7月17日にスズキが「技術戦略説明会」を開催した。
真っ先にスクリーンに映し出されたのが「小・少・軽・短・美」という行動理念だ。小さくて軽くて短いクルマはつくる材料や使うエネルギーが少ない。そしてそういうクルマは美しいのだと。この種の説明会で、これほどまでの正論を冒頭から突き付けてきた例を僕は他に知らない。
もちろん、クルマは移動の手段であると同時に、人間の煩悩を投影する商品でもあるわけで、世の中のすべてのクルマが「小・少・軽・短・美」になる、あるいはなるべきだというのはちょっと無理な話だろう。とはいえ、レアメタルを大量に使った巨大バッテリー搭載の2トンを悠に超えるEVがエコカーとして様々な恩典を受けている現状へのアンチテーゼとして、メガトン級の説得力があったことは間違いない。EVならどんなに大きくて重くてもエコなのか。いやいやそうではないだろう、というのがスズキの考えだ。小さくて軽いEVなら小さなバッテリーとモーターで済み、使う材料もエネルギーも少なくて済む。もちろん、同じことがエンジン車にも言える。
考えてみれば当然だが、スズキの凄さはその徹底ぶりだ。これも説明会の中で出てきた話なのだが、ネジひとつとっても1㎜短くすれば材料が少なくなり、軽くなり、組み付け時の作業量も減る。だからわれわれはそういうところにも徹底的にこだわると。10年先を見越した技術戦略説明会の場でそういうミクロな話が出てくることこそが、スズキが唯一無二の個性をもつメーカーであることの証明だ。
極めつけは、「100㎏軽量チャレンジ」を掲げた次期アルトの開発目標。もしそれが実現すれば600kg切りを達成することになる。衝突安全性能を高めながら本当に100㎏も軽くできるのか? というメディアからの質問に対し、鈴木俊宏社長は簡単なことではないと断りつつも、「現代のクルマは贅沢になりすぎているのではないか。スイッチ類や内装の樹脂製トリムはもっと減らせるはず。トリムをなくしても技術とデザインで美しいインテリアは作れると思っている」と具体例を示しつつ自信を示した。600㎏を切る美しいコンパクトカーと聞いてワクワクしたのはきっと僕だけではないだろう。
Goro Okazaki