のクラウンは、当時とは大きく異なる役割を担おうとしている。「いつかはクラウンに」という言葉に象徴されるような、豊かさの象徴としての地位から、今では「クラウン群」として人々の多様なニーズに応える新たな挑戦を続けているのだ。それは、時代の変化に対応しつつ、クラウンという名を絶やさないための努力の賜物だと感じる。クラウンが進化を続けられたのは、作り手たちが「どうすればクラウンが憧れの存在であり続けられるのか」を真剣に考え続けた結果ではないだろうか。

 現在の虎ノ門ショールームでは、最新モデルに加え、歴代クラウンのカタログや初代開発責任者である中村健也氏の追悼本など、クラウンの歴史と想いを伝える展示が並んでいる。

 ショールームに足を踏み入れた瞬間、クラウンが単なる高級車ではなく、日本の自動車文化そのものの象徴であることを改めて感じた。70年前、誰もが憧れたクラウン。そして現在、多様なニーズに応えながら新たな役割を担うクラウン。ここには、その両方を肌で感じることのできる空間が広がっている。

 このショールームの特長は、クルマを売ることだけを目的としていない点にある。「クラウンを中心に人と人が交わる場を作り、新たな“絆”を生み出したい」という理念のもと、クラウンが築いてきた価値や作り手の想いを現代の人たち、そして後世にまで伝える役割を担っているのだ。

「ここはね、クルマの話をしにぶらっと立ち寄ってくださるだけでいいんですよ」と語るGrand Meisterの伊藤 裕さん(トヨタ モビリティ東京)。

 それゆえに、訪れる人が「買うつもりがなくても気軽に立ち寄れる場所」として設計されており、従来のディーラーにありがちな〝買わないなら入りにくい”といった敷居の高さを感じさせない。

 正直なところ、ディーラーという場所には「かなり買う意思がないと気軽に行けない」「行けば営業されて疲れる」というイメージが私にもあった。しかし、この店舗ではそのような堅苦しさはなく、むしろ軽い気持ちで訪れられる、いやそういう“気軽な気持ちで訪れてもいいのだ”という懐の深さに驚かされた。その気軽さこそ、ここを訪れた人たちがクラウンの魅力に自然と引き込まれ、気がつけばクルマへの興味や関心が高まっていくきっかけになるのではないだろうか。

 またここにはポルシェなど他ブランドの高級車からクラウンへの乗り換えを検討する来場者も多いそうだ。その理由の1つが、クラウンの高性能と洗練されたデザインである。クラウンは、単に欧州車やラグジュアリーブランドと肩を並べるだけでなく、独自の魅力を持って他ブランドを超える価値を提供できるクルマだと確信させるものがある。

 「THE CROWN 東京虎ノ門」は、クラウンの歴史と現在を共有し、その価値を多くの人々に届ける拠点だ。ここで体験するクラウンの魅力は、単なる商品説明を超えた、日本車としての誇りと未来への希望を感じさせる特別なものである。クラウンファンはもちろんのこと、これまでクラウンに触れたことのない人々も、その魅力をぜひ一度体感してほしい。

ショールームのデザインコンセプトは「和モダン」。日本の伝統を今に活かす意匠がふんだんに散りばめられている。ショールームではそんな話をじっくり聞くのも楽しそうだ。

THE CROWN東京虎ノ門

住所:東京都港区虎ノ門1-2-13
Tel:03(6369)9845
営業時間:10:00~17:00

黒木美珠/Mijyu Kuroki

1996年生まれ。スーパーGT観戦やS2000を所有する祖母とのドライブなどで幼少期からクルマに親しむ。YouTubeも開設しており95日連続車中泊の日本一周や試乗会での新車紹介などを配信している。目指すは「クルマの能力だけでなくその背景にある作り手の想いなども伝えられるジャーナリスト」。


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