Keep on~続けていくために

これまで当たり前だと思ってきたことを続けていくには厳しい時代になったように思う。

世の中の状況が大きく変わり、それに伴って社会の価値観も変わっていくのだから、当然のことなのだろう。しかし時代の潮流に流されずに守り続けて行きたいこともある。

ライダーの家族を守るHYODの
エアバッグ

文・まるも亜希子 写真・淵本智信(バイク)

RIDER:SEI KAMIO・ARAI HELMET/ HYOD PRODUCTS /JAPEX(GAERNE)

 街が目を覚ます少し前、「カチャ」と、玄関が閉まる音をベッドの中で聞きながら「今日も無事に帰ってくるように」と願って再び眠りに落ちる。あまり気にかけないようにしているが、ニュースで交通事故の情報が入るとドキリとし、夫と関係がないことを確認して安堵する。夫婦でも親子でも恋人でも、きっと大切な人がバイクに乗る人なら、「ただいま」と帰ってくる姿を見るまでは同じような心配を抱えて過ごしているのではないだろうか。本人が好きで乗っているのだから、「乗らないで」とは言い難い。けれど待っている自分にも何かできることはないかと考えてしまう。食事や睡眠で体調を整えてあげたり、穏やかな気持ちでバイクに乗れるようケンカをしないようにしたり、ライディングギアが壊れていないかを確認したり。できる限りのことはやっているつもりでも、それは玄関を出るまでの間だけ。バイクで走り出してしまったら、あとは無事を祈ることしかできないもどかしさを感じていた。

 そんな時に知ったのが、HYOD(ヒョウドウプロダクツ)のエアバッグ「HYOD AIR-BOOST」だ。高品質・高機能な革にこだわったレーシングスーツの作り手として知られるHYODが、なぜエアバッグの開発に着手したのか。そこには、創始者である兵藤満昭から脈々と受け継がれる想いがあるのだという。

 モータースポーツシーンで多くのライダーたちの要望に誠心誠意応えながら、レーシングスーツを提供してきたHYODは、ライダーにとってそれが“命を守る道具”でもあることをよく理解している。0.1秒を削り取るため、ピットを出ていくライダーたちを見送るのは、家族を見送る気持ちと同じだったのだろう。しかしどんなに心を込めて作ったものでも、命を守りきれないことがあるとすれば、それは痛恨の極みであるはずだ。まだ二輪車のエアバッグが夢のまた夢の時代だった頃、「もし、バイク用のエアバッグがあったなら」。そこからエアバッグの商品化は悲願となっていたのである。

「AIR-BOOST」本体(¥54,890)の 他に「In&box」(背中部分に装着)を機能させるため、月額1,700円からというサブスクが必要になる。スマホに専用アプリをインストールすることで、「ストリート」、「トラック(サーキット)」、「アドベンチャー」といったモードの設定や動作状況の確認、サブスクの管理などができる。紹介制度があり、紹介した人もされた人も3ヵ月の利用料が無料になる(12人まで実質3年間)というのも嬉しい。「安全の輪」を広げていきたいというスタンスがHYODらしい。ちなみにインフレーター(ガス発生装置)は、エアバッグ膨張後も容易に交換できる。

 そして長い年月をかけて、ついに「HYOD AIR-BOOST」は、今年の6月に発売となった。ジャケットやスーツのインナーとして着用できるデザインとし、着用時に身体の動きを邪魔しないフィット感にとことんこだわった。ライダーにケーブルやセンサーを取り付けなくてもわずか0.03秒で転倒リスクを検知し、路面に叩きつけられるよりも前に0.025秒でエアバッグが膨らむ高性能な安全性を実現した。1秒に1,000回という緻密な測定と2億5千㎞/10万人にものぼる走行データに基づく独自のアルゴリズムが構築されており、その頭脳はすべてエアバッグに装着した「In&box」に集約されている。ライダーの致命傷として頭部の次に多いのが胸部だというが、膨らんだエアバッククッションにより胸部・腹部・頸部・脊椎のエリアを保護するので、飛躍的に安全性を高めてくれるのだ。

 二輪用エアバッグの装着率は、サーキットでは「鈴鹿」と「もてぎ」で55歳以上のライダーに着用が義務付けられたことから、徐々に上がっているというが、ストリートではまだ少数派らしい。夫は娘を後ろに乗せて出かけることもあるため、自分と娘のプロテクターを購入して普段から安全性には気を遣っている。しかしエアバッグに興味は示しているものの、少し値が張るため家計に遠慮しているのか、今のところ購入にはいたっていない。けれどもうすぐ、誰かを想って贈り物を選ぶクリスマスがやってくる。「HYOD AIR-BOOST」を夫にプレゼントすれば必ず使ってくれるはずだ。これはバイクに乗る家族への贈り物にぴったりだなと思った。玄関を出ていく大切な人に向けて、待つ人ができることがここにある。

Akiko Marumo

自動車誌『Tipo』を経て独立。10年に渡って本誌で女性視点のコラムを連載したほか、『浮谷東次郎を知った夏』『堀ひろ子という友人』を執筆。『岡崎宏司のクルマ美学』『マン島TTに挑戦した松下佳成』など、インタビュー記事にも定評がある。

100年先まで
ランクルは生き続けられるのか

文/写真・徳田悠眞

ランドクルーザー “300”

車両本体価格:¥5,100,000~(税込)
*諸元値は、ZX(3.3L ディーゼル・5人乗り)
全長×全幅×全高(mm):4,985×1,980×1,925
エンジン: V型6気筒インタークーラー付ツインターボ 総排気量:3,345cc
車両重量:2,550kg 定員:5名 最高出力:227kW(309PS)/4,000rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/1,600~2,600rpm
燃料消費率:9.7㎞/L(WLTCモード)
駆動方式:4輪駆動(フルタイム4WD)

 昨年、ついに愛車となったトヨタランドクルーザー300。人生一度きり、乗りたいクルマには乗る。気になるクルマはできる限り身銭を切って評価する。そんな思いもあり、大枚をはたいて購入したのだが、そもそもなぜランクルに乗りたいと思ったのか?

 1951年のBJ型から始まったランクルの本質的価値は“どこへでも行き、生きて帰ってこられる”こと。1955年に登場した20系を皮切りに輸出が本格的に始まり、2019年にはグローバル累計販売台数が1,000万台を超え、約170の国と地域で活躍する。それほど多くの人々に愛され、過酷な環境で重宝されるのは核となる“耐久性・信頼性・悪路走破性”が評価されているからだ。そんなランクルだからこそ筆者もハンコを押した。昨今は異常気象による災害も多く、南海トラフ巨大地震も近いうちに起こると言われ続けている。自身の命を自らが守る「自助」が最も重要と言われるように、有事の際に生死を分けるのは己の行動だ。「ランクルがあって助かった」。そんなことを口にする日は訪れてほしくないのだが、甘いことは言っていられない。

 一方、純粋なカッコよさだったり、装備の充実っぷりに惹かれたのも事実である。加えて、300シリーズはオフロード性能だけが突出しているわけではなく、オンロードでの快適性も高い。愛車で様々な土地へ足を運んでみると、ロングドライブをそつなくこなすことに感心させられた。というわけで、筆者のランクルはほとんど舗装路しか走っていない。つまり、核部分を重要視しながらもステータス性や豪華さといった別要素も現代のランクルには強く求められている。もちろん、働くクルマや北の大地などにおいて一定の需要があるのはたしかだ。しかし、ランクルオーナーの大半はキレイなアスファルトの上を走るに留まっているはず。それが国内の実情ではなかろうか。

 では、時代の変化とともにプレミアム性を追求することが全てなのか。ランクルが本来あるべき姿はタフであること。単なるSUVではなく、“生きて帰ってこられる”クルマなのだ。つまり、一定のニーズに応えることは必要ながらも、全てを高級路線にシフトさせる必要はなく、間違っても、“ランクル的”な存在になってはいけないのだ。となると、気になるのが3モデルで展開する現代のランクルたち。実際に、筆者が所有する300シリーズは装備の充実さやツアラーとしての快適性だけでなく、走破性も当然ながら高い。70シリーズは姿を見れば語るに及ばないだろう。250シリーズは最新デバイスも投入し、オンオフの両立を図った中核モデルだ。そして、いざ乗ってみると、核となる部分を守り抜いた走りがあり、いずれもランクルらしさに溢れていた。カタチこそ変われど、根幹は何も変わっていない。そんな思いを秘めて“ランドクルーザー”という車名に統一を図ったのかもしれない。

 ランドクルーザーはほぼ全世界から必要とされている。だからこそ時代の変化に柔軟な対応が求められる。最新世代の250シリーズは5種類あるパワートレーンのうち、2種類がハイブリッド版。豪州・西欧向けに2.8Lディーゼルエンジン×48Vシステムのマイルドハイブリッド、北米・中国向けに2.4Lガソリンエンジンターボハイブリッドを設定した。環境規制は国によって様々だが、電動パワートレーンを先行投入した地域は規制が非常に厳しいと捉えられる。これも時代にマッチしたやり方だ。また、ジャパンモビリティショー2023のトヨタブースに出展されたのはBEVの「ランドクルーザーSe」。これもまた、100年先までランクルが生き続けるためには必要な変化なのかもしれない。はたしてそこに“らしさ”はあるのか? それとも…。今後もシリーズの動向に目が離せない。

ランドクルーザー “250”

車両本体価格:¥5,200,000~(税込)
*諸元値は、ZX(ディーゼル 4WD・7人乗り)
全長×全幅×全高(mm):4,925×1,980×1,935
エンジン: 直列4気筒 総排気量:2,754cc
車両重量:2,410kg 定員:7名
最高出力:150kW(204PS)/3,000~3,400rpm
最大トルク:500Nm(51kgm)/1,600~2,800rpm
燃料消費率:11.0㎞/L(WLTCモード)
駆動方式:4輪駆動(フルタイム4WD)

ランドクルーザー “70”

車両本体価格:¥4,800,000(税込)
全長×全幅×全高(mm):4,890×1,870×1,920
エンジン: 直列4気筒 総排気量:2,754cc
車両重量:2,300kg 定員:5名
最高出力:150kW(204PS)/3,000~3,400rpm
最大トルク:500Nm(51kgm)/1,600~2,800rpm
燃料消費率:10.1㎞/L(WLTCモード)
駆動方式:4輪駆動(パートタイム4WDシステム)

ランドクルーザー Se

昨年開催された『ジャパンモビリティショー2023』において3列シートを備えるコンセプトモデル「ランドクルーザーSe」(スポーツエレクトリック)が公開された。全長5,150mm、全幅1,990mm、全高1,710mmと、現行モデルに比べて低く大きい。バッテリーのスペースを確保するためか、ランドクルーザー伝統のラダーフレームではなくモノコック構造となる。

徳田悠眞/Yuma Tokuda

1992年生まれ。自身のYouTubeチャンネル「GOOD CAR LIFE Channel/ゼミッタ」 にてニューモデル紹介や愛車レポートを行うほか、Web媒体でコラムを執筆。現在はランクル300やシビックタイプRなど最新モデル9台を所有。気になる車種は買って評価を行う。目指すは「YouTuberと自動車ジャーナリストのハイブリッド型」。


「Keep on~続けていくために」の続きは本誌で

これからのパーソナルモビリティを考える~SUZUKI e-PO 山下 剛
スーパーカーに憧れた最後の世代 濱口 弘
ライダーの家族を守るHYODのエアバッグ まるも亜希子
カーボンニュートラルとモータースポーツ 世良耕太
100年先までランクルは生き続けられるのか 徳田悠眞


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